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待ちわびながら待ちぼうけ

カレンダーに印なんてつける派じゃないんだけど。


丸をつけた日まであと7日。ちらりとそれを見やりながら、トウカは黙々と課題をこなしていた。

欠席のぶん成績に充当するからか、普段出されている量よりも多い。10日間みっちりとやらなければ終わらないだろう。家事などの最低限のことを除いてずっと課題漬けだ。

逆に助かる。そうでなければそわそわと落ち着かない時間を過ごしていただろう。待つだけの時間に耐えきれなくなって、ちょっとだけ様子を見るだけだからと言って外に出ようとしていたはず。何かしらエンジュの役に立つような成果を出そうと聞き込みなどしてみて、妙な連中に見つかって悲惨な目に遭うなんて未来があったかもしれない。大量の課題は気を逸らすのに最適だった。


とはいえ。課題ばかりでは息が詰まるのも確か。


「……よいしょっと」


ぐっと伸びをして立ち上がる。リビングのテーブルに広げていたノートを片付け、一息入れようと台所へ。やかんに水を入れて火にかけて、沸くまでの数分にカップを用意する。粉を溶かすだけの簡単なカフェオレを作ってからソファに戻る。

その間、エンは足元を邪魔にならないようついて回り、アンラの鳥もとい唐揚げはじっとコートハンガーのてっぺんで微動だにしない。もう慣れてしまった光景だ。はふはふとカップに息を吹きかけながら、ぴ、と受話器のスイッチを押す。


電話での連絡はぎりぎり許されている。電話越しにどうこうできるような術を又木どもは持っていないからだ。

誰に会うこともできないがどうしても人寂しくなったら電話はしていい。だが、トウカはその権利を行使しない。これだけぎっちりと守護を固めているのだ。電話はその輪を内側から破るような気がしてできない。事の重要性を認識しているからこそ、自分からは外部と接触しない。自分が外に電話をかけるのは緊急事態の時だけだ。


だから電話は外部からの連絡を受ける時だけ。緊急用の連絡先以外からの着信はすべて留守番電話で。

自分で決めたことだ。そこまでしなくてもいいと言われるかもしれないが、そこまでしないと気がすまなかった。これだけの守護を徹底してくれたのだ、自分もそれなりの警戒心を持つべきだろう。

守り人の婚約者側の都合でしばらく学校に来られない。それだけ聞かされている友人らは授業後の時間を使い、今日あったことを留守番電話に吹き込んでくれている。10日間引きこもっている間に世間の話題に置いていかれることはなさそうだ。


と、いうわけで。本日の留守番電話をのんびり聞く時間だ。

カフェオレを飲みながら再生ボタンを押す。あまり音質のよくない録音機能が音声を再生し始めた。


内容はほとんど他愛もない。やれ今日の授業は眠かっただの、クジウラさんの庭に新しい喫茶店ができただの。可愛い雑貨屋を見つけたから今度行こうとか、来年の春は桜のモチーフが流行りそうだとか。

まったく内容がない話ばかりだが、トウカはきちんと耳を傾ける。人寂しさからではなく、この話から何か拾えないかと情報を期待して。

そういえば、エンジュもトウカが語る話に耳を傾けてくれていた。熱心すぎるくらい。あれはトウカの何気ない話から情報を拾おうとしていたのか。それとまったく同じことをしながら留守録音声を聞く。必要ならばメモを取りながら。


これが何かの役に立てばいい。エンジュが帰ってきたら見せてみよう。そんなことを考えてペンを走らせていたら、話題はフユミが引っ越したことに移っていた。


「誰だっけ? …………あぁ」


誰だっけと記憶を掘り返して思い出した。同じクラスのあの子だ。創作でしか見ないような修羅場に興奮して根掘り葉掘り聞いてきたあの子。

曰く。トウカが休校し始めて翌日、つまり一昨日に急にいなくなった。親しい知人に挨拶もせず、ふっと消えるように。これを報告する友人自身も、寮に出入りする業者から聞いた。業者が言うには隣の洛鹿里に移住するそうだ。家具などを持ち出すよりあちらで新しく買ったほうが早く安く済むそうなので、この部屋のものも彼女の実家のものも含め処分するそう。それで1日で綺麗さっぱり部屋は空になり、今は壁紙の張り替えや設備の点検などのリフォーム作業をしている。


急にいなくなったことに何か直感を感じつつ、今の話をメモしておく。そういえば学校にも又木が潜んでいて勧誘活動をしているとか、そんな疑惑があったと紙の端に書き留める。関連があるのか、きっとあるだろう。その答えを7日後に聞くかもしれない。


「……よし、ご飯にしよう」


そんなこんなで録音の再生終了。さくっとご飯を食べて課題の続きをしよう。

今日は何にしようかなと考えながら、エンジュが買いだめしておいてくれた食材を見る。足の早いものから使っていかないと。


「鶏肉にしようかな……あっ!」


違う違う、唐揚げちゃんは関係ないから!

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