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ねぇ、そんな

だから。事を畳み掛けるな。落ち着ける瞬間はないのか、まったく。

思わずそんな言葉が脳裏に浮かんだ。


事は数十分前。脳内の第三者視点が投げ込んできた爆弾的結論に気が動転したまま、クジウラさんの庭での『放課後デート』を終えて、家に帰って。改めて話があります、と真剣な口調でエンジュが切り出してきたことから始まる。


リビングのソファで横並びではなく、ダイニングのテーブルを使っての対面。その位置取りに話とやらの重要さと真剣さを感じ取り、トウカは背筋を伸ばした。

対面に座ったエンジュはまず、一言切り出した。


「明日から、新たな任務が始まります」


4課としての任務だ。詳細は伏せるが、4課なのだ、およそ内容の予想はつくだろう。

15人目(ユキシロ)』を捕縛し、仕事が終わったので新たな仕事が課せられるというわけだ。


本題への前置きをしながら、いつになく真剣な声でエンジュは結論から告げる。


「私の任務が終わるまでの間、貴女はこの家から出ないように」

「え? どういうこと?」

「貴女は守り人の身内だと知られてしまっているわけですから」


校門前での騒動のせいで、トウカは守り人の婚約者がいると知られてしまった。それは裏返せば、エンジュという守り人にはトウカという弱点が存在するということ。守り人のエンジュと違って身を守る術を一切持たぬ一般人だ。誘拐監禁し、彼女を人質にすることはたやすい。

そういうことが起きぬよう、守り人と深い仲になる人間には護身術を教えたりするのだが、今回はそれも間に合わない。だから安全な家にいてほしい。一切家から出ず、大人しく帰りを待っていてほしい。


「エンを残します。アンラさんも使い魔を一羽寄越してくれるそうで」


その他、トウカには知り得ぬ守り人の能力で色々と。万全の守護を配する。不埒な輩もそれ以外も近寄れないように。

そうして守られた安全な家の中にいてもらう。当然、学校に行くのも禁止だ。学校にはすでに話を通してあり、課題をやれば成績や出席に充当してくれるように手を打ってある。

食事については買いだめしてあり、その他日用品のストックも十分にある。およそひと月ぶんほど。トウカがわざわざ買い出しに行く必要もない。

そうして、安全な檻の中で任務終了まで待っていてくれ。


「…………期間はどのくらい?」


エンジュの要求は理解した。その必要性と対策についても諒解した。事を畳み掛けるなと文句を言いたいがそれは飲み込んでおく。

で、『任務終了まで』とはいつだ。買いだめしてあると言っても食料は消費される。日用品だって消耗する。ずっととはいかないだろう。

この雰囲気だ。急遽必要なものはアンラが買い出しを代行するなんて手段はきっと取れないだろう。その出入りの瞬間を狙って襲われるリスクをエンジュはきっと切り落としているはず。そもそもアンラだって任務とやらに駆り出されているかもしれないのだし。


では、引きこもっていろというがそれはいつまで。トウカが問いかければ、エンジュはほんの少し目を伏せた。


「そうですね……。……10日。10日で終わらせます」


7日と言いたいが、余裕を見て10日。それまでに終わらせよう。

トウカもそれ以上はじっとできない性格のはず。待ちきれず、ちょっとだけ様子を見るとか言って外に出たがるだろう。そんな性格も踏まえて、10日で決着をつける。


「10日しても帰ってこなければ、私の任務は失敗したということです」


任務失敗、つまりは死んだということだ。守り人は半不老不死だが死ぬ時は死ぬ。腹を刺されたくらいでは半日もせず癒えるが、首を切り落とされればさすがにどうしようもない。

その時はアンラをはじめとした同僚がトウカを保護する手筈になっている。まずアンラが。アンラが同じく死んでいれば他の4課の同僚が。彼らも全滅していれば上司が。必ず誰かが迎えに来るように手を打ってある。


「いいですか、来客には絶対に応答しないように」


エンなら来客が4課職員か否か嗅ぎ分けられるであろう。

もしエンジュが帰ってこず、アンラも迎えに来ることができず、4課の誰かが保護しに来た場合、エンを通してから応対するように。

それ以外は絶対に応対してはならない。たとえそれが様子を見に来た知人でもだ。肉親が訪ねてきてもドアを開けないように。不用意にドアを開けたら、良からぬ者たちがその出入りの瞬間を狙うかもしれない。


「わかりましたか?」

「……わかった」


ごくりと思わず唾を飲み込んで、神妙に頷く。10日、と反芻する。

10日。10日。10日待つ。この家で。来客には応対しない。もしエンジュが帰ってこなかった場合は。言われたことを繰り返し、頭に刻み込む。

『もし』のことさえエンジュは言った。ということは、『もし』があるかもしれないということ。エンジュはそれくらい危険なことに飛び込むのだ。

どうしよう、『もし』が起きたら。最悪の事態が起きたら。起きないとは言い切れない。エンジュの仕事が殺し殺されだということは知っている。腹を刺されるよりも悲惨な目に遭っているし遭わせている。


「大丈夫。必ず帰ることをお約束します」


不安に押し潰されそうなトウカの手をそっと握り、エンジュはしっかりと言いきった。


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