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いったんタイム!タイム入れさせて!!

授業が終わっても彼女の興奮は冷めやらなかった。むしろ、授業という強制中断があったからこそより強くなっているようだった。


「ねぇねぇ! もっと聞かせてよ!」

「フユミ、あんたまた……」


さすがにしつこいぞと周囲がたしなめる。だって彼女とトウカはそれほど親しい仲ではない。同じクラスであるだけ。提出物の回収や資料の配布などで会話をすることはある。あるが、それくらいだ。だというのに根掘り葉掘り。

トウカ本人だって修羅場の後で心も落ち着かないだろうに、そんなふうに掘り返すようなことをするのはいかがなものか。


「いやいや! だってさぁ、聞きたいじゃん!」


だってこんな話、テンションが上がらないほうがおかしい。創作でしか見ないような修羅場が現実で起きたのだ。そりゃあもう、ゴシップ好きとしては根掘り葉掘り聞かずにはいられない。

事実は小説よりも、というが、いやはや。目立たないクラスメイトが守り人に見初められていたなんて、なんて人生大逆転ストーリーなのか。


「はは……」


トウカは鼻息荒く語る彼女に苦笑するしかできない。大量殺人犯の監視役兼嫁にされました、なんて始まりの話をしたら興奮しすぎて卒倒するんじゃないだろうか。それが実は身分を隠すための建前で、真実は守り人としての任務のためだったとか。そんなことを聞いたら大熊杜中に響く黄色い声をあげそうだ。


もういい加減にしろとさすがに咎められ、半ば引きずるようにして彼女は友人によって引き離されていく。

ようやく静寂が訪れた。ふぅ、と息を吐く。もう野次馬たちは好奇心を満たしたのか、これ以上やってくることはなさそうだ。

よかったよかった。大波は徐々に凪いでいくだろう。こうして『修羅場』がゴシップとして消費され日常に飲み込まれていくように、この胸の動揺だってそのうち落ち着いていくのだろう。そう、まだこの期に及んで気持ちの整理がついてない。


どうしたものか。こういうものは時間が経てば落ち着くものだが。

うぅんと悩みながら教室を出て校門前へ向かう。窓越しに見下ろした校門前には、昨日の騒動の痕跡は一切残っていない。刺されたエンジュが流した血の跡さえ綺麗になっている。


まるで昨日のことなど嘘のよう。だが、実際に起きたことだ。

いやぁあの時の私の焦りっぷりったら。そんなふうに反芻しながら廊下を歩く。半ば現実逃避のように、昨日のことを第三者視点で思い返す。

刺され、血を流してうずくまるエンジュに駆け寄った自分の取り乱しようったら。半狂乱で涙さえ浮かべていた気がする。

守り人は半不老不死だということを思い出せていればあんなに動揺しなかったろうに。そんなことすっかり忘れて取り乱して、今思えばものすごく滑稽だ。


いやでも知り合いが知り合いに刺されたら驚くし動揺するし取り乱すでしょ。真っ当に言い返し、第三者視点の思考と議論する。

びっくりしないわけがないでしょ。まぁそうだけど、落ち着いて考えれば全然大丈夫なワケで、エンジュからしてみれば取り乱す私を落ち着けるほうが大変だったんじゃないの。そうですね。

というか、動揺の比重がユキシロよりエンジュに偏ってない? どういうこと? いやね、ユキシロの心配よりエンジュの心配が先なんだなって。だってそれは。だってそれはつまり好きってことなんじゃないの?


「んぎゅぅ!!」


脳内議論がとんでもない方向にいったところで、思わず素っ頓狂な声が出た。ひとりで百面相をしながら歩いて、突如として奇声を発したトウカに通行人が振り返る。


「いやぁ! なんでもないったら!」


恥ずかしい。脳内の第三者視点が投げ込んできた爆弾的結論と周囲の視線にいたたまれなくなって、逃げるように駆け出した。

3階分の階段を一気に駆け下りて下駄箱を抜けて、校門前へ。もうこのまま走ってどこかに行きたい気持ちだった。いったんちょっとどこかで落ち着かせてほしい。クジウラさんの庭で一息ついてから帰ろうかな。走って疲れて休憩すれば気持ちもすっきりするかな。そんなことを考えていたのに。


「なんでいるのぉ!?」


昨日のことなどなかったかのようにエンジュが校門前で立っていた。ねぇあれ昨日の修羅場の人じゃない、との周囲の視線をものともせずに。


「何の問題が?」


怪異に出会ったかのような叫び声をあげたトウカへ、エンジュが平然と返す。猛然と走ってきたかと思えば、自分を見つけるなりひっくり返るような声をあげてどうしたのだ。とりあえず落ち着いてほしい。わぅん。横にいるエンもそう言っている。


叫ぶなりがっくりと項垂れた、というより崩れ落ちたトウカを支えてやりながら、ひとまず周囲の視線を避けるために歩き出す。

されるがままに手を引かれ、トウカは大人しくついてくる。


「待ってぇ……」


人間、思考の限界を超えるとそれしか言えなくなるらしい。

待って。とりあえず待って。いったん落ち着かせて。脳内の第三者視点が投げ込んできた爆弾的結論も処理できてないのに急に目の前に出てこないで。どんな顔でエンジュを見ればいいのか。待って。色々と畳み掛けるな馬鹿野郎。

いったん一息つかせてほしい。漏れ出る思考が口をつき、それを聞き咎めたエンジュが振り返る。


「では、寄り道しますか?」


クジウラさんの庭にでも行きましょうか、などと、デートコースを決めるかのように言ってくる。

そうじゃない。待って。そうじゃない。クジウラさんの庭に行きたいのはそうだけど、そうじゃない。落ち着きたいのはそうなんだけど、違う。


「うわぁぁん!」


もう限界になって叫びだす。騒がしいですね、とエンジュが耳を押さえた。


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