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それでも明日は来るのだし

あんなことがあっても夜は明けるし、朝が来る。


翌日、トウカは学校を休まなかった。あんなことがあった昨日の今日で、さすがに休むかと誰もが思ったのに。

だって休んでられないでしょ。彼女はそう言ったのだ。エンジュの送迎すら断って、普段通りに家を出ていった。


「ふ……」


いってらっしゃいと玄関で見送り、扉を閉めた瞬間、エンジュは思わず笑みをこぼした。

内心はまだ整理がついていないこともあるはずだ。それなのに表面はもういつもと変わらない。その気丈さに愛おしさが募る。

なんと気高く、健気でひたむきなのだろう。いとけなくもいじらしい。熊神などにやるにはもったいないと感じるほど、なんと美味い魂か。あぁ、自分が人間の魂を喰うほどにヒトを手放していたら、真っ先に喰っていただろうに。あるいは熊神がこの大熊杜を拓いたように、自らの領域を作り上げてそこで永遠に愛玩していただろう。

こんなことならもっと深く熊神の力を受けて、より近しい眷属になっておくべきだった。そうすれば魂を喰らうという形で彼女を自分のものにできたろうに。そんなことすら思ってしまう。


わん。ご主人、ちょっとその発想キショいです。同意しますけど表には出さないでくださいね。ドン引きされますよ。

そう言いたげにエンが尻尾を揺らした。


***


がらりと教室のドアを開けた瞬間、わっと人波が押し寄せる。あっという間にトウカは取り囲まれてしまった。


「昨日ヤバかったけど大丈夫!?」

「シュラバってやつよね? ね、ね!?」

「ガチ修羅場だったじゃん、どーなの!?」

「あはは……えーとね……」


わいわいと押し寄せてくる人波をさばきながら、とりあえず席へつく。前後左右どこも野次馬だらけだ。普段話していない交流の薄い人間でさえ寄ってきている。

彼らの口ぶりから察するに、昨日の騒動は元恋人と現婚約者による修羅場ということで片付けられたようだ。ユキシロが又木だということも、エンジュが守り人、こと4課職員ということも表に出ていないようだ。おそらくアンラが手を回したのだろう。あれはただの過激な修羅場だったということになっている。


「ねぇ、婚約者さんが守り人ってホント?」

「同居してるのって従兄弟じゃなかったの? ってことは婚約者と同居してるってこと!?」

「あー……はい、はい……」


おっと。話題がそっちにスライドしてきたぞ。そんなことを思いながら押し寄せる質問に応対していく。

ある程度話したところで、野次馬のほとんどは好奇心が満たされたらしく離れていく。しかしそれでも数人はまだ食いついてくる。


「ちょっとフユミ、やたら食いつくじゃん」

「いやいや、だって食いつかないわけにはいかないでしょ」


自分たち候補生たちは寮暮らしだ。実家が近ければ家から通うこともあるが、基本的には親元を離れて寮に住む。トウカだってそうだった。

それがある日、いきなり寮を引き払っていなくなった。引っ越し作業は業者がやって、荷造りに本人が参加もせず。それで聞いてみれば、守り人の親戚の家に居候することになったなんて。

それだけでも驚きなのに、実は親戚ではなく婚約者だったとは。おいおいどういうことだと根掘り葉掘り聞きたくなるじゃないか。


「だって、えーと、なんだっけ? 彼氏いたでしょ? それと別れて婚約者に乗り換えたってこと? そりゃ元カレもキレて刺しに来るでしょ」

「それはなんというか……」


えぇと。このへんの表向きの設定はどんなだっけ。事実を隠すための建前はこうしようと合わせた口裏を思い出そうとする。


「えっと……向こうが一目惚れで……なんとしてでもモノにしたいって……」

「きゃぁーー!! なにそれ!?」

「あと乗り換えたんじゃなくてあっちが別れようって言ってきたの!」


ユキシロに一方的に別れを告げられ、そのタイミングでエンジュが申し入れてきたと。前々から狙っていたが、別れたのならこれ幸いにと。

確か表向きの建前はそんな設定だったはず。事実としてもそうなので、ここの部分に関しては嘘やごまかしはほとんどない。


「前々から狙ってたって……やば!! なにそれぇ!?」

「フユミ、落ち着いてってば」

「やだーーー!! だってすごくない!? まるで小説か何かじゃん!」


まるで創作の出来事のよう。息巻く彼女は始業のベルが鳴るまでずっと興奮しっぱなしだった。


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