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クジウラさんの喫茶店で

15分ほど歩いて着いたクジウラさんの庭は、いつも通り人で賑わっていた。大通りを中心に、いくつも枝分かれした道があり、さらに枝が分かれるように小道があり、そしてどの道にも両脇に所狭しと様々な店が並んでいる。通りの隙間にある公園や広場にも露店や屋台が立ち並び、それすら溢れて、背負った籠いっぱいに詰めた商品を売り歩こうという人まで。


これがクジウラさんの庭だ。ごった返す人波の多さに呆気に取られているエンジュに紹介するように言う。

今日は平日の夕方なのでまだ空いているほう。休日の昼とかになるともっと増える。そう付け足すと、なんとも言えない顔で眉間を押さえだした。


「エンジュが人酔いを起こす前にどこかに入ろうか。トウカ、おすすめは?」

「こっちです」


この時間、人でごった返すのは大通りだけ。枝分かれした道に入れば人の数は減り、路地に入ればもっと減る。

大通りから離れた路地の片隅に、落ち着いた雰囲気の喫茶店がある。公園に面していて明るさも確保しつつ、静かな雰囲気はコーヒーを飲みながらの読書にちょうどいい。

その店ならきっとアンラも気に入ってくれるはず。案内するつもりで先頭に立つと、さらりとさり気なくエンジュが隣に立った。おやおや、と茶化すアンラとエンは後ろを歩き、通りを行く。すぐに目的の喫茶店は見えてきた。焦げ茶を基調とした店は大通りの喧騒とは縁遠そうに静かに建っていた。


からん、とドアベルを鳴らして店に入る。席についてメニューを見て、注文して、ふと。あの可愛い犬っころがいない。


「エンは?」

「消しておきました」


消したというか、しまったというか。あれは使い魔なのでそういうことができる。

ドアに動物の入店の可否が書いていなかったので、店に気を使って。必要なら呼び出せる。

軽く説明したエンジュはすぐにトウカから目を逸らし、窓から見える公園へと視線を移した。何かを見ているようで見ていない目で公園を眺めている。


「もしかして今、視てる?」

「えぇ」


どうやら、エンジュはその異能の力でもって、通りを行き交う雑踏や公園でくつろぐ人々を視ているようだ。又木が潜んでいないかどうかを。

これも4課の仕事。しかもエンジュにしかできない仕事だ。一息つくための時間のはずなのに悪いな、とアンラがトウカに言い添えた。エンジュには向けていないあたりアンラらしい。くすりと笑いつつ、いいですよ、と返した。

その間にも、エンジュの視線は公園に向けられている。じっと見つめる目がある一点を捉えていた。


「……エンジュ、あれか?」

「はい」


トウカには悪いが仕事モードだ。短い言葉と目配せで意思疎通をする。

あれ、というのは、公園で募金を募っている集団だ。募金お願いしますとチラシを配り、募金した者にはお礼として菓子をいくつか詰めた小袋を渡している。菓子は市販品のようだが、小袋の包装は手製のようだ。小さなメッセージカードが入っているのが見えた。

いったい何の募金なのか。目的を曖昧にした謎の募金。どう見ても怪しい。きっと又木だ。


異能の目を持っていないアンラでもあれは怪しいと思う。6割、いや9割黒だ。又木でない理由を探すほうが難しい。

配っているチラシや小袋のメッセージカードにはきっと何らかの集会の案内が書いてあるのだろう。そして誘い込み、言いくるめるなり脅すなり洗脳するなりして又木に引き込むのだろう。募金は活動資金の足しにするためか。


彼らを注視しているエンジュはこれでもかというくらい嫌そうな顔をしていた。目を逸らしたくなるほどの汚物がそこにあるのに、それを見なければならない苦痛に板挟みになっているような。

エンジュがそんな表情をしているのだ。9割は10割に。確定だ。しかも相当深く又木思想に染まっている一団とみた。


「急用だ。少し外す」


すぐに戻って来るからと言い、アンラが席を立つ。1人分のコーヒーは後にしてくれと店員に告げ、そのまま店を出ていく。

少し硬い表情でそれを見送るトウカと、いまだ注視したままのエンジュと。空気が動かないでいると、おまたせしました、と何も知らない店員がパフェとコーヒーを持ってきた。


「貴女はまた甘味ですか」

「いいじゃん別に」


先日のパンケーキの思い出が尾を引いているのか、エンジュが眉を寄せている。その目は真っ直ぐトウカを見ていた。

あれ、あの一団を見なくていいのか。今度はトウカが公園へと視線を向けるが、いつの間にかあの一団は姿を消していた。店員との応答で気が逸れたうちに事態はひっそり動いたのだろう。


「……やった?」

「まさか」


エンジュが判定しても物的証拠はおさえていないので。問答無用で処刑はまだ早い。アンラは尾行するための人員を呼びにいっただけで、まだ何もしていない。そこまで見境がないわけがない。


「とはいえ……見つけ次第、という即断即決の根性は素晴らしいですね。貴女やはり、うちで働くのはどうです?」

「やだ!」

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