真実の露呈
さて、ここからどうユキシロの両親のことに触れていくか。うまく誘導できそうな話題を考えていると、意外なことにエンジュから踏み込んできた。
「貴女はその男のご両親とは懇意だったんです?」
「ふぇ?」
「いえ……貴女も良い年頃ですし…………ご挨拶的なものがあったのかな、と」
成程そういう。義両親となる2人へのご挨拶の話か。それは『婚約者』として気になるだろう。
しかしそれにしても、自分が殺した相手のことを何食わぬ顔で聞くとはどんな心境なんだろう。どの面下げて、と思いつつ話を合わせる。
「顔を合わせたことはあるよ。……ご両親も、普通の人だったかな」
ユキシロと同じく、いたって平凡な人物だった。
両親とユキシロの親子仲は悪くなかったと思う。むしろ良好で、週末のセミナーにも時々3人で行っていた。そう聞いた時は、親離れも子離れもできていないなと呆れたものだが。恋人とのお泊りデートの企画よりも親と行くセミナーを優先するなんて。
「……成程」
ふむ、と頷くエンジュの様子を注意深く窺う。いったい何のつもりでユキシロの両親のことを聞いたのだろう。
『婚約者』として気になるというていだが、しかしそんな理由ではないはずだ。被害者と加害者の関係なのだ、絶対に何かある。
さて、それをどう聞き出したものか。考えていたら、不意にふっとエンジュが笑った。
「そんなにわかりやすい顔をしないでください。駆け引きするのも馬鹿らしくなります」
「む……」
駆け引きと言った。ということはエンジュは全部見抜いていて、その手の上だったのか。
思わず渋い顔をすると、そんなトウカの様子を見てエンジュがさらに笑った。
「いいですよ。そろそろ明かすべき頃だと思いましたし、お話しましょう」
もう隠す必要もない。ゆったりと組んでいた足を解き、エンジュが話を切り出した。
「まず、大量殺人犯というのは嘘です。……いえ、確かに14人ほど殺したのは事実ですが……」
まず結論から言おう。大量殺人犯というのは嘘だ。14人ほど殺したのは事実だが、それは任務の一環であり、もちろん犯罪行為にあたらない。
では、どうしてそんな嘘をつく必要があったのか。
「任務のため一般的な庶民の中に混じる必要がありました。ですが、私はこの通りですから……一般的な感性を持つ人の協力が必要だったのです」
任務のために市井の中に紛れる必要があった。しかしそこで問題が起きた。100年ほど守り人として生きていたせいで、エンジュの感性や知識は市井と大きくかけ離れてしまっていた。
自分一人だけではあまりにも浮世離れしていたため、そこを補う協力者、つまり一般人が必要だった。
しかし任務のために協力してくれと正直に頼むと任務に差し支える。協力者にその自覚なく協力してもらうためには、それらしいものをでっち上げる必要があった。その口実が大量殺人犯とその監視役という役割だ。
トウカに白羽の矢が立ったのは、その素質ゆえだ。素質を的確に嗅ぎ分けることのできるエンが懐くほどの才能が彼女にはあった。
彼女ならば協力者にふさわしい。候補生という身分もちょうどよかった。
「あぁ、一目惚れしたというのは嘘でも任務の建前でもなく真実です」
任務のためといい、私欲をさらりと混ぜて事をごり押した。なんなら、大量殺人犯の監視という名目すらもそのためだ。
トウカを合法的に強制的に手に入れるための周到な檻だ。理由を聞いたアンラには苦笑されてしまったが。
さて話を戻そう。では、なぜそんな遠回りな上に回りくどいことをしたのか。正直に話せば差し支えるというエンジュの本来の任務とは何だったのか。
「私は4課。4課の仕事はわかりますね?」
「又木の摘発でしょ?」
「えぇ。その通り。そしてそれが答えです」
すべては又木の摘発のため。しれっと大熊守たちの中に混じって思想勧誘する又木どもを洗い出すためだ。そのために一般的な庶民の中に混じる必要があり、そのために諸々をでっち上げた。それが事の真相だ。
「以上です。納得していただけましたか?」
「…………成程ね」
一目惚れのくだりはとりあえず置いておいて。筋は通るし、本当のことなのだろう。つまりエンジュは大量殺人犯でも何でもなく、4課所属の守り人として正しく任務をこなしただけ。杜守庁でアンラから見せてもらったあのリストは『大量殺人犯の被害者』ではなく『任務の標的』のリストだったのだ。
ひとまず納得したところで、トウカははたと気がついた。で、あるなら、あのリストにユキシロの両親が載っていたのは。気がついて、さぁっと血の気が引いた。
「……まさか……」
「えぇ。……あの2人は又木でした」
そんな。あんなどこにでもいそうな平凡な夫婦が又木だったなんて。
納得しきれず、しかし飲み込まざるを得ず。それならば、と重ねて思い至る。
「……じゃぁ……もしかして……」
あの2人が又木ならば、ユキシロ本人だって。
血の気がさらに引くトウカへ、エンジュは重々しく頷く。
「えぇ。彼らの息子であるユキシロもまた又木である可能性が高い」




