思わぬ収穫
「あの…………エンジュって、本当に大量殺人犯なんですか?」
「……というと?」
「その……私にはそう思えなくて……」
そう聞かされているし、本人もそう言っている。しかし、そう言われても、でも本当にそうなのか疑わしい気持ちが湧いてくる。
なぜそう思うのか、トウカ自身言語化はできない。だが直感が違うと告げてくる。エンジュは本当に大量殺人犯なのだろうか。
本当に、いわれのない人々を殺した非情な人間なのだろうか。トウカにはそうは思えない。そんな非道な人間が、あんな振る舞いをするだろうか。やれ茶の作り置きをしろだのと口うるさく言ったり、エンをもみくちゃに撫で回したり、ユキシロに嫉妬したりと、あれだけの人間らしさを見せるだろうか。好いていたり親しい人間には友好的で、どうでもいい相手には冷徹だとか、そんな二面性があるようにも思えない。
エンジュとはまだ二週間程度しか暮らしていない。だが、二週間程度で感じる人柄だけでも否と思う。
「冤罪か……それか、殺したにしろ、きっと理由があるんじゃないかな、って……」
それがどんな理由なのか、それはまだトウカにはわからないが。
そもそも自分はエンジュの監視役を命じられていながら、彼がどんな人間を殺したのかすら知らない。エンジュが大量殺人犯だということについて何も知らない。
そこでアンラに頼みたいことがある。エンジュがやったという大量殺人についての調書や被害者のリストを見ることはできないだろうか。もちろん機密保持だとかの観点で公開できないことはあるだろうが、知られる範囲で知りたい。
「……ふむ」
トウカの頼みに、ふむ、とアンラが頷く。トウカの言うことももっともだ。そして自分には、トウカの人生を潰した手前、その望みは最大限叶えるべしという義務がある。
ならば。少しの思考の後にアンラは決断を下す。見せられる範囲で見せよう。少し待っていてくれと言い置いて休憩室を出た。
それから数分。アンラが封筒に入った書類の束を持って戻ってきた。
「ありがとうございます。拝見しますね」
アンラから封筒を受け取り、その中身を検める。中に入っているのは事件の経緯をまとめた報告書と被害者のリストだった。リストには名前と顔写真だけが14人ほど記載されている。どのように殺されたとか、現場の状況についてはトウカの心を慮ったのか機密なので言えないのか伏せられていた。事件の経緯についても、報道以上のことは書いていなかった。日付も場所も変えて、一度に1人か2人、合計14人を殺害したと。
「これが……」
これが、エンジュがその手にかけた人々。緊張感をはらみながら、ぱらぱらと紙をめくっていく。
リストに記載されているのは老若男女ばらばらだ。見たところ、共通点はなさそうだった。強いて言うなら、健康そうな成人以上というくらいか。
そんなことを推理しながら、紙をさらに1枚めくる。そこでふと、トウカの手が止まった。
「あれ……? これって……?」
この男女、見覚えがある。しばらく記憶を探し、はっと思い出す。
そうだ。この2人。ユキシロのご両親だ。いつだったか、ユキシロの家にお邪魔した時に顔を合わせたことがある。今度機会があったら、一緒に喫茶店で茶をしようという
じゃぁ、つまり。エンジュは彼の両親を殺したのか。それはどうして。
知っていたのか。いや、ユキシロとエンジュの間に何もつながりはないはず。だから偶然なのか。偶然だとしたらなんて世間は狭いんだろう。
「…………ありがとうございました」
「あぁ。これは持っていっていい」
書類を返そうとする手をアンラが制した。他の人間にむやみに見せるのはよろしくないが、トウカが情報を整理するために持ち帰るのは許そう。報道以上のことは書いていないし、もしこれが外部に漏れたところで4課として困ることはない。
何やら硬い表情のトウカの様子に何かを察しつつ、その肩を叩く。何か思いつくことや困ったことがあれば頼ってくれ、と言うしかなかった。




