気になることを聞いてみよう
翌日。今日は定期報告の日だ。杜守庁の窓口に報告書を提出しないといけない。
いかにもお役所仕事らしい様式の紙に『異常なし』の一言を書き、日付と署名をしたものを窓口へ。あらかじめ連絡がされていたのだろう、窓口の職員は特に何も聞かずに受け取った。
これで提出完了だ。杜守庁と学校は近いところにあるので、こうして下校ついでに提出できるのが非常に助かる。これで距離が遠くて、片道何時間もかかるような場所だったら毎週通うのは大変だったろう。
さて、提出も終えたし、今日はエンジュとの『放課後デート』もないし、あとはもう気楽に帰るだけ。寄り道をしながら帰ろうか、なんて考えながらトウカは杜守庁を出ようとした。
「おや。トウカ」
「あ、アンラさん」
ばったり。杜守庁を出るトウカと、杜守庁に入ったアンラ。玄関口でばったりと会ってしまった。
報告書の提出だと察し、ご苦労、とアンラが労いの言葉をかける。きりっとした4課の職員の顔はそこまでで、ふっと雰囲気が緩む。年上の女性が年下の女の子を気遣うような空気で、最近はどうだ、と問うてくる。
「あの馬鹿は苦労をかけていないか?」
「馬鹿って……」
そんな直接的な。トウカが苦笑すると、いいや、とアンラが首を振る。
馬鹿も馬鹿だ。立場を大いに活用して嫁まで手に入れて。まったく図々しい。思い返せばエンジュは4課にいた時からふてぶてしかった。慇懃無礼だし皮肉屋だし。報連相をしないせいで他の職員との連携は取れないし、自分が何度そのフォローをしてやったことか。思い返せばあれやこれやと苦労話が芋づる式に出てくる。
そうやって苦労をかけた上に、おまけに大量殺人なんてしやがって。任務として又木の処分のための殺人なら罪には問われないが、あれは任務の外。だから犯罪になるし、殺人犯として裁かれることになる。まったく。馬鹿も馬鹿、大馬鹿者だ。
「そう思わないか?」
「えーと、ノーコメントで」
あえてノーコメントで。トウカがそう答えると、やっぱりなと言いたげに肩を竦められた。ノーコメントという選択肢を取るほど回答に困っているし、回答に困るほどに同意も否定も半々と。エンジュは相当に苦労をかけているらしい。トウカでこれだ、エンはもっと大変だろう。
「どうだ? 暇なら一杯」
まるで酒を引っ掛けにいくような言い方だが、もちろん茶の話だ。4課の休憩室の一角を借りて、あの大馬鹿者の愚痴大会でもどうだと提案する。
遠慮されるかと思ったが、アンラの予想に反してトウカはその話に乗った。
「お願いします。……ちょっと、アンラさんに聞きたいこともあるので」
「ほう?」
口ぶりからすると、そのへんの喫茶店のテーブルではしにくそうな話のようだ。ならばむしろ4課の休憩室は格好の場所だろう。
よろしい、と頷いてトウカを案内することにした。階段を登り、4課が担当する窓口を素通りして職員用のドアへ。又木通報用窓口は閑散としているものの、そこを行き交う職員たちは慌ただしい。心身ともに限界の職員が折りたたみ椅子を並べてベッド代わりにして仮眠を取っていた。
アンラさんお疲れ様です、と挨拶をしてくる職員に返しつつ、トウカを休憩室に通す。隣の給湯室で茶を用意して、それからアンラも腰を落ち着けた。
「聞きたいこととは?」
「あの……どこから話せばいいのか……」
「構わないさ。時間はたっぷりある。好きなところから話してごらん」
まとまっていなくても大丈夫。思考の言語化から始めたいなら付き合おう。暇ではないが時間はある。なにせこちらは半不老不死なので。
小さな子供に言うように微笑みかけると、トウカは迷いながらも口を開いた。
「あの…………エンジュって、本当に大量殺人犯なんですか?」




