手折られた木の行方
「……でもさ、もし、検査に引っかかったら……その時はどうなるの?」
もし思想検査に引っかかったら。
これだけエンジュが自信満々なのだ。検査の精度は間違いなく、ミスで冤罪を被るということはないのだろう。何なら、エンジュがその目で視ればいい。
検査に引っかかり、大熊守の思想に反する又木だと見破られてしまったら。その時はどうなるのだろう。
思想検査に関わらず世の中の報道でも、捕まった又木がどうなったかということはまったく知らされていない。又木は不穏分子とか犯罪者予備軍とか反政府組織とかそういう扱いなので、まぁそれ相応の処分にはなるのだろうが。
死刑なのか、それとも、想像も及ばないような酷いことをされるのだろうか。
創作の世界でよく出てくるものとして、非道な実験に犯罪者や死刑囚を使う描写がある。まさか又木もそういったことに使われるのだろうか。
あるいは、思想を『教育』するとか。洗脳だとか思想洗浄だとか、そんな展開も創作の世界ではお決まりの結末だろう。
頭に金属の棒を差し込んで脳をどうこうして、人格を弄る手術が世の中には存在するというし、まさか。
そんな想像を膨らませるトウカの様子に、ふっとエンジュが笑う。微妙に馬鹿にしたような、一周回っていっそ微笑ましく感じているような、そんな笑い方で。
「貴女は本当に、想像力が豊かですね」
大量殺人犯と一緒に暮らすことになった、機嫌を損ねたら殺されるに違いないと妄想を膨らませていたように。
まぁこうも、色々と想像を描けるものだ。知らないからこそ想像するしかないのだろうが、それにしたって妄想過剰だ。
皮肉なのか素直な感想なのか、どちらとも言えない一言を呟いたエンジュは、ふむ、と思考を巡らせる。
自分は4課所属だったので又木の処遇については当然知っているが、はて、それを言って大丈夫だろうか。機密保持とかその観点で。
どこまで言っていいものやら。考えつつ、とりあえずトウカの妄想は否定しておくことにした。
「貴女が考えているようなことはしていませんよ。実験台とか、洗脳とかは……ね」
枝分かれしたとはいえ、元は同じ大熊杜という大樹の一部。切り落としこそすれ、その尊厳を踏みつける必要はない。
一言でわかりやすく言えば、犯罪者だろうが人権は守るということ。なのでトウカが考えているようなことはしない。
「更生を試してみて、希望がなければ処刑はしますが……」
深く言うと機密に触れるので簡単に。まぁ言ってしまえば、殺人犯などの犯罪者と同じような末路だ。更生できるならよし、できないなら切り落とす。
と、ここまで言ったところで、おかしくなって笑いそうになる。大量殺人犯が『まぁ殺人犯の扱いと同じですよ』なんて説明するなんて。自分は大量殺人犯であるが半不老不死ゆえに処刑できないからこうなっているというのに。お前がそれを言うか、と。
ふと気付いてしまったちぐはぐさに我ながら噴き出しそうになってしまった。
笑いを噛み殺すエンジュの足元で、ぶしゅん、とくしゃみをするようにエンが息を漏らした。飼い主が思いついたことが伝わったらしく、我慢できずに噴き出してしまったらしい。ふごふごと鼻を鳴らし、今のはくしゃみです笑ってません、と繕おうとしている。
そんなエンジュとエンの様子に首を傾げつつ、トウカはとある噂を口にする。
「じ、じゃぁ……又木を幽閉して『保存』して、熊神が目覚めた時に贄にするって噂は……?」
大熊守たちの間でまことしやかに囁かれている噂だ。摘発された又木は表向き処刑されたことになるが、実は幽閉され、熊神が目覚めた時に贄とするという噂がある。犯罪者を処分しつつ、熊神にも贄を与える一石二鳥。大熊守の思想から外れた又木に大熊守としての義務を強制的に課す皮肉も効いており、また又木を先に喰わせることで大熊守たちが喰われる数を減らす。一石四鳥だ。
トウカの問いに、ふっとエンジュが意味深に微笑む。
「……それはどうでしょうね?」
又木が実際にどうなるかは秘密ということで。これ以上詳しく言うと、機密保持どうこうに触れるだろう。聞いてもあまりいい気分のする話でもないし、この話はここまで。
しーっと口元に人差し指を当て、微笑みを浮かべる。
「世間で噂されている通りかもしれませんし……今、貴女が想像していることかもしれません」
さてどうでしょう。何やら物騒で不穏な妄想を膨らませだしているトウカの様子を面白がりながら、エンジュがこの話を打ち切った。




