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検査の裏側

いつものように、と表現できてしまうほど日常となった『放課後デート』を終えて家に帰り、夕飯を終えての団欒のさなか。

今日はどんなことがありましたか、と何気なく聞いてきたエンジュへ全校集会での話をする。


「今日、学校で思想検査があったんだけど」


そう言うと、エンジュがあからさまに嫌な顔をした。桶いっぱいの苦虫を一気に噛み潰したかのように、端正な顔が歪む。


「なに? どうしたの?」

「いえ……あの仕事は面倒だったな、と……」


4課の中で手分けするとはいえ、何千枚もある紙の束をチェックして判定するあの煩雑さを思い出してしまったそうな。

項目が多くて苦労するのは回答側も検査側も同じらしい。苦い思い出に渋い顔をするエンジュの姿に思わずくすりと笑みが漏れた。


「本当に面倒なんですよ。この目で視れば善悪など簡単に判別できるというのに……」


熊神にとって良いものか悪いものかなど、この目で視ればわかる。なのに、いちいちあんな面倒な集計やスコア計算をしなければならない。

それは例えるならば、2かける5は10と九九で計算すればいいところを、2たす2たす2たす2たす2と足し算で計算するかのような感覚に近い。頭の中ではもうとっくに九九を用いて回答を割り出しているのに、手で律儀で煩雑な足し算をしなければならないようなもの。

簡単にできる方法を持っているのに、わざわざ面倒な手順を踏まされるのだ。それは非常に面倒だろう。なのにその抗議を受けたアンラは平然と言い放ったのだ。ならば大熊守全員を視て回るか、と。ひと目見てわかるというのなら、何千もいる人間を一人漏らさず視て回れと。そんなこと無理だとわかっていて。

できるわけがないと降参したエンジュはその後、思想検査については何の文句も言えなくなってしまった。文句があるならその目を使って何千人を視ろと返されるので。


思想検査の面倒さに付随してそのエピソードも思い出してしまった。最悪だ、とエンジュは肩を竦めた。心なしか、エンを撫でる手も荒い。

いやぁ、思想検査があると残業するからあまり構ってもらえないんですよねぇ、と言いたげにエンも尻尾を揺らす。

エンジュにとってもエンにとっても、思想検査は嫌なものらしい。ふと見えたエンジュの人間臭い部分が微笑ましい。守り人として100年を生きた半不老不死のくせに、やたら人間臭い。ホットケーキとパンケーキの区別がつかないほど浮き世離れしておいて、こういうところは俗っぽい。そのギャップが微笑ましく、面白い。


「でもさ、あんなの意味あるの?」


ただ設問に答えていくだけ。嘘なんてつき放題だ。あんなので本当に又木かどうか判別できるのだろうか。

『やっている』というポーズのための形骸化した検査なのでは。それだったらまったくの無駄じゃないか。


トウカの指摘に、そうですね、とエンジュは頷く。確かに嘘はつき放題だ。だが、単純に回答だけを見て判定しているのではない。筆跡の乱れなどの部分を見る。

表現を変えただけの同じ質問が繰り返し出るのもそのためだ。さっきの質問では『はい』と答えておいて、言い回しを変えただけの同じ質問に『いいえ』と答えていたら嘘をついているのだとわかる。そういうものを細かくチェックしていって、単に適当に丸をつけているのか、それとも又木であることを誤魔化そうと嘘をついているのかを最終的に判定する。


「ですから仮に、『熊神の贄になることを望みますか?』に『いいえ』と答えたとしても……それだけでは引っかからないんですよ」


熊神に喰われたくないと思う。それは生物として普通の感情だ。当たり前の生存本能。

だから、死にたくないと思うことは問題ではない。昨日、熊神に喰われたくないと思うのは又木の思想だとトウカを糾弾したが、あれはトウカを試すために言ったこと。


「へぇ……そうなんだ……。でも、それ言ってよかったの? こう……機密的な……」


聞いておいてなんだが、検査の裏側など話していいのだろうか。守秘義務とか色々。

問えば、いえ別に、とエンジュが首を振る。そうやって知った裏側を利用して嘘をつこうとしても、4課の我々はその上をいって又木かどうかを見抜くので。


「それに貴女、嘘をつくのが驚くくらい下手ですから」

「ぐぬぬ……」


はい、そうでした。昨日、課題の偽装指導をしてもらったんでした。はい。

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