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枝分かれした枝を選別するための

今日も熊神は穏やかに眠っている。


「近頃、又木(またぎ)の活動が活発化している。よって、杜守庁の要請により思想検査を実施する」


朝一番に開かれた全校集会で、そのような通達があった。

全校集会が解散してそれぞれの教室に戻ったあとも、教室内の話題はそれでもちきり。又木が、又木が、と皆が口々に噂を始めていた。


「又木なんて……怖いよね……」

「ほんとほんと。信じられないよね」


又木とは、一言で言ってしまえば反体制派の集団のことだ。大熊杜で生きていながら大熊守の義務を放棄した悪しき派閥。

大熊杜に住む人間は大熊守として熊神に仕えるのが義務。守り人でなくとも、善く生きることや命を次世代に繋げることで熊神に尽くす。そして信仰を捧げ、熊神は健康長寿や自然の恵みといった形で加護を返す。そして大熊守たちはよりいっそう深い信仰を熊神に捧げる。やがて熊神が眠りから覚める時が来れば、守り人たちが率先して贄となって命をお返しする。半不老不死ゆえに永く生き、死ぬこともできずに古びた命はそこでようやく摘み取られ、熊神に還元されていつか生まれる新たなみずみずしい命へと巡る。

その信仰と加護の輪廻は尊いもので、大熊杜はそうやってここまでやってきた。又木というのはそういったものをすべて放棄し、加護だけを受け取ってしまおうと考えている連中だ。熊神に仕えるなどごめんだ、熊神が目覚めた時に喰われるなどもってのほか。恵みだけを搾取してしまおうというのが又木の基本思想である。都合の良いところだけをつまみ食いし、都合の悪い部分は無視する。熊神に対してなんと不敬な連中か。


当然そんなもの、あってはならない。だから又木は見つけ次第通報するべき対象である。信仰と加護、命の巡りで育まれた大熊杜という大樹から枝分かれして股割れした枝など剪定して捨てるべきなのだ。


「はーい、みんな! 集会で言った通り、思想検査のお時間でーす!」


明るい調子で声を張り上げ、教師が紙の束を重そうに抱えて入ってくる。気の利く男子がすぐさま紙の束を抱え、要領のいい数人が手早く皆に配っていく。

トウカもまた、いかにもお役所仕事な字体と様式の小冊子を受け取る。この20ページ少々のホチキス留めの小冊子が思想検査用紙だ。


思想検査といっても、その物々しい名の割に実際やっていることはただのアンケートだ。質問に5段階で答えるという、非常によくある形式の。そう思う、どちらかといえばそう思う、どちらともいえない、どちらかといえばそう思わない、そう思わないの項目に丸をつけるだけのもの。質問項目がやたら多い上に、質問のいくつかは言い回しを変えて再登場しただけのものもある。


「めんどくさーい」

「ねー。やる意味あるの?」

「こら! 私語禁止!」


教師の叱責が飛ぶ中、トウカも黙々と質問に答えていく。熊神の恵みに感謝を感じていますか。そう思う。守り人になりたいですか。どちらかといえばそう思わない。熊神の贄になる覚悟はありますか。どちらともいえない。

まったく、こんなもので果たして又木があぶり出せるのだろうか。ただ丸をつけるだけ。嘘なんてつき放題だ。

やる意味がまったく感じられない。その上、質問項目が多くて時間ばかり取られる。一言で言えば、ものすごくめんどくさい。


だが、トウカの心はほんの少しだけ普段と違って前向きだった。めんどくさいことに変わりはないのだが、しかしちょっとだけ軽い。

というのも、又木の調査と摘発は4課の担当だ。つまり、この検査の向こうにはアンラやエンジュがいるわけだ。この検査用紙を回収し、検査を執り行うのはアンラの仕事である。そしてエンジュも、かつては4課職員として検査を実施していたはず。

その様子を思うと、面倒だと思う心がわずかに軽くなる。せめて集計しやすいように、丸付けは見やすくしっかりとした筆跡で書いてあげようと思った。


「お疲れ様~! 検査結果は明日でーす! お楽しみに!」

「そんなこと言ったって、どうせ引っかかるわけないんだからダイジョーブでしょ~?」

「あはは! 確かにね!」


そんな教師と生徒のやり取りを聞きながら、トウカも回答済みの検査用紙を回収ボックスに放り込んだ。

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