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これが一生続くんです、なんて

「……ってわけでして」


週末の定期報告。初回だけは電話で。明日、杜守庁の窓口にも同様の内容の書類を提出する決まりになっていた。

来週以降の報告は窓口に書類を提出するだけでいいそうな。これがトウカに課せられた役目の義務だ。


報告を受けたアンラは電話の向こうで静かに頷く。初週は平穏無事に過ごせたようで何よりだ。

しかしまぁ、随分と所帯じみたやりとりをするものだ。溜まったゴミ箱だとか茶の作り置きだとか。放課後デートとかいう胡乱な言葉についてはあえて触れないでおく。

ともかく、目立った問題も不審な点もなかったのはいいことだ。これで初週から揉め事が起きるようでは困る。

お互いに程よい距離感を見つけ始めているようだし、このまま監視任務を続けさせよう。


「では、来週以降も頼む」

「わかりました。……ところで、なんですけど……」

「うん?」


この生活にも慣れてきて、落ち着いてきたところで、ふと気になったことがある。

それはこの監視任務についてだ。任務というからには仕事なのだし、報酬を期待してもいいのだろうか。

それに、両親にこのことがどう伝わっているのかも気になる。トウカの両親は健在だし、仲も良好、定期的に連絡を取っている。この守り人見習いの学校に入学したのは親のすすめで、通学のしやすさを考えて寮に入れたのも両親だ。当然、寮で生活するための仕送りももらっている。

それなのに寮を引き取ってこの家に住むことになってしまった。そのことについて、両親は知っているのだろうか。


疑問をぶつければ、あぁ、とアンラが電話の向こうで頷きを返した。


「君の両親にはある程度の事情を伝えてある。……表向きの事情のほうをな」


守り人に見初められて婚姻を前提に同居、と。大量殺人犯云々は伝えていないし、細かい部分にも配慮を施した。それでも矛盾が出るような点や重箱の隅については、守り人ゆえの機密ということで強引に押し通す方向で。

トウカの両親は最初驚きはしたものの、守り人に見初められたのならと大いに喜んでいた。父親の方は複雑な顔をしていたが。

今は任務の都合で出向けないが、近いうちに挨拶に伺うと伝えてある。つまり外堀は埋められているというわけだ。


「そんなぁ…………」


外堀が埋められているどころか、舗装されて赤絨毯まで敷かれている。がっくりとトウカは肩を落とした。


この監視任務が期間限定ならば、絶望はある程度軽かったろう。しかしこの監視任務は一生続く。嫁になるとはそういうこと。だからこそこんなに絶望しているのだ。もう好きな男と自由な恋愛ができない。あぁそうだった、自由な恋愛はつい先週に振られたばかりだった。ユキシロめ。

絶望を噛み締める流れで怒りを思い出し、おのれと歯噛みする。ころころと変わるトウカの様子を面白いと思ったのか、アンラが小さく笑いを漏らした。


「そうそう。報酬についてだが……もちろん、君が望むものを用意するつもりだ」


一生を捧げてもらうのだ。見ようによっては人身御供だとか生贄だとか捉えられてしまうだろう。人ひとりの人生を潰したといっても過言ではないとアンラは思っている。

だからこそ、その報酬は存分に。杜守庁の権力が及ぶ範囲でなら、いくらでも融通しよう。

わかりやすい目先のことでいえば、学校を卒業したあとの進路だとか。さすがにエリートコースのトップは実力が伴っていないと厳しいが、それ以外なら多少の口利きはできる。仕事が楽で給料が高くて休日も多い席を用意しよう。さらに望むのなら両親の生活の補助だって。


もちろん、それ以外にも。手厚いという言葉では生ぬるいほどに。

ちょっとした生活用品から何まで、必要であれば用意する。洛鹿里の梅ソーダくらい、いくらでも。


「茶の作り置きは自分で作ってほしいところだが」

「ぅ……アンラさんまでそれ言います?」

「はは。すまない」


からからと笑い、さて、とアンラは言葉を切る。

報告はもう十分だ。提出する書類には『問題なし』の一言だけでいいと伝え、杜守庁の窓口へ持ってくるようにトウカに伝える。窓口の職員には連絡しておくので、受け取りの確認だけしてもらって。


「では。そのように」

「はい。ありがとうございました」

「こちらこそ。では、今後もよろしく頼むよ」


そうして電話が終わる。受話器を置いて、ゆっくりとトウカは息をついた。

これが今後、一生続くのだ。人生を潰したとアンラは言っていたが、まさにその通り。だからこそ絶望するし、愕然とする。

だが、実際に生活してみて、その表現はいささか大げさなような気がしてくる。大量殺人犯と言うほどエンジュは怖くないし、エンは可愛いし、この家の暮らしだって悪くない。あらゆる角度からの手厚いサポートも受けられるようだし、むしろ甘やかされているような気がしてくる。


「人生急に楽勝モードになりました、みたいな……」


最初に身構えていた反動で楽観視しすぎているだけだろうか。思ったより怖くないから調子に乗り出しているのか。

そんな自己分析をしつつ、トウカは報告書にペンを走らせた。いかにもお役所的な文面の用紙に一言『問題なし』と。折れ曲がらないよう丁寧に鞄にしまったところで、あ、と思い出した。


「やばい、課題やってない!」


明日提出日だ!!

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