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慣性中和装置

第二章 慣性中和装置と、乗れないロボット


翌朝。


「……買っちゃった」


私は作業場の床に置かれた、巨大な箱を眺めていた。


箱、と言っても普通の箱じゃない。


軍用輸送規格。

防振、防湿、耐衝撃。


そして側面には、古びた軍の管理番号。


中身は――


大戦中の戦闘機用・慣性中和装置。


昨日、廃材屋の兄さんから買ったものだ。


「……高かった」


しみじみと言ってみる。


返事はない。


当然だ。


機械だからね。


私は箱を開ける。


中には、灰色の金属製ユニットが収まっていた。


見た目は古い。


実際、古い。


現在の軍では、もう使われていない。


もっと小型で、効率がよく、制御も賢い新型がある。


こいつは大戦中の兵器。


つまり――


骨董品だ。


ただし。


軍用の骨董品は、民間の骨董品とは意味が違う。


壊れていなければ、まだ使える。


そして、この装置は。


「……新品なんだよねぇ」


倉庫で眠っていただけの、完全未使用品。


製造から何十年も経っているというのに、内部は驚くほど綺麗だった。


「これは、当たりだな」


私は頬を緩める。


「さて」


問題は、これを何に使うか。


答えは決まっている。


もちろん――


五号機だ。


作業場の奥。


巨大な格納庫のようになった工房に、それは立っている。


全高十五メートル。


二本の脚。


二本の腕。


人間が乗り込むための頭部コクピット。


私はそいつを見上げた。


「お待たせ。五号機」


もちろん返事はない。


「今日は君に、いいものを付けてあげよう」


私は工具箱を引っ張り出した。


慣性中和装置。


簡単に言えば、乗っている人間に伝わる加速度を減らす装置だ。


ロボットが急加速すれば、中の人間も同じように振り回される。


普通なら、シートを緩衝材で浮かせたり、姿勢制御をしたり、衝撃吸収装置を重ねたりする。


けれど、それにも限界がある。


十五メートルの巨体が走る。


跳ぶ。


急停止する。


方向を変える。


そんなことを人間がやれば、いくらシートを工夫したところで――


中身が先に壊れる。


だから軍は、慣性そのものに干渉する装置を開発した。


大戦中には、戦闘機や一部の高速兵器に使われていたらしい。


ただし。


現在では、ほとんど使われていない。


理由は単純。


「デカい。重い。燃費が悪い。制御も難しい」


私は説明書を読みながら、指を折る。


「そして、古い」


最後に一つ。


「……高い」


これが一番重要だった。


私の財布にとって。


「よし」


工具を持つ。


「取り付けよう」


数時間後。


「……うーん」


私は五号機の胸部ハッチから顔を出した。


慣性中和装置は、予定通り胸部中央に収まった。


ただし、そのままでは動かせない。


問題は制御だ。


大戦中の装置は、戦闘機に搭載されることを前提にしている。


つまり、航空機用。


ロボットとは、加速度の方向がまるで違う。


前後だけではない。


上下左右。


旋回。


歩行による細かな振動。


さらに、二本脚特有の不規則な揺れ。


「さて、どうするか」


私は制御盤を見る。


「……」


考える。


一秒。


二秒。


三秒。


「面倒だね」


私は配線を一本抜いた。


「ここを、こうして」


別の配線をつなぐ。


「これでいい」


それを見ていたジーミーが、呆れた顔をした。


「姉さん」


「ん?」


「それ、説明書と違わない?」


「違うね」


「いいの?」


「いいよ」


「……どうして?」


私は笑った。


「説明書は、航空機に付けるときの説明書だからさ」


「じゃあ、ロボット用に書き換えたの?」


「いや」


「じゃあ?」


「私が、ロボットだからね」


「……意味が分からない」


「私も分からない」


「姉さん……」


ジーミーは、深いため息をついた。


失礼な。


私は真面目に作業しているのに。


夕方。


ようやく組み上がった。


私はコクピットに乗り込む。


ハッチが閉じる。


照明が落ちる。


正面のディスプレイに、五号機の各種状態が表示された。


「電源、正常」


「油圧、正常」


「姿勢制御、正常」


「慣性中和装置――」


私は表示を見る。


「……正常」


よし。


「じゃあ、歩いてみよう」


五号機が動く。


右脚。


左脚。


一歩。


二歩。


三歩。


「……」


私は目を細める。


揺れが、少ない。


予想以上だった。


もう一歩。


さらに一歩。


「へえ」


五号機が歩く。


ドスン。


十五メートルの巨体が地面を踏む。


普通なら、コクピットはかなり揺れる。


けれど。


「……これなら、走れるね」


私は笑った。


「ジーミー!」


外部スピーカーから声を飛ばす。


『なに?』


「ちょっと走ってくる!」


『待って!』


「何?」


『何って……!』


『ここで走るな!』


「大丈夫、大丈夫」


私はアクセルを踏み込む。


五号機が加速する。


一歩。


二歩。


三歩。


そして――


走った。


十五メートルの巨体が、地面を蹴る。


「ははっ!」


楽しい。


これは楽しい。


「すごいじゃないか!」


私は操縦桿を倒す。


五号機が右へ曲がる。


左へ。


さらに加速。


「もっといける!」


速度計の数字が上がっていく。


五号機が跳ぶ。


宙に浮く。


そして――


着地。


ドォンッ!


地面が揺れた。


「おおっ!」


私は笑う。


……けれど。


その瞬間。


ディスプレイに警告が出た。


慣性中和装置――出力上限到達。


「ん?」


私は表示を見る。


「もう上限?」


おかしい。


この装置は、こんなに簡単に限界へ達するようなものじゃない。


少なくとも、大戦中の戦闘機なら。


「……なるほど」


私は少し考えた。


「この機体、速すぎるのか」


五号機を止める。


「ふむ」


私はコクピットの中で腕を組む。


慣性中和装置そのものは正常。


問題は、機体側。


もっと正確に言えば――


私が機体を動かしすぎている。


「これは困った」


私は笑った。


「旧式の装置じゃ、足りないじゃないか」


工房へ戻る。


五号機を格納庫へ入れると、ジーミーが駆け寄ってきた。


「姉さん!」


「ただいま」


「何やってるの!」


「試運転」


「地面が揺れたよ!」


「うん」


「家まで揺れた!」


「うん」


「町の人が見てたよ!」


「……それは困った」


「困ったじゃない!」


ジーミーは怒っている。


私は頭を掻いた。


「ごめんごめん」


「もう……」


ジーミーは五号機を見上げる。


「でも、ちゃんと動いたね」


「うん」


「これなら、人が乗れる?」


「普通の人なら、まだ無理だね」


「じゃあ、意味ないじゃん」


「あるよ」


「何が?」


私は五号機を見上げた。


「私が乗れる」


ジーミーは黙った。


「……姉さんだから?」


「そう」


「それ、理由になってないよ」


「私にとっては、なるんだよ」


ふふん。


その夜。


私は工房で、一人、五号機のデータを確認していた。


慣性中和装置の記録。


加速度。


機体姿勢。


制御入力。


すべてを見る。


「……」


おかしい。


やっぱり、おかしい。


装置が想定している加速度と、実際の機体挙動が合っていない。


私はもう一度、計算する。


そして気づく。


「……ああ」


私は笑った。


「そういうことか」


慣性中和装置は、私を守っている。


正確には――


私が機体に与えた運動を、私自身に返さないようにしている。


そこまでは正常。


問題は、その量。


五号機が跳んだとき。


着地したとき。


方向転換したとき。


私は、普通の人間なら耐えられないような加速度を受けている。


それなのに。


私自身には、ほとんど影響がない。


「……装置のおかげ、じゃないな」


私は自分の手を見る。


「装置は、ちゃんと働いてる」


けれど。


「私が、その程度じゃないんだ」


少しだけ、背筋が寒くなった。


私は、慣性中和装置を外した状態でも、五号機を動かせる。


たぶん。


いや。


確実に。


できる。


それを、私は知っている。


知っているからこそ。


試さない。


まだ。


「……まあ、いいか」


私は装置のログを閉じた。


「趣味のロボットに、そんな難しい話はいらないさ」


私は立ち上がる。


工房の照明を落とす。


最後に五号機を見る。


月明かりの中で、巨大な人型の機体が静かに立っている。


「いつか」


私は小さく呟いた。


「もっと速く走らせてやるからね」


そして私は、いつものように笑った。


「そのためにも――」


「次は、反重力ユニットだ」


……ただし。


その前に。


「ジーミーに怒られないように、地面を直さなきゃね」


ふふん♪


第三章 反重力ユニットと、浮いた五号機

「……買っちゃった」


作業場の床に置かれた、二つ目の軍用品を見ながら、私は呟いた。


先日の慣性中和装置に続いて、今度は――


戦車用・反重力ユニット。


しかも、大戦中のデッドストック品。


廃材屋の兄さんが、爽やかな笑顔で持ってきた代物だ。


「在庫を整理してたら、姐さんが好きそうなのが出てきてね」


「お前、私の財布を監視してない?」


「まさか」


「じゃあ、なんで今日持ってくるのさ」


「偶然だよ」


「……絶対嘘だ」


まあ、買ってしまったものは仕方ない。


私は箱を開けた。


中から出てきたのは、ずんぐりした円筒形の装置。


見た目は古い。


とにかく古い。


角ばった外装。


太いケーブル。


大きな冷却機構。


そして、現在の規格では考えられないほどの重量。


「……これ、戦車に積んでたんだよね?」


「そうだよ」


「戦車って、これを積んだまま走ってたの?」


「そういうこと」


私は装置を見つめる。


「……昔の軍人、根性あるなぁ」


反重力ユニット。


名前だけ聞けば、なんでもできそうな響きだ。


けれど、実際は違う。


これは空を飛ぶための装置じゃない。


少なくとも、この旧式型は。


機体そのものに作用する重力場を調整し、機体が地面から受ける荷重を減らす。


簡単に言えば――


「重さを、軽くする」


ただし、完全に無重力にするわけじゃない。


そんなことをしたら、戦車は地面を蹴って、どこかへ飛んでいく。


大戦中の戦車用ユニットは、あくまで重量軽減用。


重たい装甲車両を、地面に押し付ける力を減らす。


結果として、


足回りへの負担が減る。


加速性能が上がる。


制動距離が短くなる。


不整地での走破性が向上する。


巨大な機体でも、構造材への負荷を抑えられる。


そういう代物だ。


「つまり……」


私は五号機を見る。


「君にぴったりじゃないか」


十五メートルの巨体。


二本の脚。


二足歩行。


普通なら、まず自重が問題になる。


歩くだけならまだいい。


走る。


跳ぶ。


着地する。


そのたびに、脚部へ巨大な荷重がかかる。


慣性中和装置で、乗員への負荷は抑えられる。


でも。


機体そのものの重さは消えない。


ここが問題だった。


だから――


「付けよう」


私は即決した。


「姉さん」


「ん?」


「また何か付けるの?」


「うん」


「この前も付けたよね」


「慣性中和装置ね」


「それ」


「今回は反重力」


ジーミーは、しばらく黙った。


「……五号機、重くならない?」


「なるね」


「じゃあ、意味ないんじゃない?」


「ところが、そうでもない」


私は反重力ユニットを持ち上げた。


「こいつ自身は重いけど、取り付けた後は機体全体の実効重量が減る」


「……よく分からない」


「私も説明するのは面倒だ」


「姉さん」


「だから、見てな」


取り付け位置は、腰部。


五号機の重心に近い場所。


ここなら機体全体に均等に効果をかけられる。


本来の戦車なら、車体中央に置く。


戦車は一個の箱だから、それでいい。


でも五号機は違う。


頭がある。


胴体がある。


腕がある。


脚がある。


しかも二本脚で歩く。


重心は常に動く。


だから、一つのユニットだけでは不安定になる。


「……」


私は設計図を見る。


「やっぱり、普通に付けるだけじゃダメだね」


「じゃあ、どうするの?」


ジーミーが聞く。


私は工具を取り出した。


「分散させる」


「分散?」


「ユニットの出力を、機体の各部へ送る」


「そんな改造して大丈夫?」


「たぶん」


「たぶんって……」


「大丈夫、大丈夫」


私は笑った。


「私が作ってるんだから」


「その言葉、安心していいのか不安になるんだけど」


失礼な弟だ。


作業は夜まで続いた。


反重力ユニットを五号機の腰部へ固定。


そこから背骨に相当するフレームへ出力を送り。


肩。


腰。


両脚。


さらに足首。


それぞれに微調整用の制御装置を追加する。


最後に、既存の姿勢制御システムと接続。


「……完成」


私は工具を置いた。


「電源、入れるよ」


ジーミーが少し離れる。


「……爆発しない?」


「しないよ」


「前もそう言った」


「爆発しなかっただろ?」


「煙は出た」


「煙は爆発じゃない」


「姉さん基準ではね」


私はスイッチを入れた。


低い音が響く。


ブゥゥゥン……


五号機の内部で、何かが目を覚ます。


モニターの表示が変わる。


反重力ユニット 起動


出力――0%。


私は少しずつ出力を上げる。


10%。


20%。


30%。


「……」


何も起こらない。


「40%」


五号機の脚部が、わずかに沈む。


「ん?」


私は眉をひそめた。


「逆だ」


「え?」


「この表示、旧式だから」


私は制御系を書き換える。


表示が変わる。


荷重軽減率


「これなら分かりやすい」


もう一度。


10%。


20%。


30%。


五号機の脚部が、少しずつ伸びる。


「おお……」


ジーミーが声を上げる。


「浮いてる?」


「まだ」


40%。


50%。


五号機の巨体が、ほんの少しだけ地面から離れた。


数センチ。


「……」


私は黙った。


ジーミーも黙った。


工房が静まり返る。


十五メートルの巨大ロボットが。


地面から浮いている。


「姉さん」


「ん?」


「これ、戦車用だよね?」


「そうだね」


「戦車、こんなに浮くの?」


「……普通は浮かない」


「じゃあ……」


「調整が良かったんだろう」


「誰の?」


「私の」


ふふん。


問題は、ここからだった。


反重力ユニットは、本来、荷重を減らすためのもの。


だから、出力を上げれば上げるほど、機体は軽くなる。


理屈としては正しい。


でも。


「……上げすぎると、困るね」


「何が?」


「歩けなくなる」


私は出力を上げた。


60%。


五号機が浮く。


70%。


さらに浮く。


80%。


「……」


足が地面から離れた。


「姉さん」


「うん」


「完全に浮いてる」


「うん」


「これ、ロボット?」


「ロボットだよ」


「飛行機じゃなくて?」


「ロボット」


90%。


五号機が、ゆっくり上昇する。


「……」


私は慌てて出力を落とした。


「危ない危ない」


「危ないよ!」


「空まで行くところだった」


「笑い事じゃない!」


私は五号機をゆっくり着地させる。


ドスン。


……ではない。


ふわっ。


音もなく、巨大な脚が地面に触れる。


「……これは」


私は考え込む。


「使える」


「使えるの?」


「うん」


私は五号機を見る。


今までとは違う。


足が軽い。


機体が軽い。


動かしたときの反応も違う。


「これなら、脚部の負担をかなり減らせる」


「つまり?」


「もっと速く走れる」


「……」


ジーミーが嫌な顔をした。


「姉さん」


「何?」


「走らないでよ」


「え?」


「この前、地面が揺れた」


「今回は大丈夫」


「何が大丈夫なの?」


「浮かせてから走ればいい」


「そういう問題じゃない!」


私は笑った。


「まあ、試してみよう」


「やめて!」


翌朝。


町はずれの空き地。


私は五号機のコクピットに座っていた。


反重力ユニット、正常。


慣性中和装置、正常。


姿勢制御、正常。


「よし」


出力を調整する。


反重力、三十%。


機体が軽くなる。


慣性中和装置が、それに合わせて出力を変える。


「……いいね」


一歩。


二歩。


五号機が歩く。


以前より明らかに軽い。


足を上げる。


踏み出す。


着地する。


機体そのものの負担が少ない。


「これなら……」


私はアクセルを踏んだ。


五号機が走り出す。


一歩。


二歩。


三歩。


加速。


速度が上がる。


以前より明らかに速い。


しかも――


揺れが少ない。


「ははっ!」


私は笑った。


「成功だ!」


五号機が大地を駆ける。


十五メートルの巨体が、まるで人間のように走っている。


さらに加速。


「まだいける!」


私は出力を少し上げた。


反重力、四十%。


機体がさらに軽くなる。


速度が上がる。


「おお……!」


そして。


私は気づいた。


「……」


足が。


地面から。


ほんの少しだけ離れた。


「……あ」


五号機が、走っているのではない。


浮いたまま進んでいる。


私は慌てて出力を落とした。


五号機が地面に戻る。


「……」


「……」


無線から、ジーミーの声が聞こえた。


『姉さん』


「はい」


『今、浮いたよね?』


「……少し」


『少しじゃないよ!』


「まあまあ」


『飛ぶところだったよ!』


「飛べるなら、それはそれで面白いじゃないか」


『面白くない!』


私は笑った。


でも。


少しだけ、考える。


このユニット。


旧式だ。


戦車用。


大戦中の兵器。


本来なら、こんな使い方はできない。


なのに。


私が調整すると。


十五メートルの二足歩行ロボットを、ほとんど無理なく浮かせられる。


「……」


私は、モニターを見る。


異常はない。


出力も安定している。


装置そのものにも問題はない。


だったら。


問題なのは――


「私の調整の仕方、なのかな」


私は呟いた。


もちろん、答えはない。


その日の午後。


私は軍の技術資料を開いていた。


大戦中の反重力ユニット。


最大荷重軽減率。


標準運用。


安全限界。


全部読む。


「……おかしい」


私は眉をひそめた。


資料によれば、この型のユニットは、戦車一台の荷重を三割程度軽減するのが限界。


五割を超えると制御が不安定になる。


七割を超える運用は禁止。


そして。


八割以上は、理論上の実験値。


実用例なし。


私は昨日のログを見る。


五号機。


最大出力九十%。


安定。


「……」


私はしばらく黙っていた。


そして、笑った。


「まあ」


私は資料を閉じる。


「昔の人が、使い方を知らなかっただけかもしれないね」


そう言って。


私は五号機を見上げる。


「……それとも」


小さく呟く。


「この機体と、私の相性がいいのかな」


それ以上は、考えなかった。


今は。


そんなことより。


「よし」


私は工具箱を開いた。


「次は、脚部の強化だ」


ジーミーが振り返る。


「まだやるの?」


「もちろん」


「何を目指してるの?」


私は五号機を見上げる。


「決まってるだろう?」


私は笑った。


「カッコいいロボットさ。」


それだけ。


それだけでいい。


少なくとも今は。


町はずれの工房で。


旧式の軍用品を寄せ集めて。


誰にも必要とされていない、巨大な二足歩行ロボットを作る。


それが私の趣味だ。


「ふふん♪」


五号機の足元で、私は笑った。


ただし。


このときの私は、まだ知らなかった。


この二つの旧式兵器――


慣性中和装置と反重力ユニット。


それを組み合わせることで。


五号機は、軍の現行兵器ですら想定していない領域へ、少しずつ足を踏み入れていくことを。


そして。


その中心にいる私自身が。


この世界の常識から、すでに大きく外れていることを。


……まあ。


そんなことは、今はどうでもいい。


「次は、もっと速く走らせよう」


私は工具を握り直した。


「趣味なんだからね」


おあとがよろしいようで。


ふふん♪

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