よろず屋の仕事
ステラの賑やかな日常を描きます
よろずやステラ
―― 趣味人、今日も町はずれで巨大ロボットを組み立てる ――
―― 趣味人、今日も町はずれで巨大ロボットを組み立てる ――
第一章 よろずやの看板娘(という名の変人)
「はーい、いらっしゃい。よろずやだよ、なんでも屋のよろずやさ」
町はずれ、大通りから一本外れた寂れた商店街のいちばん端。色褪せた看板には、こう書いてある。
よろずや――金さえもらえば、なんでもやります
看板の下には小さく、こうも書いてある。
(ロボット修理も、します。たぶん)
私の名はステラ。このよろずやを営む、ハイブリッドの女店主だ。ハイブリッドってのは、生まれつき体の一部が機械ってやつさ。「機械化度」って言葉があってね、全身が生身なら0、全身が機械なら100ってわけ。私は……まあ、教えない。レディの秘密ってやつだ。
さて、そんな私には、ひとつだけ人に言えない――いや、言いふらして逆に引かれてる趣味がある。
趣味人。それが私の裏の顔さ。
何が趣味人かって、暇さえあればロボットを作ってるから。ただのロボットじゃない。**人が乗るのが前提の、大型二足歩行ロボット**さ。もうこの時点で頭がおかしいと言われる内容だよ、自分でもわかってる。
だって考えてみておくれよ。二足歩行ってだけで、実用性が一気に落ちるんだ。
使い道は、ほぼ家庭用に限定される。なんでかって? 一般家庭の移動経路ってのは、人の行動域に合わせて作られてるんだよ。嘘だと思うんなら、家の中を両手いっぱいに広げて歩いてみな。通路は間違いなく、広げた両手は通らない。扉はどうだ? そういうことさ。人間サイズで動くのに最適化されてるから、家庭用もそれに合わせてある。
じゃあ企業ならどうかって? 企業の施設は、通路も扉も両手を広げて歩ける。だから二足歩行が――とはならないんだな、これが。実際は**ケンタウロスタイプ**、つまり脚がキャタピラやタイヤのやつが主流さ。段差も関節で静かに越えるし、安定性は段違い。二足歩行の出る幕はないのさ。
……そこまで分かってて、なぜ私は二足歩行を作るのか。
趣味だから。
それ以上の理由があるか、って話さ。ふふん。
第二章 全高15メートル、という狂気
そして私を「趣味人(頭おかしい)」とまで言わしめた代物が、これだ。
全高、**15メートル**。人が乗ることを前提とした、二足歩行の巨人。
試作だけで、もう四体になる。四体とも「動かない」なんて不完全な部分は一切ない。基本動作は完璧だった。歩く、走る、しゃがむ、掴む。どれも文句なしの出来栄えさ。
問題は、ひとつだけあった。
私以外、誰も乗れない。
まず、二足歩行は振動が凄まじい。前後左右に、容赦なく振り回される。歩いてるうちはまだいい。二三歩なら、コクピットの緩衝装置でも耐えられるだろう。でも、**走ったらもうダメだ**。一分も持たない。生きてたら、めっけものってやつさ。
乗れるのは、全身機械化した機械化度95%以上の者か、アンドロイド。あるいは、慣性中和装置でも積まない限り、無理だね。
じゃあお前はどっちなんだ、と聞かれる。私はこう答えるしかない。
「どちらでもないよ」
……え? なんで乗れるのかって?
だから、教えないって言っただろう。レディの秘密さ。ふふん。
第三章 ライアン警部からのコール
何のために作ってるのか、って?
はっは、それを聞くかい。**趣味としか言いようがない。**
誰とも知れない所員の私物のデータの中に有った映像、「カッコいい」ロボットに乗って戦う話。普通に考えたら、理不尽極まりないよな。地面を走る巨大ロボットが、戦車を、航空機を、一方的に蹂躙するんだぜ。戦車の主砲も、戦闘機のミサイルも、まるで効かない。あり得ないだろ?
けど、私は――**カッコいい**と思ってしまった。
いつか私もロボットに乗りたい、って思ったのさ。間違えないでおくれよ、戦いたいとか、そういうんじゃないから。ただ、カッコいい。それだけだ。
……もちろん、ロボットばかり作ってるわけじゃない。お金を稼がないと、生きていけないからね。普段は社名のとおり「よろず屋」、金さえもらえば何でもやる。最近は警察からの依頼で、賞金稼ぎの真似事が多いさ。あいつら、金払いがいいからね。
と――言ってるそばから、客だ。
卓上の端末が、けたたましく鳴る。このコールサインは……**ライアン警部**だな。
『悪いなステラ、来てくれないか。違法改造された**機械化トーチカ**だ。かなりの重装甲、重装備。うちの所轄の**AD**は別件で出ていて、こちらには対抗手段がない。金は二割増で払う。頼む』
私は二つ返事で了承した。
「ジーミー、聞いてたな。ちょっと行ってくるよ」
「はいよ、姉さん。気をつけて」
ジーミーは、うちの……まあ、弟みたいなもんだ。返事はいつも素っ気ない。
私は上着を羽織ると、バイクにまたがり、現場へと向かった。
第四章 戦場と化した街角
指定された現場は、**戦場**だった。
パトカーがあっちこっちでスクラップになっている。こりゃあ、一般警察じゃどうにもならんわ。
どうやら、ヤクザの事務所に突入しようとしたら、居たのか。無駄に頑丈そうなビルが、ビル街の一角に鎮座している。入り口は正面のみ。周りは雑居ビルに囲まれ、裏口はすでに突入済み、と。
ああ、聞いた聞いた。同時に突入したけど、正面は阻まれて、裏口から目的は達したものの、トーチカを入り口から動かさないようにするので精一杯だった、か。
「奴は自動モードで動いてるのか?」
「うん? 警官隊の突入を攻撃として自動で迎撃、その後は無差別に近づくものを攻撃、ってところか。闇市か何かで流れてきたやつを、そのまま使ったな?」
「実際に動き出したら、止めることもできなくなった……てとこか」
「バカじゃない」
AI様が入ってるなら、入念に検査と整備をしないとダメなんだよ。それをそのまま使うなんて。
馬鹿じゃねぇの。
ライアン警部はどこかと思ったら、向かいのビルにいた。電話で聞くと、やってもいいと言う。承認印を送ってもらい、確認が取れたら――
「仕事しましょうか!」
人気のないところに移動して、周囲を確認する。そして、おもむろに服を脱ぎ、隠す。
「**隠密モード、オン**」
送ってもらった位置情報に従い、相手に接近する。
「ああ! こりゃあ駄目だ! ライアン警部が割増を出すわけだ」
相手は、大戦中に基地防衛に配置されていたやつだ。それも、**最高級品**。
普通に、安全に倒そうとするなら、戦車が必要になる。今どきの新人なら、相手が何か分からなかったんだろう。
警部は見てないな。見てたら、私より軍に依頼するだろうからな。代わりにこの辺は更地になるけど。
「うん。追加請求決定だね」
そうと決まれば、いったん後退して、警部に映像を見せる。
「どうする? **S級の三倍**なら、手を打つけど?」
しばらく悩んだ後、承認印が送られてきた。
「よしよし、一年はこれで働かなくて良い」
では、もう一度。
「隠密モード、オン」
無造作に機体へ近づく。奴のばらまいたセンサにも、マイクロ地雷にも引っかからず、真横まで接近。もはや触れるほど近くに来ても、奴のセンサーには引っかかっていないんだろう。
奴の中枢は、ここからが一番近い。
おもむろに手を振りかぶり、**突き入れる**。その瞬時、私の手は**音速の三十倍**に加速し、トーチカの装甲を一気に貫く。音速の壁を破る衝撃音と、私の手が装甲を貫くときの激突音が混じり合い、凄まじい音が響き渡る。
トーチカは、戦車のレールガンに打たれたように、こぶし大の穴を開けて沈黙した。外側は綺麗だが、内部はぐちゃぐちゃだろう。
さて、服を回収したら、警部に連絡して、ジーミーのお見上げでも買って帰ろうか♪
――ライアン警部は、困惑していた。一体どうやって破壊したのか、サッパリ分からなかったのだ。散布されていたマイクロ地雷だけでも手に余るのに、散布が乱れたり、作動した後もない。やり口が、サッパリ分からなかった。
第五章 廃材屋の掘り出し物
おみやげを買っての帰り道、私は廃材屋に寄った。
そこの兄さんが、「掘り出し物がある、見ないか」と言うんで、見せてもらう。
「うん、掘り出し物だった」
なんと、大戦中の**Z27型戦闘機の慣性中和装置**、それも**新品**だ。軍の倉庫で眠っていたものだそうだ。
慣性中和装置は、めちゃくちゃ高い。大きな家が買えるくらいだよ。
安くすると言われても、今日の稼ぎを、ほぼ丸ごと持っていかれる。
「……この兄さん、警部と繋がってるんじゃないのかしら?」
結局、買ってしまった。明日届けてくれるという。
「ジーミーにバレるの、嫌だなぁ」
第六章 人型戦車と、月光のダンス
翌日、朝一でまた警部から連絡。S級が出た、ADはまた別件だって。
「どうなってるの、この町の治安は!」
ジーミーに出かけてくると言って、家を出る。
警部の位置情報を頼りに、バイクで現場近くに行くと――警官隊の包囲の中、**人型戦車**という異名を持つ重装甲型の機械化兵が、道の真ん中で仁王立ちしていた。
うん?
幾つかのビルの屋上から、警官が奴を攻撃する準備をしているな。高速ミサイルが一つ。高機動型のミサイルが三つ。大口径の対物ライフルが二つ。警部の動かせる重火器を、かき集めた感じかな?
うん? これは……**様子見**だねぇ。失敗してから、金額を吊り上げてやろ?
ふふん。
うん、教科書通り。高速ミサイルで奴の注意を引き、奴がどんな動きをしても追尾するミサイルで追い込み、止めは大口径の対物ライフルで釣瓶打ち。なんだろうけど?
「ああ! 駄目か!」
先ずは煙幕で自身を隠し、続けざまにマイクロミサイルで屋上の警官を攻撃、対物ライフルの攻撃を阻止。背中に背負った身代わりを射出ミサイルの前に置くようにして、煙幕から出た直後のミサイルが慣性だけで進んでいる瞬間を狙う。
かくして奴は、一歩も動かず。警官隊の目論見は、潰えた。
「ヨシ。警部に会いに行こう♪」
「けーいぶ、来たよ♪」
「お前は、嬉しそうに来るな」
「だってねぇ! 賞金、上げて♪ もう打つ手、ないでしょ? 頼みのAD部隊は居ない」ニコリ。
「軍に頼む?」
「時間がかかる上に、この辺、更地になっちゃう」ニコリ。
「……うん」
「私に頼むしか、ないねぇ」ニコリ。
「**Sクラス、緊急性を考えて三割増し**でどう?」
「高いわ!」
「え〜っ!」
警部と私の中だし、負けてあげたのに〜ィ。
「二割! これ以上なら頼まん! 駄目なら、俺自ら警官隊を率いて特攻してやるわ!」
「そんなことしても、犬死だよ?」
「その時は、お前の枕元に全員で押しかけて、パーティーして眠れなくしてやるから覚悟しろよ!」
「はっはっは、ウケる。仕方ない、警部と私の中だし、受けてあげる♪」
さて。
「これ、預かっといて」
服を脱ぎ、下着だけになると、高周波ソードを片手に、おもむろにビルの陰から出る。姿を表すと――奴の体に、ビクッと震えがみえた。
しめた!
私を知っている。しかも、ヤクをやっている兆候はない。
これ、大事!
この惨状……一見、酷い事になっているが、誰も死んでいない。派手なだけだ。
時間稼ぎをして、仲間が助けに? 無理。逃亡手段? それも無理。じゃあ、自身は投降の流れが正解か? だから派手なだけで、人的被害を最小限に留めている。警部も、分かっているな?
なら、私の役割は?
ここまでの考察を0.1秒でまとめると、私は歩みを進め、奴が許せるであろう、ぎりぎりの距離まで近づいた。
警官隊に見えないように、奴の補助知覚に通信を送り込む。極小のレーザーによる通信だ。探知されようがない。
奴に問う。
投降の意思は? 条件を示せ!
長い。どうして、こんな簡単な問いに、こんなに時間がかかる。
生体脳はこれだから、とか? 慣性中和装置、どう取り付けよう、とか? ジーミーの教育、どうしよう、とか。脳内会議をしていると、実時間で10秒ちょっと後、なんか微妙に目が泳いでいる気がする。
レーザー通信、何処に当てていいか、悩んでいるな?
ふふん。
私は送る。**お前たち下等生物とは違うのだよ? 下着以外、どこでもよいから、バレないようにしろ。**
すると返ってきた。
後5分で契約完了なので、5分だけ見逃してほしい。
ふふん。なら、しばらくダンスの相手をしてもらおう!
「君は殺す気できたまえ。本気でないと、バレるよ」
……実際には、警部にバレてるけどね。お前を生かした時点で、確定だけどな!
5分後、奴の首筋に足を回し、肩車のような形で私が腕を振りかぶると――音声と通信、両方で『**助けてくれ**』と叫びが聞こえた。
「いやぁ、そんな本気で怯えないでよ。心外だなぁ!」
到着から15分。よい稼ぎ♪
今日は真っ直ぐ帰ろう。廃材屋に寄ると、今日の稼ぎもむしり取られそうな気がするから。
「けーいぶ、服返して♪」
警部の横にいるの、新人かな? ビビりまくってる。ちょっと近づいて正面に立ち、片足を地面に踏み抜いた。
……あっ! 力を込めすぎた。ドぉン、と音とともに地面が陥没する。
一瞬で状況を確認。
けが人、なし。言い訳、どうしようかと考えていると――
現実世界では、驚愕に顔が変わっていく新人。顔がしかめっ面に変わりゆく警部。
スローな時間の変化を楽しんだ私は、彼らの時間に合わせて、彼らが望む反応を行う。
第七章 反重力ユニットと、爽やかな笑顔
家に帰ると、ちょうど廃材屋が届けに来てくれていた。
挨拶をすると、ニヤリと笑いながら、「在庫を見てたら、姐さんが喜びそうなものを見つけたんだ。見てみないか」と。
「……お前、やっぱり警部と繋がってないか? 何で金がある時に的確にむしりに来れる!」
見ると、**戦車用の反重力ユニット**。しかも、大戦中のデッドストック。
「ほ、欲しい!」
頭の中で、実時間換算で一時間は会議したであろうか。
顔は無表情に、「反重力ユニットか。ふ〜ん」。いかにも関心なさそうに振る舞いつつ。
「値段は?」
「そう来なくっちゃ!」
「……やっぱりお前、警部と繋がってないか?」
キッチリ、今日の働き分、請求しやがった!
すったもんだの値引き交渉の末、警部から手に入れた金の、**割増以外**を取られた。
嬉しいやら、悔しいやら、複雑な心情を見越してか?
爽やかな笑顔で、挨拶して帰りやがった!
――まあ、いいさ。
今日の収穫は、反重力ユニット。これで五体目の試作機、いよいよ本格的に組み上げられる。そしたら、いつか。いつか、あの日の子供が見た、カッコいいやつを。
私は町はずれのよろずや。趣味人(頭おかしい)のステラさ。
今日も元気に、ロボットを組み立てている。
**おあとがよろしいようで。** ふふん♪




