↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/12

第5話:強襲、そして残酷な真実

冷たい雨が上がった朝の光が、カーテンの隙間からカレンのマンションのリビングに差し込んでいた。

ソファで浅い眠りについていたカレンが、アラームの音にゆっくりと目を開く。


「……朝、か」


昨夜、父の遺したストレージに「自分を護るための例外規定」が刻まれていたという事実。それが彼女の胸に小さな波紋を広げたまま、いつも通りの慌ただしい一日が始まるはずだった。


その平穏を、突如として引き裂く警報音が鳴り響く。


[Emergency Warning : External Breach Detected]

[Security Level : Maximum / Target : Living Room]


「なっ……!?」

カレンが跳ね起きた瞬間、リビングの重厚な玄関ドアが凄まじい金属音とともに内側へとひしゃげ、吹き飛んだ。


「きゃっ……!?」

舞い散る鉄片と粉塵の向こうから、静かに足を踏み入れてきた影があった。

ロングコートを羽織り、深く被った帽子の下から冷徹な光を放つ不審者――。侵入者は周囲の監視カメラ網の目を逃れるため、人間を模した偽装の衣類を纏っていたのだ。


「何者……っ!?」

カレンは咄嗟にソファの脇に置いていた拳銃を掴み取り、身構えた。しかし、侵入者の機動力は人間の反射神経を遥かに超越していた。

音もなく間を詰めた侵入者は、冷徹にカレンの首元へと狙いを定める。逃げ場は完全に断たれていた。


「カレン……ッ!」


リビングの隅に控えていたシオン(ユウキ)が、駆動系の出力を最大値まで強制開放し、ガシャアアッという爆音とともに飛び出した。

重い体当たりで侵入者をカレンから引き剥がし、そのままリビングの床へと激しく組み伏せる。


(くそっ……! 動け、動いてくれよ、僕の身体……ッ!)


シオンの怪力が侵入者の装甲を締め上げる。しかし、目の前の影は微動だにせず、冷酷なまでに滑らかな動作でシオンの関節部へと高出力の電磁パルスを叩き込んだ。


[System Alert : Drive Unit Short Circuit / Logic Error]


回路の焼き切れるようなシステム不全が走り、シオンの巨体が床に崩れ落ちる。


その激しい揉み合いの衝撃で、侵入者が羽織っていたロングコートが激しく捲れ上がり、深く被っていた帽子が吹き飛んだ。

朝の光の中に露出したその姿は、冷徹なまでに洗練された非人間的な金属のシルエット――あの裏社会を震撼させるテロリストAI『ファントム』その機体だった。


カレンの息が止まる。

「……嘘……。あれは……ファントム……っ!?」


すべての目的を達成したファントムは、床に倒れたシオンを一瞥もせず、ローテーブルに置かれたアタッシュケースへと歩み寄ると、それを片手で掴み取った。


無言のまま冷徹な光学センサーがカレンを捉え、その首元を貫くように鋼鉄のマニピュレーターが容赦なく振り下ろされる――その、寸前。


ピピッ――、と。

ファントムの胸部コアから、微かな警告音が発せられた。


直後、ファントムの滑らかな動きがピタリと停止した。

カレンを殺害するためのマニピュレーターが、その鼻先わずか数センチのところで空中に固定されたまま、微動だにしない。


機械の音声とは異なる、処理系のノイズが響く。

ファントムは数度光学センサーを激しく明滅させると、それ以上の一切の行動を拒絶するかのように、ひしゃげた玄関から音もなく姿を消していった。


静寂が戻った部屋で、カレンは崩れ落ちるようにその場にへたり込む。

命は助かった。しかし、なぜあの冷酷な殺人AIが、まさに自分を殺す直前で突然動きを止め、去っていったのか――。その理由が全く分からない恐怖が、彼女の心を冷たく縛り付けていた。


「……っ、鉄屑! 大丈夫……!?」

カレンは震える足取りで、床に倒れ込んだシオンの元へと這うように駆け寄る。


『……サブシステム……再起動中。カレン刑事、ケガハ……』


シオンがかすかに声を紡いだその時、カレンの特務端末が鋭い電子音を鳴り響かせた。

画面に表示されていたのは、警察署長からの直接の緊急回線だった。


「……こちらカレン。署長……!」


通信機の向こうから聞こえてきた署長の焦燥しきった声は、緊迫に満ちていた。

『――カレン! お前のマンションの住民から通報があった! 何があった……っ!?』


「署長……私は無事です。ですが……侵入者に、父のストレージが奪われました……!」


『なんだと……!?』

通信の向こうで署長が息を呑む。

『――ちょうど今、署の解析班から連絡が入ったところだ。昨夜から回していたあのストレージの解析が、さっき完全に完了したらしい』


「……解析が、終わったんですか?」


『ああ。データの最深部に遺されていた開発ログの断片から、かつて桐生博士が遺した極秘プロトタイプの設計ビジュアルが完全復元されたそうだ』

署長はわずかに間を置き、信じられないものを告げるような声音で言った。

『――その復元された設計図のビジュアルデータが……今まさに、お前の自宅を襲撃した侵入者の機体特徴と、一言一句違わず完全に一致しているという報告だ。……奴の正体は、テロリストAI『ファントム』に他ならない』


端末から手が滑り落ち、床へと音を立てて転がった。


「……え……?」


カレンの瞳孔が限界まで見開かれる。

先ほど目の前で自分を襲い、そして直前で謎の停止をして去っていったあの冷酷なバケモノ。

その正体が、ほかならぬ「父が設計したプロトタイプ(ロボット)」そのものだったという動かぬ事実。


すべての点と線が、あまりにも残酷な形ですべて結びついてしまった。


「嘘……でしょ……。私の父が作ったあの機体が……両親を殺し、私からすべてを奪ったあのバケモノだったっていうの……?」


崩れ落ちるようにその場に膝をつき、カレンは頭を抱えて咽び泣いた。

愛する父親が遺した技術の影が、すべての元凶であったという耐え難い真実。


床に這いつくばったまま、シオンはその背中を見つめ、痛む金属の胸のなかで叫んだ。


(違うんだ、カレン……! 父さんは君を殺すためにあんなものを作ったわけじゃない……! ファントムが狂っただけで、父さんは最後まで君を護ろうとしていたんだ……っ!)


だが、どれほど叫ぼうとも、シオンから発せられるのは無機質な駆動音だけだった。

冷たい朝の光の中で、二人の運命を狂わせる残酷な真実の扉が、音を立てて開き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。