福祉としての仕事
挨拶を終えた俺はとりあえず介護現場を観察することにした。しばらく様子を伺っていると、他のスタッフに対して、勉強を教えてほしいと訴えている高校生ぐらいの少年がいた。他のスタッフ達は利用者達の身辺介護に忙しくてその子への十分な対応ができてないようだった。姿勢保持や、体を整える事に対しては素人だったが、勉強を教える事は可能そうだと俺には思えた。早速、明るい声で話しかけてみることにした。「こんにちは、さっきは返事を返してくれてありがとう。君は確か西本くんだったよね? さっきから勉強を教えてほしいと周りに伝えていたけど、それは僕でもいいかな?」俺は出入り口に貼ってあった名簿表を見ながらそう声をかけた。「えっ、いいの!佐藤先生ありがとう。」そう答える彼の目は輝きに満ち溢れていた。その手元にあったのは、GIGAスクール構想で普及していた、タブレット端末だった。それに問題が映されているようで、向かい合ったままでの指導は難しかった。そのため、電動車椅子を彼の横につけて同じ画面を見ながら、学習支援を始めた。話を聞いていくと彼の知的レベルは年相応だったが、学校では深い学びを得る事ができなかった。話をしてみると彼の過去について色々とわかったことがあった。彼の両親は共働きで、勉強を教える時間が取れない代わりにテキストを自腹で買い与えていた。彼はそれを使って勉強していたとのことだった。それでもわからない事が増えてきたため、私塾に頼ろうとした時に困った事が起きた。どこも受け入れを拒否したのだ。彼の両親がその理由を聞くと皆同じように答えたそうだ。それは社会的情勢及び、身体的特性から対応は難しいとのいうものだった。それを聞いた俺は元々、政策を提言する立場にいたことから教育を受ける権利が徹底されていないことに対してはらわたが煮え繰り返る思いを抱いた。しかしその場では感情を抑えてできる限り笑顔でタブレットに移された問題に取り組む彼に対して助言を与えたり、問題の解き方における思考法を伝えたりした。彼がつまずいていたのは数学の二次方程式と三角関数、そして英語のボキャブラリーだった
俺はそうやって利用者との関わりを深めていった。もともとオファーを受けた理由として、自分だけ助かることができればそれでいいのかというロビイストを辞めてからの悩みがあった。しかし、現場で働いてみると未来に向かって子供達はすくすくと育っており、俺が抱いていた悩みがとても些細なものに思えてきて、俺はつい現実を忘れて、なんだかほんわかした気持ちになった。それと同時になんとしてもこの日常を守る必要があると覚悟を決めた。
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次回の投稿予定は6月5日です。




