送迎
今日は大規模な襲撃が起きたことによって民意がピリついていると小林は考えた。そのため、送迎にも護衛をつけることが決定した。ただし、俺と鈴木は待機になった。当然、アドレナリンが出まくっていたため、二人とも饒舌になっていた。「今日、襲ってきた奴らはかなりおかしな主張をしていたな。」そう、鈴木が話を振ってきた。「いや、俺はそう思わない。論理性には乏しかったが、感情の流れはとても自然な物だと感じたぜ。ただし主張は先鋭化し過ぎているだけだと受け止めたけどな。」「そうか。」鈴木はそう短く返事を返した。彼らの論理はかなり飛躍していたが、俺には単なる悪者だと言い切ることはできなかった。確かに子供たちが言っていたように障害者にとって危険な人物であるのには間違いなかったが、俺は敵として処理するにはモヤモヤが残ってしまった。事業所の送迎車が次々と発車していく中、身内が迎えにくる利用者を守ることも考慮して武装を外さないまま待機をした。
施設周辺は警察による交通規制が行われており、迎えに来る家族は渋滞に巻き込まれていた。利用者を家族に返す時、よく聞いたのはいつもの二倍の時間がかかったという内容だった。それを聞いて俺は本当に武器の使用が障害者を守ることにつながるのかという自問自答を抱いた。確かに短期的に見ると武装を放棄すれば群衆に襲われるのは予想される未来だったが、現状を維持したとしても分断は広がるのではないかと深く考え込んでしまった。
しかし、興奮した口調で話し続ける鈴木の話し声によってその疑問はかき消されてしまった。それらはただの雑談だったり、学生時代を回想した話だったりした。そうやって過ごしていると送迎車が全て戻ってきていた。利用者が全員帰ったことを確認した俺たちは、清掃作業に勤しんだ。俺は箒を車椅子に括り付けて地面をはわいた。翌日も営業するためには、必要なことだった。それは利用者たちにさらなる不安を与えないようにするためだった。今日一日で色々なことが起こったが、アドレナリンの影響からなのかあまり疲れを感じていなかった。
それが終わると、公共交通で帰路に着いた。電車内の液晶モニターや降車駅のスクリーンでは襲撃事案について報じられていた。それを見るに過去最大のものだったらしく、久々にメディアが報じていた。その後家に帰ってSNSを確認するとその出来事について賛否が分かれていた。多くは襲撃を起こした人を支持してオールドメディアを批判するものだったが、なかには暴力を用いた意思表明に対する疑問の声や、俺たちが勤めている施設側に同情する声も見受けられた。その声は少ないながらも、影響力を持つものだった。それを確認した俺は、しばらくは安心して生活ができそうだと感じた。今日、防衛に成功したという事実は敵意を持つ排斥主義者に対しての警告になったと考えたからだ。
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次回の投稿予定は8月22日です。




