飲み会
「ねえ、今日は新人歓迎会を行うんだけど、佐藤も来るよね?」午後の休憩時間に虹香から話を振られた。せっかくの親睦を深める機会だと感じた俺は後先考えずに「もちろんだ」そう答えた。それによって、その日職場では新人歓迎会を行うことが決定された。俺はもちろん参加すると伝えた。終業後に職場から二駅ほど離れた場所にある、繁華街の居酒屋へ同僚たちと向かった。
そこにはすでに仕事を終えた福祉スタッフもいた。もちろん、責任者の小林もだ。彼女が乾杯の音頭を取ったのち、お通しが運ばれてきた。食事介助が必要な状態だったが、過激な右派の影響でヘルパーの時間数は削減されており、その場には専属の介助者はいなかった。同性介助の原則に照らし合わせると対象は鈴木ぐらいしか来ていなかった。その時になって安易に参加を決断したことを悔やんだ。施設で働く男性スタッフは子供を持つ所帯持ちが多く、参加していなかったのだ。したがってその場にいたのは独身の女性スタッフか、子育てがひと段落着いたベテランスタッフしかいなかった。仕事以外で介助を頼むのはかなり気が引けたが、思い切って周囲の参加者に助けを求めた。すると、サ責の小林が名乗りを上げてくれた。その後、彼女はすぐに席の移動を始めた。俺の左隣に着席した彼女とは手が触れる距離で、二十代後半の男としては異性の身なりを観察しないわけにはいかなかった。背中まで伸ばした髪を後ろで一つに束ねていた。服装はボーダーのロンTにジーンズというものだった。靴は職場などで履いていたスニーカーではなく、パンプスを身につけていた。確か、面接を受けた時に三十代後半だと聞いていたが、その役職の肩書に比べてギリギリ二十代に見間違えるほど若々しさを感じた。なぜそこまで注視したのかというと普段受ける機会の少ない異性介助を受ける以上、相手の容姿を意識しないわけにはいかなかった。しかし、紳士的に振る舞うべきだと考えた俺は雑念を振り払うと、とりあえず頼んでいたハイポールを飲ましてもらった。彼女の荷物を席に移すなどの準備が一通り整うのを確認すると、すぐにこう告げた。
「俺なんかのためにプライベートの時間を介助に割いてもらって申し訳ない。」そう俺が謝ると彼女は言った。
「大したことじゃないわ。少しだけ私の職業観について話させてもらうと、障害というものは個人を構成する要素の一つであってその人の全てを示すわけじゃない。本人がそれについて帰属意識を持つかは別にしても、支援する側が障害という属性に囚われるのは愚かなことだと思うわ。困った時はお互い様っていうじゃないの。だからこそあなたが謝る必要はないんじゃないかしら」
俺はそれを聞いて、ああ、そういう考えがいまだに残っているのかと感無量になってしまった。なぜならば社会が崩壊していく中で車椅子ユーザーという属性で見られることが以前と比べ物にならないほど常に批判されていないか意識を巡らせていたからだ。たとえ、幼少期から続く嫌な視線に慣れていたとしても、ここ最近の風潮のせいで気づかないうちに精神を削られていたらしかった。久しぶりにそれとは違う意見に触れたことで安心感を抱いた。気がつくと俺の頬を涙が伝っていた。「ありがとうございます。」嗚咽を漏らして泣きじゃくりながらも俺は礼を言った。その時にはお酒が回っていた事もあって感情が爆発してしまった。「あー、もう、いいのよー。お祝いなんだから泣かない、泣かない。大丈夫だから。えーっと、何か食べる?唐揚げとか春巻きとか、いろいろあるよ。」俺の泣く姿を見て周りは騒然としたが、皆事情を理解しており口々に宥めてくれた。一通り泣き終えると小林の食事介助に甘えて食べたいものを伝えていった。
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次回の投稿予定は6月29日です。




