薬物の蔓延
翌日、いつも通り出勤する時に最寄りの駅構内に集団で屯している若者を見かけた。彼らの手には電子タバコの吸入器が握られており、それを吸っては異常なほど笑ったり、ふらつきながらも、大声で談笑したりしていた。俺はそれを見て彼らの気分が異様なほど高揚しているように映った。これまでの出勤中はあらかじめイヤホンをつけた状態で移動していて気づかなかったが、かなり薬物が浸透している様子だった。昨日のニュースを思い出してゾッとしたが、できるだけ刺激しないようにその場を通り過ぎた。運が良かったのか、彼らは何もしないでその場で仲間内での談笑を続けていた。
その後、いつも通りスロープを駅員にかけてもらい、電車に乗った。運が悪くて駅員が指定した乗り口から車椅子スペースまでは遠かった。そのため、乗客に対して謝りながら専用スペースのある場所に向かった。先ほどの若者たちのことが関係しているのか、乗客は不機嫌そうだった。いつも以上にその場の空気が凍りつくのを感じたが、何事もないふうを装った。降車してからも不快な気持ちが残ったが、それ以上に西本くんが喜ぶ姿を早く見たくてウキウキしていた。
そんな上機嫌な気持ちで出社すると、彼が来るまで防犯カメラのチェックに鈴木と当たっていた。午前中は俺が利用者の元にいても、できることが少なくて手持ち無沙汰になっていたからだ。「おい、聞いたか。翌々週の休業日を活かして射撃訓練を行うらしい。浩也も来るよね?」「もちろんだ」そう答えたが、制作した教材への反応が気になって、返事は上の空になってしまった。
午後になって学校が終わり、放課後デイの利用者が入ってきた。彼らに対してお疲れ様と声をかけた。反応を返してくれるのは相変わらず陰られていたが、西本くんはちゃんと返事を返してくれた。昨夜に作った教材は私用のタブレットからアクセスできるようにしていたため、待機室からすでに持ってきていた。私物を使う許可は事前に小林から得ていたので、データや必要なアプリを口頭で伝えて西本くんに共有した。今までもタブレット端末は使っていた様子だったが、それらは商用のオフィスソフトであって専門的な関数電卓ソフトではなかった。それを初めて使用した彼はかなり感激していた。「今まで使っていたソフトより、一発でグラフが完成するし、単語帳は手で押さえたりページを操作したりしなくていいから、より一層勉強に集中できそうだ。佐藤先生ありがとう」それに対して俺はこう答えた。「当たり前のことをしたまでだよ」と。実際のところ、ただ当たり前のことをしたつもりだったが、後日それは違うことがわかる。
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次回の投稿予定は6月24日です。




