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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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自分磨きその2 考査対策の手応え

 9月14日の水曜日。三時間目、音楽の授業にて。

ピアノの実技テストに向けて、今日も各自で課題曲を練習する時間だ。

教室の後方、いつもの位置でピアノの練習を開始する。

隣で中虫壁さんが俺の演奏を見守っている。


俺たちは経験者のため、指定された楽譜程度なら楽勝で弾けてしまう。

ある程度弾いたところで、先生の監視が外された。


「ねえ」


俺は声量をかなり抑えて話す。

部屋には他の生徒の演奏音が響いているため、聞こえるか微妙なラインだ。


「試験勉強の調子はどう?」


俺が聞くと、中虫壁さんは少し得意げに口元を緩めた。


「いい感じだよ」


その返答に、俺はわずかに安心する。

芳しくない可能性も考えていたが、今のところは継続できているらしい。


「スマホ、離してやってる?」

「うん。別の部屋に置くようにした」


どうやら実践はしているようだ。


「集中できるようになった?」

「そうかも。通知で意識を取られなくなったし」


中虫壁さんは満足そうに言う。

おそらく変化に驚いていることだろう。

量ではなく質を上げることで、改善することがあるのは間違いないな。


「英単語は改善したけど」

「うん」

「数学はまだちょっと怪しい」


そこも予想通りだ。暗記系と違って、数学は理解と演習の両方が必要になる。

小手先で通用せず、短期間で伸びにくい分野だ。


「問題集はどこをやってる?」

「基礎問題を中心にまんべんなく」


無難な選択だ。彼女の今の習得度を考えると、下手に応用に手を出すのは不適切だ。


「いいね。方針はあってるから、この調子で解き直し優先で行こう」

「解き直し?」

「間違えた問題を完璧にする」

「なるほど……」


中虫壁さんは小さく頷いた。

変に意地を張らず、必要なものを受け入れる姿勢は立派だ。

伸びる余地は間違いなくある。


「完璧にとは言ったけど、完璧になりすぎるのもよくない」


そう付け加えると、中虫壁さんは「えっと?」と困惑した。


「心の余裕が大事なんだ。全部やらなきゃって思って焦ると大抵ミスるからね」


これは俺自身の体験談でもある。

成果を求めて精神的に追い詰められると、パフォーマンスが落ちる。

中には当てはまらない人もいると思うが、大抵は該当するはずだ。


「ふーん」


中虫壁さんは鍵盤を軽く触りながら考え込む。


「まあ、適度に頑張ればいいってことだよ」

「そっか」


彼女は頷いて納得した。


「これまで漠然と勉強してたけど、ここ最近は頑張れてる気がする」


その言葉に、俺は少しだけ目を細めた。


出会った頃の彼女は、どこか諦めているようにも見えた。

何をやっても無駄ーーそんな雰囲気をまとっていたように思える。

けれど今は少し違う気がする。一歩前に進もうとしている。


「それはいい傾向だね」


俺がそう返すと、中虫壁さんは小さく笑った。


「古暮くんって、やっぱり先生っぽいよね」

「またそれ?」

「だって、言い方が経験者って感じがして」


その言葉に俺は軽く肩をすくめる。


「俺は別に大したやつじゃないよ。全部誰かの受け売りだし」


すると中虫壁さんは、少し真面目な顔になった。


「それでも、少なくとも私には役立ってるから、古暮君はすごいと思う」


一瞬だけ、言葉に詰まる。

自分のやっていることに価値はあるのだろうかーー正直その疑問は解消されていない。

けれど、少なくとも目の前の彼女に変化が出始めていることが、少なからず嬉しい。

そのとき、少し遠くから先生の声が飛んでくる。


「はいそこ、手が止まってますよ!」


中虫壁さんは慌てて姿勢を戻した。


「じゃ、またLINEする」

「うん。頑張って」


短く言葉を交わし、互いに鍵盤へ向き直る。

俺は楽譜に視線を落としながら、静かに思う。

小さな積み重ねを続けていけば、彼女は間違いなく強くなれるだろう。


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