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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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92/117

河川敷でランニング

 9月11日の日曜日。早朝。


目覚ましが鳴る前に目が覚めた。

窓の外は薄く明るく、空気もどこか軽い。


顔を洗い、軽くストレッチをしてから家を出る。

シューズの紐を結び直し、北西の河川敷へ向かう。


家から約2.5km。

中央橋に近づくにつれて視界が開け、川沿いの道がまっすぐ伸びているのが見えた。


休日の朝らしく、人はまばらだ。

数人のランナーの固まり、スポーツバイク1台が目の前を通り過ぎていく。


少し早めに着いたので、橋の近くで軽く体をほぐしながら待つ。


そこそこ人目のあるこの場所は見慣れてはいるが、誰かと待ち合わせをするのは久しぶりだ。

中学の部活仲間とは度々集まったものだが、女子と待ち合わせることなど初めてのことだ。

なんだか妙に落ち着かない。


「おはよ」


そわそわしながら橋の方を見ていると、後ろから声がした。

振り向くと、青いジャージ姿の東条さんが立っている。

サイドテールが朝の光に透けていた。


「あ、おはよう東条さん。時間通りだね」

「うん」


さらっと答えながら、東条さんも軽くストレッチを始める。


「いい場所だよね、ここ」

「うん。俺は数え切れないくらい、お世話になってるよ」

「あはは。そうなんだ。来た回数は私の負けだね」


短いやり取り。でも、思っていたより自然に会話が続く。


「じゃあ、早速行こう」

「うん」


二人で並んで走り出す。


***


 最初は軽めのペース。足音が揃う。

若干向かい風であるため、風が正面から当たるが、不思議ときついとは感じない。


「東条さんって、普段どれくらい走るの?」

「日によるかな。部活ある日は軽く流すだけだし」

「オフの日は?」


「ちょっと長めに走るかも」


なるほど、と頷く。


「やっぱり体力維持?」

「うん。一日でもさぼると調子が落ちる気がするから」

「なるほど。ストイックだね」

「古暮君だって毎日走ってるんだから、ストイックなんじゃないの?」

「そうかな?」


そう指摘されて振り返る。毎日走るのは習慣になっているから、何とも思わない。

けれど、傍から見ればストイックに見えるのだろうか。

それにしても、一人で走るときよりも、会話がある分、時間が早く感じる。

気づけば、ペースは徐々に上がっている気がした。


「走るペース、もっと上げてもいい?」


東条さんが聞いてくる。


「いいよ」


軽く頷いて、スピードを上げる。

道幅の広い専用道路を駆けていると、視界の先に橋が見えた。


「あの橋まで競争してみない?」

「了解」


俺は勝負を受けることにした。

足を前に出す。呼吸を乱さないように。


少し前を行く東条さんは余裕そうだ。

体育祭のときも感じたが、やっぱり速いな。

彼女は比較的小柄な部類ではあるが、足の回転が速い。


ラスト50mで東条さんのギアが一段上がる。リーチと回転数がすさまじい。

その真横をついていくが、最後の数メートルで前に出られた。


「……はあ、負けた」

「やったね」


大きく息をしながら、東条さんはにこっと笑う。

その様子を見ながら、俺は深呼吸で息を整えた。


「まさか負けるとは思わなかったな」

「私、直線も結構得意なんだよね」

「普通にすごい」


俺たちは橋の下で少し歩きながら呼吸を落ち着かせる。


「古暮くんって、サッカー部だったんだよね?」

「あーうん。中学でね。一応三年で部長をやった」

「うん。ほのかから聞いてるよ」


まさか日代さんが俺のことを話題にしているとは。

驚いたが、多少嬉しくもある。


「でも、聞く前から、古暮くんってリーダーっていうか、部長っぽいなって思った」

「それはどういう?」

「なんとなくだけど、周り見て動くタイプかなって」


言われてみれば、そういう側面があるかもしれない。

カリスマのように引っ張っていくというよりは、調整するといった感じか。


「まあそうかも」

「ポジションは中盤だよね?」

「うん。ボランチ」

「司令塔だね?」

「言い方はかっこいいけど、実際は走り回る裏方だよ」


東条さんがクスリと笑う。呼吸はだいぶ落ち着いた。


「そういえば、中総体はどうだった?」


視線を前に向けたままで東条さんが言う。


「そこそこの結果だったよ」

「そっか。練習の成果はきっちり出せた?」


その問いに、自信を持って「うん」と頷く。


「やってきてよかったなって強く実感した」

「わかるー」


中学最後の大会。延長戦で決勝点を決めた瞬間のことを思い出す。


「東条さんは中総体、どうだったの?」

「私も似たような感じだよ」


少し考えてから、続ける。


「ずっとできなかったショットがあったんだけど、必死に練習して、本番で決められて嬉しかったなー」


積み重ねたものが出た瞬間の、表現しがたい喜び。

その感じは、よく分かる。


「わかるよ。俺もサッカーで新しい技を決めたときは、めっちゃ気持ちいいってなる」

「うんうん」


東条さんは笑顔で頷いた。


***


俺たちは来た道を折り返して、中央橋に戻る。

ペースはゆっくりだ。


「東条さんは普段、どうやって息抜きしてるの?」


こちらから話題を振ってみる。


「んー……食べることかな」

「それっぽい」


学食での食いっぷりから、食べることは好きなのだろうと想像していた。


「どういう意味?」

「いやー、なんとなくだけど」

「失礼だなあ」


少しむくれたように言ってから、すぐにふっと笑う。


「でもまあ食べるのは好きだし、あとはお昼寝もするかな」


外見の好戦的な印象とは想像しがたい。

他に何か個性的な息抜きはあるだろうか。


「他には?」

「ドラマ見たり」

「よく見るのはどんなジャンル?」


コメディー、恋愛、アクション、ミステリー、SF。他にもいろいろあるわけだが。


「アクションとかミステリーが多いかな」

「いいね。俺もミステリーはよく見てるよ」


意外な答えに食いついてしまう。同ジャンルが好きな人はなかなかいないので、これは仕方ない。


「そうなんだ。じゃあ、Nexus(ネクサス) Forensic(フォレンジック) Lab(ラボ)って知ってる?」

「知らない」

「海外ドラマで、本格的な科学捜査ものなんだよね」

「へえ、興味あるな」


推理ものの海外ドラマは何作品か見たが、まだ玄人とは言えないだろう。


「長編シリーズで今も続いてて、かなり面白いから、古暮くんも見てみてよ」

「うん。えっと、タイトルもう一回言ってくれない?」

Nexus(ネクサス) Forensic(フォレンジック) Lab(ラボ)


俺は「わかった」と頷いた。帰ったらチェックしなくては。


***


中央橋が見えてきたところで、東条さんがふと口を開く。


「今日くらいの距離なら、ちょうどいいね」

「だね。軽く流すにはいい感じ」


少しだけ間を置いて、


「また、休日に一緒に走れないかな?」


自然な流れで誘ってみる。


「うん、いいよ。予定が合えばだけど」

「ほんと? ならまた誘うね」


断られるか心配だったが、どうやら今後も誘えそうだ。


「了解」

「じゃあ、今日はこれで」

「うん、また学校で。バイバイ」

「じゃあね」


軽く手を上げて別れる。

東条さんと少し距離を縮められただろうか。

次の休日が少しだけ楽しみだ。

そんなことを考えながら、俺は帰路に着いた。


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