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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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文化祭準備 その1

 9月9日の金曜日。四時間目の授業中にて。

一ノ瀬先生がクラス全体に問いかけた。


「皆さん、一か月後には何があるでしょう?」


クラスメイトたちが顔を見合わせてざわめきだす。


一か月後、すなわち十月中旬にある学校行事と言えば一つしかない。


「文化祭、すなわち王雲祭があります」

「イエーイ!」「ヒュー!」 


クラス中から歓喜の声が上がった。先生はクラスメイトたちの活気に満ち溢れる様子をしばし眺めてから、両手で静止を促した。


「王雲祭に向けて、いろいろ決めなくてはならないことがあります」


先生はクラスの全体を見回しながら言った。ざわめきは収まったが、皆ひそひそと近くの人と話をしていて、完全に鎮圧するまでには至っていない。


「では、後は委員長さんにお任せしますね」

「はい」


先生の呼び声に落ち着いた声で応じ、学級委員長の望月さんが前に出た。


「それでは最初に文化祭の実行委員を決めます。男女一名ずつです。ますば男子から、立候補はありますか?」


話す内容をあらかじめ先生に示し合わせていたのだろう、委員長の進行には迷いがなかった。


俺は周りを見渡した。さて、立候補はいるかな……お、クラスのムードメーカー水上が手を上げているようだ。


「他に立候補はいないようなので、水上さんで決定しますね」


委員長がそう言った途端、拍手が沸き起こった。


「よっしゃーみんな、俺についてこい!」


水上はガッと椅子を引いて立ち上がりながら言う。すると、


「フー!」「やっぱ水上だよな!」「イケメン!」「キャー、水上くーん!」


彼の周りから歓声が上がった。主に男子だが、一部の女子も沸いているようだ。

水上は彼らを手でどうどうと抑圧してから着席した。


「それでは次に、女子の立候補はいますか?」


さっき同様周りを見回すと……右斜め前に座っている日代さんが手を上げていた。


「他にいないようなので、日代さんで決まりですね」

「はい、頑張ります!」


日代さんはそう意気込むと、「ヒュー!」や「がんばれー!」などの声援とともに、拍手が沸き起こった。こちらは男女の差異なしに歓声が上がった。


「良かった。すぐ決まったみたいね」


傍から見ていた一ノ瀬先生先生が手を合わせながらそう言って、どこからか出して座していたパイプ椅子から立ち上がった。


「それじゃあ二人は放課後、実行委員会の集まりに行ってください。場所は生徒会室です」

「「はい」」


水上と日代さんはそろって返事をした。


 その後も委員長の淀みない進行のおかげで、役員決めは定刻より早めに終わった。

水上と日代さんという、クラスのまとめ役Top2の二人が実行委員になってくれるのは、非常にありがたいと思う。わざわざ実行委員なんて面倒な役をやりたいと思う人なんてまずいないだろう。押し付け合いにならなかったのは、こういう積極的な人たちのおかげだ。感謝感謝。

とはいえ、俺はクラスのことより文芸部の活動の方がメインになるから、クラスにはほとんど貢献できそうにない……。


***

 昼休み、ライトが俺の元へやって来た。


「和人、学食行こうぜ」


特に誰かから誘われているわけもはなかったので、俺はすぐに承諾した。

久しぶりのライトとの昼食のため、ワクワクする。

俺は「いいよ」と返事をして俊敏な動作でライトを追いかけた。


「文芸部は文化祭、何かやるのか?」


教室を出て並んで廊下を歩いていると、ライトが訊いてきた。


「うん。展示会をやる」

「へー。和人らが書いた作品を見れるって事だな?」

「まだ詳細は聞いてない」


え、ライト様、俺の作品に興味があるの? 執筆力の無さがばれてしまうよ。

いや待て、さっき彼は「和人()」と言った。

俺の作品だけに興味があるのであれば「ら」はつけないはず。

つまるところ、俺以外の人の作品に興味があることを暗示している。

一個上である霞先輩とは接点がないだろうし、栄子は隣のクラスなので、彼女もライトとあまり関わりはないと考える。

となれば残るは、琴吹さんただ一人。彼女の作品のことを指しているはずだ。 


琴吹さんが入学から早々人気になったことは、クラスメイトなら誰もが知っている。

そしてこれは定かではないが、クラスメイトのとある女子が彼女に物語を書くようにねだったところ、かなり面白い作品ができたようで、一部の女子生徒の間で人気が出ているとの噂もある。


容姿端麗、頭脳明晰に加えて、物書きとしての才能もある琴吹さん。

勘違いをするところだったが、ライトが見たいのは彼女の作品に違いない。

俺のことなど眼中にないのだ。


「時間あったら見に行くからな。お前がどんな作品を書くのか、ちょっと興味あるし」


ライトは爽やかに笑う。マジっすか。俺目当てっすか。



 注文した料理を受け取った後、食堂のテーブルに座り、同時に食べ始めた。


「クラスの出し物だけど、和人は何がいいと思う?」

「うーん……」


白米をほおばりながら考える。

喫茶店、お化け屋敷、脱出ゲーム、クイズ大会、カジノ……一番無難なものを言うことにしよう。


「喫茶店はどうかな?」

「おお、喫茶店か」

「和風喫茶なんてどうかな? 客も店員ものんびり文化祭を過ごせそうじゃない?」

「それ、なかなかいいな」


ライトはとんかつを口に放り込み、何度か咀嚼して飲み込んだ。


「でしょ。ライトは何かいいアイデアある?」

「ダンスなんてどうだ?」

「え、ダンスってどういうスタイルの?」

「こう、アクロバティックな感じで」


そう言われて、自分がアクロバティックなダンスをする光景を思い浮かべた。

バク転、ドルフィン、チェアー……。どこかの骨がポキッて鳴りそう。


「それはちょっと無理じゃないかな……」


俺は苦笑しながら応えた。

それぞれ運動能力に差があるから、アクロバットは全員でやるには不向きだ。

フォークダンスなら皆やれるかもしれないけど、盛り上がりに欠けるし、ステージの上でやるようなものではない。したがって、クラスの出し物としてダンスは却下される可能性が高い。


「そうか? 楽しそうだと思ったんだけどな」


ライトは肩を落とした。

ライトが有志か何かで踊るっていうんだったら見てみたい、とは口にしなかった。

その後、昼食を食べ終わり二人で教室に戻った。


***


 放課後。

俺は帰り支度をして、琴吹さんの元へ向かった。

近くまで行くと、彼女は立ち上がった。どうやら帰り支度は済んでいるようだ。


「行きますか」

「はい」


彼女は元気に返事をすると、俺より先に教室を出た。


「展示会用に何か書けって言われると思う?」


琴吹さんと並んで歩いている最中、そんな質問を投げかけた。

流石に展示会で何も展示しないということはないだろう。過去に作った作品か、展示用に何か作品を作らされるはずだ。


「そうですね。おそらくは」


琴吹さんは同調した。はぁ、またしても詩やら俳句やらを書かないといけないのか。


「忙しくなるね」


でも、それは裏を返せば琴吹さんの作品が見れるということ。それを楽しみに気張ろうじゃないか。


「はい。頑張りましょう」


微笑む琴吹さんを見ると、不思議と力が湧いてくる気がする。


 教室の扉を開けると、栄子の姿が見えた。先輩は……いない。俺達より先に来ていないのは珍しい。


「うっす」


軽く挨拶をして、定位置に着いた。そしてカバンから文庫本を取り出す。


「少し遅れたわね。こんにちは」


ドアが開いて、優しい声とともに霞先輩が入ってきた。


「おいーっす。皆、調子はどうだい?」


続けて元気溌剌の一ノ瀬先生が入ってきた。


「普通っす」と応えると、先生は「うん、普通が一番」と言い、黒板の前に二人が並んだ。どうやら文化祭に関する話らしい。


「来月、王雲祭があります。文芸部の活動について、先生から説明をしてもらいます」


先輩はそう言うと、いつもの定位置の席に着いた。


「はい。来月の王雲祭。文芸部は例年通り、展示会をやります!」


先生はぱちぱちと一人拍手をかました。部員たちは特に反応なしだ。


「場所は昨年同様、3Bの教室で行います」


3Bの教室は二階にあり、1Bの教室からはそれなりに距離がある。


「展示会では、皆さんの作った作品を展示パネルや壁に貼り付けて展示します。各種コンクールなどの大会に応募した作品は前提として、他にも要望があり、展示してもよいと判断したものは展示することができます」


想像してた通りの形式なようでよかった。読み上げとかそういうのはなさそうだ。


「そして、今回の展示する特集の内容を説明します。特集は全部で3つです。まず一つ目は、『私が選ぶ厳選一首 百人一首より』です。部員それぞれが百人一首から短歌を一首選び、それについての感想を書いたものも加えて展示します」


百個ある短歌の中から一首選ぶって、めちゃくちゃ手間がかかりそうだ。


「二つ目は、『ページをめくれば学校や地域のことが見えてくる』です。学校の歴史・伝統・文化や地域の歴史、産業についてのレポートを展示する予定です」


なんだか量が多くなってきたな。今度はレポートね。


「三つ目は毎度おなじみですが、『部誌は引き継ぐよ我々の魂』です。皆さんには小説もしくは詩を少なくとも一作品は書いてもらいます。部誌に載せる用の作品です」


おいおい、やることがさらに増えたぞ。部誌に小説や詩ね。


とりあえず言われたことを整理しよう。やることは三つ。

・百人一首の中から短歌を一首選び、その感想を書く(展示)

・学校や地域について調べ、レポートにまとめる(展示)

・小説もしくは詩を一つ作る(部誌掲載)


「と、一気に喋っちゃったけど、何か質問はある?」


俺はすっと手を上げた。


「はい、古暮君」

「二つ目の学校や地域についてのレポートっていうのは、それぞれ個人で調べたものを上げるって感じですか?」

「いいえ。みんなの成果を統合して一つにまとめてもらいます」

「はあ。ということは順番的に、それぞれが学校や地域について調べて原稿を作り、最後にそれらを取りまとめるってことですか?」


夏の自由研究で俺たちがやっているような感じだろうか。役割分担して最終的に統合する。


「うん、その認識で正しいです。具体的には

・まず学校班と地域班で二班にわかれる。

・次に、Aを調べる人、Bを調べる人って感じで調査範囲を割り振って、各々調査してレポートにまとめる。

・最後に、二班の内容を合わせて一つにまとめる

という流れになります。」


先生は丁寧に説明してくれる。流れは完全に理解した。


「はあ、なんか大変そうですね」

「社会に出たら、これよりもっと面倒な仕事が日常茶飯事です」


先生が誇張した口調で応える。


「ほんとですか? 社会人はすごいんですね」

「ええ、そうなのです。今からいろんな経験を積んでおくのが賢明ですよ」


今度はジェントルマンのような雰囲気を出して言う。


「ためになります」

「うむ。話がそれちゃったけど、他に質問はあるかな?」


あまりの課題の多さにあっけにとられつつ、細かな質問を先生に投げかけ、その場は一段落した。



***

 部活を終え、部室から退出する。帰り際、霞先輩と先生が小声で話していた。


「今年の文化祭も忙しくなるね」

「そうですね」

「文化祭が終わったら絶対エステでゆっくりする!」

「お好きなように」

「霞ちゃんも一緒にいこう?」

「私は遠慮します」

「そう言わずにさあ。駅のすぐ近くだから」

「一人で楽しんでください」

「むー、霞ちゃんのいけず……」


仲が良いのは良いことだと考えながら、俺は学校を後にした。


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