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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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87/117

綾子 その3/ランニングのお誘い

 9月8日、木曜日の放課後。

俺は今日もサッカーグラウンドに来ていた。

純粋に暇つぶしという名のサッカー観戦が面白いからというのもあるが、今日ここに来たのには別の目的がある。


「古暮君。こんにちは」


目的の人であるサッカー部マネージャー、中虫壁(なかむしかべ)さんが俺の存在に気付いて、そばにやってきた。


「やあ」


フレンドリーに挨拶を交わす。


「今日も観戦?」

「うん」


サッカーグラウンドを見ながらそう応えると、彼女は「ふーん」と薄いリアクションをして、俺のすぐそばに立った。


「……昨日の話の続きなんだけど」


数秒の間を置いて、彼女に声をかけた。


「うん」

「マネージャーになった理由を聞きたいなと思って」

「……えっと」


彼女の様子を伺う。目を伏せて、うーんと唸っている。何か深い理由があるのだろうか。


「単にサッカーが好きで、サッカーに関わろうと思ったとか?」


真っ先に思いついた理由を聞いてみる。俺が中学のとき世話になったマネージャーは入部の時そんな理由を言っていたような気がする。明確で気持ちの良い答えだ。


「うーん……、ちょっと違うかな」


サッカー部マネージャーへの純粋な興味かと思いきや違ったようだ。サッカー好きとしては少し傷つくが、まあそれは置いておくことにして、違うとなるならどうしてマネージャーになったのか。

考えられる理由としては、知り合いがサッカー部とか、親に勧められたとか、運動部のマネージャーを通して社会経験を積むとかか。少し妄想すると、彼女はスパイでサッカー部の連中から何かしらの情報を得ようとしているとか。

俺が馬鹿な妄想を膨らませているところで、中虫壁さんは重たい扉を開けるように口を開いた。


「私……」


声が徐々に弱くなって、最後の方が全く聞こえなかった。


「ごめん、聞こえなかった」


彼女はふぅと息を吐いて、再び話し出す。


「私、好きな人がいるの」


今度は聞き取ることができた。

好きな人がいる……って、いきなりどうした!?

俺が訊きたかったのは、どうしてマネージャーなんていう骨の折れる役職をやろうと思ったのか、その理由についてなんだが。


彼女は俯いている。頬がほんのり赤い。


「あのー」


この話とどう関係あるのか、と喉のあたりまで出かけたが、少し待てとひっこめる。


彼女は好きな人に影響されて、この役職をやることにした。つまりここで問題に上げるべきはその影響のされ方。


一番考えれるのは、好きな人がサッカー部に入ったから、お近づきになろうと思って入部しただな。

他に考えられるのは、好きになった人がサッカーに詳しかったので、自分も話ができるようになるためとか。


あとは、好きな人にサッカー部に入るように命じられたもしくは脅された。

はたまた、スパイである可能性もあるのか? サッカー部に潜入し、特定の人と恋人関係になり、その相手の家の情報を調べるとか?


ミステリー思考を炸裂させたが、ふと沈黙しているのに気づき、一番可能性の高そうなものを言って得も言われぬ雰囲気を取り繕うことにした。


「えっーと、その好きな人がサッカー部の中にいるってこと?」

「うん。彼だよ」


どうやら俺のファイナルアンサーは正解だったようで、彼女はグラウンド内を走りまわる部員の中から、その人をすぐに見つけ出して指差した。


「MFの、黒髪で長身の」

「青い服着てる?」

「うん」


中虫壁さんは頷いた。ほう、ボランチで的確な指示をしている彼か。端正な顔の黒髪。背が高くて、体つきもしっかりしている。


「気持ちは伝えたの?」

「えっと……」


彼女は自信なさそうにうーんと唸っている。

その様子から、告白はまだなのだと察する。


「告白する気はあるの?」と聞こうとしたところで、


「アヤコーーー!」


と、奥の方から叫び声がした。

見ると、叫び声の主は青色の服を着ていた。首から肩、袖にかけて白い線が二本平行に入っているあたり、中虫壁さんと同じデザインの服のようだ。

つまりあの人は彼女の先輩である。


「何ぼさっと突っ立ってるの? 仕事があるわよ!」


「あっ、はい! 今行きます」


中虫壁さんは大きな声で返事をすると、一旦俺の方を向いて、


「私、もう行くね」


と声をかけた。マネジャーの仕事はなかなか量があるから大変だ。


「……うん。仕事頑張れ」


俺がそう返事をすると、彼女は先輩マネージャーの元へと駆けていった。


***


 その夜。俺はスマホを手に取り、ラインを開く。

先週の席替えにより、よく知らない生徒たちと話す機会ができた。

直近で気になっているのは、二人。隣の席の東条さんと、他クラスの中虫壁さんだ。

中虫壁さんとは今日も少し会話できたが、部活が忙しいようで、話が途中で切れてしまった。そのため、明日また接触の機会を設けたいと思う。


一方で、東条さんは、隣の席になったおかげで、普段話す機会は多い。

学食に何回か同行させてもらい、ますます彼女に興味が湧いたので、アプローチをしていければと思う。

気軽に雑談ができる雰囲気ではあるが、対面で遊びに誘うのはハードルが高い。

ここはラインで誘いをかけてみよう。


遊びといったら無限にあるが、東条さんの興味のありそうな遊びはなんだろう。

そういえば毎朝ランニングをしていると言っていたな。

一般でいう遊びではないかもしれないが、まずは手軽にランニングを一緒にしてみるのはどうだろうか。

平日は難しいかもしれないので、休日の方が都合が良いだろうか。

突然誘うんじゃなくて、休日も朝ランニングしているか聞いてみるか。


俺はトーク画面でメッセージを打ち込む。運動部のノリで気軽な文面にしよう。


〈和人〉

東条さんって、休日も朝走ってるの?


〈千鶴〉

うん。部活ない日は軽くだけど


既読が即座について、返信があった。

思いのほか反応が早くて驚いた。やはりオフの日も運動してはいるのか。


〈和人〉

やっぱり。そんな感じした

バドミントンって結構体力必要だよね? 


〈千鶴〉

もちろんだよ。瞬発力も大事だけど、持久力がないとすぐバテちゃうからね。


なるほどな、と頷く。サッカーも似たような場面が所々であるので、通じるところがある。


〈和人〉

もしよかったら、今度の日曜、朝一緒に走らない?


すこし返答まで時間があるかなと思ったが、またしても素早く返事があった。


〈千鶴〉

いいよ。どこを走るの?


〈和人〉

学校から西の方に河川敷があるんだけど、東条さんは走ったことある?


東条さんの家は学校の近くにあるため、反対方向だ。

そこは少し申し訳なく思うが、あの河川敷は歩行者・自転車専用道路があり、とても走りやすいスポットなのだ。俺が中学のころはよく走りに行っていた。


〈千鶴〉

あるある。いいね。

どのくらいの距離走る想定?


〈和人〉

軽く流す程度で

3、4キロくらいかな


〈千鶴〉

集合場所はどうしよっか?


〈和人〉

一番大きい中央橋で。


〈千鶴〉

了解。じゃーまた明日


〈和人〉

うん、また


送信ボタンを押し、スマホを閉じる。

現役に負けないよう、体力を付けておかなくてはな。

明日明後日のランニングは強度を上げよう。


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