Rosetteの話し合い その2
おとといは結局一度も楽器を鳴らさずにGreen Boxを出た。
そして今日は、再度スタジオに集まって話し合いをすることになっている。
日を空けたことで、それぞれ考えはまとまっているはずだ。
スタジオに入ると、いつもより少しだけ空気が重かった。
誰も遅れておらず、無事集合した。
機材の電源も入れないまま、私たちはなんとなく円になるように立っていた。
前に話したときよりも、静かだった。
きっと、それぞれがちゃんと考えてきたんだと思う。
沈黙を破ったのは、リオだった。
「……この前の話だけど」
低くて、落ち着いた声。
「方向性、分けて考えるのはどうかなって思った」
私は顔を上げる。
「分ける?」
「うん。ナノハの曲は、感情重視で作る。こっちはそれに合わせる。
逆に、私の曲は完成度重視でやる。そこでバランス取る」
合理的だった。
ちゃんと成り立つ形を探してくれているのが、わかる。
ラブが少し明るい声を出す。
「それ、いいんじゃない?」
「曲ごとに色が違うのも、面白いかもね」
サヤも頷く。ミユはというと腕を組んだまま、黙っている。
私は少しだけ考えてから、口を開いた。
「……それってさ」
言葉を選ぶ。
「同じバンドって言えるのかな」
空気が、ほんの少しだけ揺れた。
リオの視線がまっすぐ向く。
「どういう意味?」
「曲ごとにやりたいことが違うなら、それぞれ別のバンドでやった方が良い気がする」
自分でも、冷たい言い方だと思った。でも、引っ込めるつもりはなかった。
ラブが戸惑ったように言う。
「でも、このメンバーで一緒にやる意味って、そういうところじゃないの?」
気持ちはわかる。私だって、できるならそうしたい。
「私もナノハと同じ意見かな。ライブでまとまらない気がする」
ミユが短く述べる。
「曲ごとに方向が違うとなると、聴いてる側も迷うかもね。バンドとしての芯がぼやけそう」
そしてサヤも続いた。
「練習の効率、落ちそうじゃない? 毎回切り替えるのは、結構負担だと思う」
現実的な言葉が積み重なっていく。
リオは少しだけ視線を落としてから、息を吐いた。
「じゃあ、どうするのがいいと思う?」
その問いは、投げるようでいて、ちゃんと向き合っていた。
逃げていない。
だから、私も逃げない。
「私は」
一度だけ、言葉を止める。
「届けたいものをちゃんと乗せて歌いたい」
視線が集まる。
「最低限の音は作る。でも、それより何を乗せるかを優先したい」
リオはすぐに返さなかった。
少しの間を置いてから、静かに言う。
「私は、それには賛成できない」
はっきりと。
「まず音を完成させる。その中で、意味や感情は見つけていきたい」
ぶつかる。
でも、それは前みたいな衝突じゃなかった。
ただ、並べられただけだった。
ミユが小さく頷いている。サヤは何も言わない。
ラブは視線を揺らしていた。
「……そっか」
その一言で、わかってしまった。
ここにあるのは、どっちが正しいかじゃない。
ただ、求めるものが違うという事実だけ。
誰もすぐには言葉を続けない。
時間だけが、ゆっくりと過ぎていく。
私は、静かに息を吸った。
「……ごめん」
顔を上げる。
「やっぱり、この形じゃうまくいかないと思う」
ラブが息を呑む気配がした。
リオは何も言わない。ただ、こちらを見ている。
その視線に、責める色はなかった。
少しだけ、救われる。
「私とリオで求めるものがはっきり違うから」
言葉にするとはっきりした。
しばらくして、リオが小さく頷いた。
「わかった」
それだけだった。
でも、十分だった。
ミユが壁から背を離す。
サヤが静かに息を吐く。
ラブは俯いたまま、何も言わない。
そして。
言うまでもなく、形は決まった。
誰も口を開こうとしなかった。
「……解散だね」
そう宣言するのが誰の声だったのか、自分でもわからなかった。
ただ、その言葉はやけに自然に落ちてきた。
否定する人はいなかった。
スタジオの中に、静かな空白が広がる。
遠くで、別の部屋の音が微かに響いていた。
変わらず音楽は鳴っているのに、ここだけが止まっているみたいだった。
私は、ゆっくりとギターケースに手をかける。
今日は、最後まで開くことはなかった。
後悔は、不思議と薄かった。
寂しさはある。
でも、それ以上に、どこか納得している自分がいた。
――どんな答えになったとしても。
あの時そう決めた通り、これはちゃんと前に進むための選択だ。
スタジオを出るとき、誰も「またね」とは言わなかった。
ーーそれでも、音楽は終りじゃない。




