表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
PR
84/117

進路ガイダンス

 九月六日、火曜日。

俺は朝の教室で、変わってしまった『日常』について思考を巡らせていた。


席替えという回避不可な定期イベントのせいで、ライトや琴吹(ことぶき)さんと席が離れ、話す機会が減ってしまった。

ライトの爽やかな笑顔にドキッとさせられ、琴吹さんの端正で可憐な横顔を、頬杖をつきながらぼーっと眺めるという日常が、遠い昔のことのように感じられる。ちょっと感傷的になってしまったな。


ここはプラス思考に切り替えよう。席替えは悪いことばかりでなく、良いことももたらしてくれる。新しい人間関係を作れる可能性があるわけだ。

前の席の前橋(まえばし)さん、後ろの相模原(さがみはら)さん。二人は体育祭のクラス代表リレーの際に顔を合わせてはいるものの、雑談をするには至っていない。仲良くとはいかないまでも、学校の話題について軽く話せるぐらいの仲にはなりたい。

そして隣に座る東条(とうじょう)さん。彼女と隣の席になったのは非常に喜ばしいことだ。

先週のお昼に趣味嗜好について会話することができたので、この調子でさらに仲を深めていきたいと思う。



そんなことを考えていたら、キンコンとチャイムが鳴り、クラスメイトたちが席についた。

それから少しの間を置いて、一ノ瀬(いちのせ)先生が教室に入って来た。


「皆さん、おはよう」


先生はいつも通りの元気な声でそう言った。


「おはよう先生!」「おはようございまーす」「うぃーっす」


皆それぞれ何かしら反応をした。

先生は笑みを浮かべながら教卓に向かい、教師専用アイポッドを卓上に置く。そして、パッと顔を上げた。


「今日は進路セミナーがあります」


先生は少し真剣なトーンで話し始めた。

いつもは何かと先生の話を聞き流している俺だが、今日は進路関係の話のようだから、しっかりと聞かなくては。俺は姿勢を正した。


「午前は普通の授業で、五六時間目の二時間を使って進路の話をします。なので、始まる五分前には体育館に集合してください」



やりたいことが無いからとりあえず進学校、という安直な考えでこの高校に入ることができてしまった俺は、ちゃんと自分の進路を決めなればならないのだ。準備期間を考えて、最低でもニ年の終わりくらいまでには具体的なものを決めなくてはならない。なので、進路セミナーや進路ガイダンスというようなものは是非とも利用したいところ。


「進路について考える機会です。皆さんしっかり話を聞くように」


先生はそう言うと、クラス全体を見回した。皆真剣な表情で話を聞いているようで、私語をしているものは誰一人いない。皆、進路のことについて真剣に考えている証なのだろう。


「……それじゃ、朝会を終わります」




「おっふたっりさーん、学食行かない?」


 昼休みの始めに、日代(ひしろ)さんが話しかけてきた。


「えっーと」


俺は教室を見回して、ライトを探す。席にはおらず、教室にもいない。

バスケ部の連中と学食に行ってしまったのか、それとも他の用事があるのか。

いずれにしろ約束はしていないので、昨日に引き続きご一緒させてもらうことにしよう。


「うん、いいよ。東条さんは?」


隣の東条さんに聞くと、彼女は「もちろん」と返事をした。

俺たちは席を立ち上がり、食堂へと向かった。


「うわー、今日も混んでる」


学食は安いし美味しいからこうなるのも当然だ。いつものことだし、もう慣れた。


「今日も日替わり定食?」

「もちろん」


日代さんと会話するのにはもう慣れた。急に話しかけられても狼狽することなく返答をすることができるようになった。まあ、日代さん限定で、漫才師ほどテンポが良いわけではないが。


「ほかにもいろいろメニューあるけど、古暮くんはもう試した?」


彼女はそう言って電光掲示板のメニューを指さす。

学食は季節によってメニューが変わるので、食べ飽きるということを知らない。


「牛丼、かつ丼、天丼……」


日代さんが頬に人差し指を当てながら、丼のメニューを呟いている。その仕草にどこか愛嬌を感じた。


「新しいのも一通り試したけど、やっぱり日替わり定食が安定かな」


俺が日代さんに向けて言うと、ふーんと口をつぐんで、意味ありげな視線をこちらに向けた。

その眼光には「好きだねー」というおちょくりのメッセージが込められている。コミュ力の高い日代さんがよく使用する専用技『アイコンタクトα』だ。こいつを並の男子が食らうと「おっふ」となってしまうのだが、俺は何発かもらって耐性がついているので大丈夫。


「今日は私も日替わり定食にしよーっと」


日代さんは頭を悩ますのを止めたようだ。うん、それでいい。

日替わり定食。王道にして栄養満点、最強かつ嗜好のメニュー!

我ら日替わり定食をこよなく愛するもの! 日替わり定食万歳、日替わり定食万歳!

今ここに『日替わり定食教』を設立する。聖地はこの食堂だ!


「千鶴はやっぱり牛丼?」


日代さんが一つ前に並ぶ東条さんに訊くと、彼女は振り返って「まあね」と言い、すぐに顔を戻した。


ふむ、定食が好きな人もいれば、丼や麺が好きな人もいる。多種多様。今の世の中はマルチカルチュラリズムなのか……。



 料理を受け取った後は、昨日みたく適当な席について、たわいない話をしながら食事をした。

二人の仲がずいぶん良さそうだと会話を聞いていて感じたので、関係はどうなのか聞いてみると、中学からの同級らしい。

昔からの知り合いと聞いて腑に落ちたが、二人ともコミュニケーションが上手なので高校からの関係でも不自然ではないのではないかと感じた。

二人とも。


 昼食を終え、教室に戻った。

スマホいじりで十分ほど適当に時間を潰し、時間を見計らって立ち上がった。これから体育館に直行だ。



ざわざわ、がやがや。


体育館には人がまばらにいた。まだ少数で穴あきだらけの1Bの列に並んだ。


数分経つとだんだん人が集まってきて、体育館内のボルテージが上がってきた。

前後の男子はそれぞれ話をしていたので、俺は隣の列、A組の女子二人の会話に耳を傾けてみた。


「今から何するの?」

「進路セミナーでしょ」

「うん、それわもうわかってる。聞きたいのはその内容」

「……うーん、わかんないよ。こういうのって初めてだし」

「はあ、これだからカナちゃんは……」

「なにその期待外れみたいな顔は!? アンタはわかるの? なら教えてよ」

「あっはは、そうムキにならないで。冗談だよ」

「もう……」


小動物のじゃれ合いのような会話に心を緩めていたところで、『静かにーっ!』とドスの効いた低い声が体育館に響き渡った。かなりの大音量で、心臓が飛び出るかと思った。これ絶対寿命縮まったわ。


「「「……」」」


さっきまで湧いていた会場が刹那のうちに静寂に包まれた。


「それではこれより、進路セミナーを始めます」


さっきより数倍柔らかいダンディー声で、その司会の先生は開始の挨拶をした。


「それでは岩崎先生、お願いします」


全学年の進路担当の岩崎先生が椅子から立ち上がって、前の方に来た。そして、ステージの真ん中ぐらいの位置に置いてある横長長方形のテーブルまで来て、パイプ椅子に座った。テーブルの上にはパソコンやらプロジェクターやらが置いてある。おそらくスライドを使うのだろう。


「それでは始めます。さきほど配布したプリントを見てください」


授業が始まるそれに直前に配られていたそれに目を移す。ところどころ空欄があるので、何か書きこませるのだろう。


「初めに、一番上の空欄に自分の興味のあることを書いてください。一分間差し上げます」


読書、アニメ、ゲーム、音楽……ってこういうことでいいのか?


「難しいことは考えず、好きなことをありのままに書いてください」


俺は筆箱からペンを取り出して、読書、創作、鑑賞と書いた。


「自分が成長するために、これから何をすればよいのかを考えましょう」


色々な事に挑戦するとか、他の人達の意見を聞くとかか?


「様々な視点で世界を見ることができるようになれば、物事を関連付けて考えることが出来ます」


まあ、それはそうだ。井の中の蛙のままじゃいけないよな。


「現在の多くの職業は無くなり、新しい職業が誕生します。よって、どんな職業にでも対応できる力を身に着けるため、将来を見据えて進路を考えて欲しいと思います」



 その後俺は、真剣にセミナーの話を聞いていた。

最初はプリントを使っていたが、途中からスクリーンにスライドを映しての授業に移っていった。

図やグラフを上手い具合に用いていて、聞き飽きることはなく、最後まで集中して聞くことができた。

参考になった点が多くあったので、受けて良かったなと素直に思った。


体育館から退場した後は、教室に戻った。

全員が席に着いてから先生が戻ってきて、教壇に立った。


「皆さん、進路セミナーはどうでしたか? 恐らく大部分の人に、参考になった点があるんじゃないかな?」


周りがざわついている。皆それぞれ思うところがあるのだろう。


「授業で出された、性格・適性チェックの課題は明日提出してくださいね」


性格・適性チェックというのは、自分の性格や適性のある職業を診断することが出来るサイトのことだ。

それを明日までにやって、結果を紙に書いて提出しろということだそうだ。


「それでは、今日はこれにて解散です」




 クラスメイトたちが教室を出て行く中、俺は昨日のように、琴吹さんに話しかけた。


「琴吹さん、部活行こう」


「はい……ええと、少し待ってください」


「うん」


廊下で待っていると、数十秒後に琴吹さんが教室から出てきた。

それから同じ速度で部室に向かう。


「琴吹さんは文理選択どっちなの? やっぱり文系?」


「……はい、そうです」


「よかった。俺も文系だよ」


ふとため息を尽いて、ニッとはにかんだ。

俺が文系を選ぶ理由は単純で、理系教科が得意じゃないからだ。それに加えて言えば、もっと国語の勉強をしたいという細やかな願いがある。とはいえ、将来どんな仕事につきたいかはまだ決まっていないが。


「あ、でも、琴吹さんなら文理どっちでも行けるだろうね」


文系と聞いて安心した俺は、ふとそんなことを口にした。彼女のテストの結果を見るに、なんでもできそうな気がする。


「私は将来やりたいことがあるので、文系で決まりです」

「え、すごい。もう将来のこと決めてるなんて……大学は何の学部に入るとか決めてるんですか?」


学年三位、誰が見ても彼女は成績優秀者だ。このまま三年まで維持することができれば、どの大学のどの学部にだって入れるに違いない。


「何個か候補はあります。まだ一個に決めてはいません」

「そうなんですね。まあ選択肢は大いに越したことはないか」


さすが優等生というべきか。いや、そもそもこの学校の生徒の大半は夢なり目標なりを持って入学するのがメジャーなわけだから、俺がダメという方が正しいかもしれない。

俺は内心でため息を吐きながら、文芸部の部室へと向かった。



 夜、今日出された課題である性格・適性チェックをネットで検索した。

すると、高校生の男女が二人並んで立っているイラストがでかでかと現れた。この画面で正解だ。 


下にスクロールして、目的の物を探す。

診断のボタンがあったのでそれを押すと、診断がスタートして、十個連続で質問攻めにされた。まあ質問といっても簡単なもので、新聞記事やニュースに興味があるかや、計画を立てて段取りよく進めるタイプかどうかといった程度のものだ。

それらすべてに答え終えると、診断結果の表示ボタンが現れた。どれどれ、ポチッとな。


性格 堅実

詳細分析 他人と衝突するのが嫌な平和主義。引き受けた仕事は一生懸命やる努力家だが、独創的な仕事をするよりも後を引き継いで発展させることに向いている。


適正 評論家

詳細分析 行動するより考える方が好きで、知的好奇心旺盛の、抽象的な思考能力が高く、物事を分析することに向いている。


職業

医師

マーケティングデザイナー

経営コンサルタント

機械系研究者・技術者

販売担当者


学問

心理学

経済学

マスコミ学

機械工学

電気電子工学・通信額

医学


性格、適正、向いている職業・学問が順々に表示された。


へー、こんな風に結果が出るのか。性格とか適正とかって、なんか昔やってたRPGのモンスター図鑑みたいだな。やばい、無性にゲームがやりたくなってきた。いかんいかん。


ふむふむ、性格の分析結果が結構当たってる。平和主義。新しくアイデアを出すより、元からある何かをアレンジするのが得意。努力家は本気になったとき限定。

適正はどうなんだろう。考えずに行動することも少なくない。

とりあえずこれを用紙に書けばいいのだな。俺はシャーペンを取り出し、それらを速攻でプリントに書き写す。


文系の教科から派生するのは心理学、経済学、マスコミ学か。日本文学とかそういう項目が無いのは残念だが、心理学は興味ある。経済も少し興味があるが、マスコミはあまり……。


自分は将来何をしたいのか、そろそろ考え始めないといけないな。


そんな感じで、正解のない問題を考えているうちに、良い時間になってきたので、俺はベッドに入った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ