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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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83/117

綾子 その1/夏の自由研究その7 アンケート回答

新キャラ登場です。

 9月5日。月曜日。

昼休み、俺は職員室で野暮用を済ませ、近くの階段へ向かった。

階段を上ると1Dと1Eの教室の前の広い廊下に出て、右に曲がり、1Bの教室に向かった。


D組の後ろドアに差し掛かったところで、C組の後ろドアから女子が一人出てきた。

数十枚のプリントを抱き抱えて、何やら慌てた表情をした女子は、早足で俺の横を通り過ぎていく。


「わっ!」


バサバサバサッ!


すぐ後ろから紙が散乱する音がし、続けて落胆する唸り声がした。


俺は足を止めて振り返る。

今さっきすれ違った子がつまずいてしまったようで、手にしていたプリントが盛大に散らばっていた。廊下一面を覆う大惨事だ。

状況を把握した俺は現場に近寄り、プリントを拾いにかかった。


すると偶然、同じプリントに手を伸ばす人がいたようで、


「あっ」


一回り小さな女子の手が、俺の手に重なる。その綺麗な手はすぐに引っ込められた。


「拾うの手伝いますよ」


少女漫画の典型的な出会いだと思いつつも、浮足立ったことを気取られないようさらりと進言した。


「すみません」


彼女は少し戸惑っていたようだが、俺の言葉の意味を理解したようで、頭を少し下げた。


「これくらいなんてことないですよ」


俺ははにかんで、散乱したプリントを拾い出した。

誰も近くを通らないので、手伝ってくれる生徒はいない。

まあ問題ないか。激しく動き回るのは、得意な方だ。


「……ありがとうございます」


全てのプリントを集め終えると、彼女はまたしてもお礼を言い、深々と頭を下げてきた。

俺が「いえいえ、困ったときはお互い様です」と返すと、その女子は「では失礼します」と丁寧にな物言いで去って行った。俺は一日一善だと満足しながら、教室に戻った。


***

 六時間目。

俺は第一講義室の後方に、日代さん、万和人と三人並んで席を取った。

教室とは違い、広い空間にざわめきが広がっている。

自由席のため、どのグループも自然と固まって座っていた。

前の方では、ライトたちバスケ部の姿も見える。


俺はポケットからスマホを取り出しながら、夏休み前のことを思い出していた。

夏休み直前に、全体連絡があった。


・休み明け最初の総合学習の授業で、アンケート回答の時間があること

・自由研究の各グループごとにアンケート用の質問を複数作成すること。

・9/4(日)までにリーダーが学校のアプリに質問を提出すること。


『学習方法と学習環境』をテーマにしている俺たちは、それに沿った質問をいくつか考えて出した。


キンコンと鐘がなる。

教壇に立った倉石先生が、軽く手を叩いて注意を引く。


「はい、じゃあ授業始めます。皆さんに作ってもらったアンケートは、システム上で統合してあります」


ざわつきが少し収まる。


「こちらのQRコードから、回答フォームに入ってください。読み取りが難しい場合は、こちらのURL、もしくは学校のアプリからアクセスしてください」


教室前のスクリーンにQRコードとURLが表示される。俺達は各々回答フォームに移動する。

先生は周りを見回しながら続ける。


「質問はランダムで表示されます。

自分たちの研究テーマと似た内容は出ないように調整されているから、その点は安心してください。

純粋なデータ収集だと思って答えてください」


やっぱりそういう仕組みか。事前に通知があったからだ。


「回答時間は三十分。その後は自由時間です。結果は今週中にAIで分析して、各グループのテーマに関係ある部分だけ後日開示します」


説明が終わると同時に、教室の空気が一斉に動き出す。

今回のアンケートは自分のグループのためではなく、他のグループのために行うことになる。

つまりは助け合いの精神だ。

ここは適当に流さず真面目に取り組まなくては。


「よし、やるか」


俺はログイン画面を開いた。


「なんかちょっとワクワクする」


隣で日代さんが楽しそうに言う。


「ランダムだからね。何が出るか」


万和人が画面を覗き込みながら続けた。

三人でほぼ同時にフォームに入る。

最初の質問が表示された。


Q1:平日の平均起床時間は?


「全然関係ない質問来た」


思わず口に出すと、日代さんが顔を寄せて画面を覗いてくる。


「ほんとだ。でも、こういうのもデータとしては必要なんだろうね」


俺は日代さんのスマホをチラ見する。

彼女の最初の質問は「平日の平均運動時間は?」のようだ。


質問には選択肢が用意されているものもあるようで、日代さんは『3時間』をタップしている。

俺は自分の質問に戻る。

起床は七時……まあ、いつも通りだ。


次の質問。


Q2:通学手段は?


「なんか生活アンケートじゃね?」


万和人がそう呟く。彼も似たような質問が来ているのだろうか。


「考える必要なくていいんじゃない?」


日代さんは相変わらずサクサクと回答を進めている。

一方で、万和人は少しペースが遅いか。


「どんな質問来てる?」

「こんなん」


Q3:休日に一番時間を使う活動は?


「あれ、俺も同じ質問来てたよ」

「そうか? まあ被ることもあるか」


万和人はあっさり受け入れたので、俺も納得する。


「それにしても、これはちょっと迷うな」


俺は少し考える。万和人が口を開く。


「ゲームか?」


彼は俺がサブカルオタクであることを知っているので、こんな問いをしてくる。

即判断は難しいので考える必要がある。


「ゲーム以外の可能性もある」

「へえ、どんな?」


日代さんが横から口を挟む。


「ちょっと考えてみる」


それからしばし考えて、読書と入力する。


「やっぱり読書なんだね」


日代さんがうんうんと頷いている。若干恥ずかしいが仕方ない。

こういう何でもない質問でも、自分の生活を整理する感じがあって悪くない。


さらに進む。


Q4:好きな教科は?


「これは……」

「体育?」

「なぜ?」

「なんとなくだけど」


日代さんが笑う。

好きな教科など考えたことがなかったので、回答に迷う。


「まあ、嫌いではないけど」

「そっか」


一瞬音楽が頭に浮かんだが、高校の履修項目の音楽と考えると、特段好きというわけでない気がする。

一方で体育は文化部の俺にとって貴重な運動機会と言える。

ここは体育で答えておこう。


その後も順当に回答を進めていく。

万和人は途中から、画面に集中しているようだ。


「面白い質問が来た」


小さく呟く。


「何?」

「『平日に昼食で一番よく選ぶものは?』って」


「普通の質問じゃないの?」

「いや、選択肢で弁当、購買、コンビニ、外食ってある」

「外食?」


三人で一瞬止まる。


「自由すぎる」「校則違反」


俺と日代さんの突っ込むタイミングが重なり、笑いが漏れる。

こういうズレた質問も混ざっているのが、逆に面白い。

気がつけば、画面の進捗バーはかなり進んでいた。

最後の質問を終え、送信ボタンを押す。

ふと横を見やると、どうやら三人ほぼ同時タイミングで終了したようだ。

時計を見ると、まだ三十分は経っていない。周りも続々と終わり始めている。


倉石先生が前で言う。


「終わった人は自由時間なので、研究を進めてください」


講義室の空気が一気に緩む。

俺たちはそのまま席で軽く伸びをした。


「なんかあっという間だったね」


日代さんが言う。


「思ったより楽だったな」

「うん」


少し間が空いて、櫻井が口を開く。


「さっきのアンケートだけど、他にも変なやつがあった」

「どんな?」

「『一日に何回スマホを確認するか』とか」


「それ普通じゃない?」

「選択肢がな、『10回未満』『50回未満』『100回未満』『それ以上』」


「それ以上って何回だよ」

「知らん」


また笑いが起きる。


「私は『音楽を聴く時間』のやつ気になった」


日代さんが続ける。


「どれくらい聴くかってやつ?」

「うん。0時間から4時間以上まであった」


平日に4時間以上音楽を聴いているのは、かなりの猛者と言える。


「4時間以上の人って存在する?」

「遠方から来てる人は可能性あるな。電車通学とか」


言われてみれば確かにその通り。いつも電車通学なので、想像力が足りなかった。

日代さんがふと前を向いて言った。


「このアンケート、全部データになるんだよね」

「そうだね」

「ちょっと楽しみじゃない?」

「ああ、分析結果?」

「うん」


確かに。無関係なデータでも、どう切り取るかで意味は変わる。

AIがどう分析するかにもよる。


「俺たちのテーマに引っかかる部分だけ出てくるんだよな」


櫻井が椅子にもたれながら言う。


「なんか、ちゃんと研究っぽいな」

「今までは研究じゃなかなったの?」

「……いや、ちゃんとした研究だ」


万和人の答えには意思が込められているように感じる。

日代さんが少し身を乗り出す。


「じゃあ、そろそろやらない? 次に向けての準備」

「次っていうと、試験対策?」


そう問うと、彼女は頷いた。


「そうそう。勉強法の実践」

「なるほど」


万和人が頷く。


「じゃあ、ついでに学習環境も詰めよう」

「もちろん」


軽く笑う。講義室の窓から、午後の光が差し込んでいる。

ざわめきの中で、俺たちは次に向けた話し合いを始めた。

まだ途中だけど、確実に前に進んでいる。


***

 放課後。

文芸部でコンクールについての話を軽くした後、少し雑談してから解散となった。

琴吹さんはこれから用事があるらしく、部活が終わるとすぐに帰ってしまった。

宿題は多く出されなかったので、多少の時間を潰すべく、またしてもサッカー観戦をすることにした。


昇降口を出てから少し歩き、サッカーグラウンドにやって来ると、


「ファースト!」

「「「へい!!!」」」


ちょうど紅白戦をやっていて、ゴールキーパーがボールを持ち蹴りするところだった。


赤陣営のキーパーが大きく蹴り上げたボールは、コートの中央円付近に落ちる。

そのボールを我が物としようと、二陣営のボランチたちが、空高く飛び上がり、体を激しく当てて競り合う。


そして、競り勝ったのは赤陣営。ヘディングしたボールはもう一人のボランチが長い足を伸ばしてなんとか拾う。


「もっと前に出してくれ!」「わるい、ごめん!」


長身の彼が相方のボランチにそう指示をした。今日も厳しくプレイをしているようだ。


俺は例のごとくベンチの方を見た。

そこで、昼休み会ったと思しき人がいることに気づいた。

コーチやマネージャーらはボールを捉えようと、忙しなく首を動かしている。当の彼女も仕事はないようで、彼ら同様に熱中して試合を見ていた。


そこでふと、彼女のすぐ隣にいるマネージャーが、彼女に近づいて何か指摘する。すると、彼女はコートのサイドラインに沿って歩き始めた。


スクイズボトルの交換と俺は予想する。

サッカーグラウンドの周りには、スクイズが等間隔で置かれており、選手がいつでも水分補給できるようになっている。どのチームでも見られる光景だ。


さて、俺の予想の結果はというと、彼女はハーフウェイラインの延長線上と、ゴール裏に置いてあるスクイズを持って、こちらにやってきた。大当たりだった。


「あれ、あなたは……?」


俺に気づいた彼女は、不思議そうな表情で話しかけてきた。


「お昼に会いましたね」

「お昼……? もしかしてプリント拾ってくれたーー」

「そうです」


俺が応えると、彼女は頭を下げた。


「あの時はありがとうございました」

「いえいえ」


俺は紳士に応える。数枚程度ばらまいた程度ではきっと助けなかっただろう。しかし、あの状況で見て見ぬふりをしていたら、廊下が長らくの間通行止め状態になっていただろう。さすがに無視はできなかった。それに、情けは人の為ならずとことわざにもある。


「あの、どうしてここに? サッカー部に用ですか?」

「ちょっと観戦をしてました」

「観戦……ですか?」


彼女は不思議そうな目でこちらを見た。不思議がるのも当然か。

サッカー部の知り合いに会いに来たわけでもなく、入部希望のための見学者でもなく、ただ暇つぶしに見ているだけだ。


「俺、中学でサッカー部だったからなんか見入っちゃって」


そう言われて、彼女は何か納得したような表情を見せた。


「北高のサッカー部、かなりレベル高い」


ボールを追いかける連中を見ながら、俺は呟いた。


「そうだね……」


隣でグラウンドを見ながら、彼女は共感の意を示した。どこか他人行儀だが、反対に親しみを寄せているようにも聞こえた。その横顔から表所を読み取ることはできなかった。

何かサッカーに思い入れがあるのだろうか。そう妄想しつつ、ふと視線を逸らすと、彼女が手に持つスクイズに気が付き、


「水汲み、やらなくていいんですか?」


と指を差しながら尋ねた。


「あっ、忘れてました。私行かないと」


そう言うや否や彼女は急ぎ足でこの場を去っていった。


ピロリン♪


通知音が鳴ったので、制服のポケットに手を突っ込んでスマホを取り出した。


なになに……んん!?


俺の昨今の推しである歌手kirara(キララ)の新曲『My coller』がリリースされただって!? 発売日は……昨日かよ! オーマイガー!

見落としにも程があるだろ。


ホーム画面に戻って時計を確認すると、もう六時過ぎだった。暇つぶしをしすぎた。

行きつけのレコード屋がまもなく閉まる時間だ。サッカー観戦をしている場合ではない。

CD特典をゲットして、全国ライブの席を今度こそ確保するのだ!


俺はグラウンドを立ち去り、足早にレコード屋に向かった。


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