古暮兄妹の遠出 ポートタワー編 パート1
俺の妹は最強だ。
勉強の才能はもちろんのこと、音楽や絵などの芸術的な事柄にも天賦の才がある。
ピアノは俺と比べても遜色ないほどの実力があるし、以前見た風景画はまるで高画質の写真そのものだった。
そしてさらに、小学校の運動会では立て続けに一位を取っていたことから、運動神経にも優れている。
容姿端麗で面倒見のよい、優しい性格の持ち主。
史上最高に理想的なヒロイン。そう呼ばずしてなんと呼ぶ!
神様はなんて素晴らしい人をこの世に生み出してくれたのだろう。
彼女がいれば、この残酷な世界でも生きていける。
「お兄さん」
グランドピアノが美しい旋律を奏でるように綺麗な声が鼓膜を震わせる。
それと同時にほんのりと甘い花の香りが鼻を突き抜けた。
柔らかく微笑むその横顔は麗しく、周りの景色がかすんで見える。
「二人で遠出するのって、久しぶりですね……」
〜〜〜〜〜〜〜〜
「二人で遠出するのって、久しぶりだね~♡」
なんということだ。妹の最高に可愛いスマイル攻撃!
こんなの食らったら、どうなるかは目に見えている。
「え、あの、その……」
異性に対して超効果抜群な『エンジェルスマイル』によって、俺はコミュ障と化した。
完全に不意を突かれてしまったため、不可避と言える。
ゆでだこになっていることがばれないように、咄嗟に顔をそらした。
過呼吸気味になっているのは隠しようがない。
妹は様子のおかしな俺の姿を見て、不思議そうにコテンと首を傾げた。破壊的に可愛い仕草だ。
「おにーちゃん、どうかしたの?」
「うっ!?」
妹の第二の専用必殺技『首こてん』は、特定の異性に対して破壊級の威力を持つが、兄に対しては一撃必殺技。当然のことながら、俺の思考回路は破壊された。
あれ、目の前に天使がいる! なんてラブリーでキュート♡♡♡
「あ~っ、もしかして、キンチョーしてる?」
妹は両手の人差し指で俺の肩をツンツン突いてきた。おっふ、それはさすがにダメ。
脳はすでに大部分を破壊されているが、心臓が破壊するのはアカン。昇天してしまうではないか。
「今日は久しぶりのデート♡ だもんね」
「そうだな、今日は久しぶりのお出かけ……デートォ!?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「わっ! びっくりした~。ふふっ。おにーちゃん、めっちゃ緊張してる」
「い、いや。俺はキンチョーなぞしとらん!」
そう声を振り絞る。俺の心臓よ、お願いだから、静まっておくれ。
今日はただ二人で遠くにお出かけするだけであって、決してデートなどではない。
「ホントかなー? なら、あたしの目を見て」
妹は俺に懐疑の目を向けたかと思うと、今度は真剣な眼差しで見つめてきた。瞳の中に広がる渦巻銀河の中に、吸い込まれてしまいそう。
「あう」
「ん~、どうしたの? ちゃんと目合わせてよ!」
いったん深呼吸して、心を落ち着かせよう。ふう。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「……お兄さん?」
「ん?」
声をかけられたことで、ふと我に返った。
「ぼーっとしてましたけど、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
妹を目の前にして、俺はなんてバカな妄想をしていたのだろう。
バスという狭い空間の中、彼女の魅力や芳香にあてられたせいか。
兄に甘々な態度を取る妹なんて、ラノベの中にしかいるはずがない。思考を切り替えよう。
「話聞いてました?」
「うん。言われてみれば久しぶりだな」
食料・雑貨を買いに行くときなど、一緒に出かけることは珍しくないが、観光や娯楽目的で遠出をするというのは結構久しぶりな気がする。
そういえば、バスに乗車したのは久しぶりだ。
中学で修学旅行で乗った記憶がある。あのときは貸し切りバスだったけど、満席でちょっと暑苦しかった。
高校に入ってからはバスは一回も乗っていない。たいていは自転車で済むからだ。
バス中をぐるりと見回してみる。
中学のときに比べたら、このバスは小さい。長距離用や団体旅行用ではなく、普通の路線バスだからこんなものだろうか。
乗車の際にあまり混んでいなかったから、後ろの方の席に適当に腰掛けたが、あまり快適な乗り心地とは言えない。仕方ないか。
とまあ、バスについて考えるのはこれくらいにして、本題に入ろう。
日曜日の今日、俺たちが出向くことにしたのは、『道の駅A港 ポートタワーエアリオン』だ。
この道の駅はお隣の町、美海栄町にあり、その名の通り、海のすぐ側にある。ポートタワーという大きな展望台がランドマークだ。
今日この道の駅の選んだのは、昨日の夜のニュースでこの道の駅が紹介されていたのを見たのがきっかけだ。
新鮮な海鮮料理を食べることができ、地域独自のお土産や名産品などが沢山売られていると知り、これはいいとすぐに場所をリサーチして、行くことに決まった。
A港は家から南西の方角にあり、バスだと35分ぐらいかかる。徒歩や乗り換えの時間を含めると、所要時間はおおよそ45分といったところだろう。
35分座ったままとなると手持ち無沙汰になる。一人なら電子書籍を読み耽るのだろうが、相手を放置するのは野暮だろう。
そう考えた俺は、妹との会話や外の景色の鑑賞を楽しんで、うまいこと時間を潰していた。
「ポートタワーって行ったことないよな」
隣に座る明里に話しかけた。
「そうですね」
県内ではなかなかの有名なスポットだというのに、一度も行ったことがないとは、自分たちがいかに地元について無知であるかを実感させられる。
「ポートタワーについて何か知ってることはあるか?」
試すような口調で、明里に問いかけた。
昨日の段階では、明里に遠出することだけを伝え、行き先は知らせていなかった。
今日家を出る直前に、行き先を伝えた。よって、彼女が行き先をリサーチできる時間はないに等しい。
予備知識がない限りは、俺の問いかけには答えられないだろう。なので「まったく知らなかったです」という返答をされても、決して文句は言わない。
ちなみに俺はというと、ポートタワーという単語の意味は知っていたが、それがまさかこの街にあるなんて全然知らなかった。灯台下暗しとはこのことだ。
「確か、『恋人の聖地』でしたよね」
「おー、よく知ってるね」
恋人の聖地は日本各地にあるロマンティックなスポットを選定したものだ。自然に囲まれた場所や、景色が綺麗な場所など、恋人たちのデートにはもってこいの場所と言える。
「ポートタワーのある敷地から、車道を挟んで向こう側の休憩場所にある『結び岩』。あとはポートタワーの展望台にある、『カップルベンチ』なんかがスポットだな」
「いろいろあるんですね。とても楽しみです」
明里は目を輝かせている。その様子を見て、俺も期待が倍増してきた。
「そうだな。それに他にも面白そうな施設があるぞ」
「何ですか?」
「ポートタワーのすぐ近くに『屋内緑地公園 エアリオンリスタ』あるそうだ」
屋内の公園というのは一度も訪れたことがないから、非常に楽しみだ。全面ガラス張りと書いてあったけど、一体どんな構造になっているのだろう。
***
「到着致しました。道の駅A港 ポートタワーエアリオン前でございます」
これから出向く道の駅について話を広げているうちに、目的地に到着した。
「へえ、ここが道の駅A港か」
バスを降りると、目の前に大きな建物が二つ現れた。一つはポートタワーエアリオン、もう一つは屋内緑地公園のエアリオンリスタだ。
「思ってたより高いな」
ポートタワーを見上げながら、感じたことを率直に述べた。
本当にすごい。なぜ今まで来なかったんだろう。これ、絶対絶景が拝めるやつなのに。
隣を向く。
明里も「わあ!」と声を漏らす。黒色の長髪がさらりと揺れた。
彼女の格好は、薄い水色のノースリーブワンピースに白の軽量スニーカー。
絵になりそうな光景に感銘を受けつつ、大きく息を吸ってみると、潮の香りがした。
どこか清々しい気分になった。
「よし、じゃあ早速タワーに行こうか!」
「はい!」
期待を最大限まで膨らませて、俺たちはタワーへと向かうことにした。いざ参る!
自動ドアを二枚潜り抜けて、ポートタワーの内部へと入る。リサーチ通り、一階はとても広く、食品売り場がずらりと並んでいる。
まず初めに、入り口の一番近くには、ドライフルーツ売り場があって、色とりどりのドライフルーツが綺麗に並べられていた。
俺は唾を呑みつつもそれらを素通りし、目的のタワーへと向かう。手荷物が増えるから、買い物は後回し。財布の紐は緩めないぞ!
それから通りかかったのは、スナックや煎餅、スイーツなんかが売られているお菓子売り場。俺は目をできるだけ逸らして菓子屋を回避する。目が合ったらそれはもうおしまいだ。よし、ここも上手いこと通り抜けることが……?
「お、おい! 明里!」
なんと、妹がお菓子売り場の攻撃『お菓子の魅了』を食らっていた。これはやばい。なんとかしなければ!
俺は明里に駆け寄り、彼女の目をすかさず手で覆った。視界をシャットアウト!
「あっ、すみません。つい目が行ってしまいました」
明里は意識を取り戻したようで、敵を背にして応えた。
「ああ、わかってる。無事で何よりだ」
ひとたびお菓子売り場に足を踏み入れてしまったら、もう二度と復帰することはかなわない。妹が引き込まれるのを阻止することができて、本当に良かった。
その後も俺たちは所々で敵の誘惑に気を取られながらも、何とかそれを凌いで、展望台へと続くエレベーターの前まで来ることができた。それはもう本当にギリギリで、危急存亡の戦いだった。
ピンポーン。
エレベーターが到着してドアが開いた。俺たちはゆっくりとそれに乗り込んだ。
偶然にも、エレベーターに乗ったのは俺たち二人だけだった。よし、これなら……
ダン! と片腕を壁に突き出す。傍から見たら、いわゆる壁ドンの形だ。
「お兄さん?」
明里がか細い声で問うてくる。そうそう見られるものではないのだから、存分に堪能せねばな。
「見ろよ明里! すごい速さで上がってるぞ」
ガラスに張り付いて外を指差しながら言う。鉄筋コンクリートでできているようで、外の景色が丸見えである。
「驚きました……」
「ああ、だろ? 爆速だよな」
「えっと、そうでは……いえ、なんでもないです」
明里が何か言いかけたようだが、途中で耳の奥が痛くなってきたので、唾を何度か呑み込んだ。
耳が回復したので、すごい速さで上昇していく景色に意識を戻す。
「ちょっと怖い速さです」
明里はエレベーター内にある高さ表示のパネルを見ながらつぶやく。
「はは。なんか、ディズニーランドのHaunted Mansionを思い出す。あの浮遊感はすごかった」
中学校の修学旅行でディズニーランドに行った際、高いところから何度も落下するアトラクション『ホーンテッドマンション』に乗ったことを思い出す。
あのときは俺も幼かったので、スリルと恐怖がものすごかったことを記憶している。
「行ったことがないのでわかりません」
明里がふてくされたような声を放った。
「そっか、すまん。遊園地のフリーフォールだったらわかるか?」
俺が言うと、明里が「ああ、はい」と返事をする。共感してもらえたようだ。
そしてまもなく、「ピンポーン」とエレベーターのドアがゆっくり開く。
「展望デッキでございます/ You have arrived at the observation deck.」
俺達はついに展望台へと足を踏み入れた!
「うわー、絶景じゃん!」
透明ガラスに駆け寄り、青く晴れ渡る空を見渡した。
雲一つない、澄み切ったライトブルーの世界だ。
そしてその下には深い青色の海が広がっている。手前の方に船が二隻いるが、膨大に広がる海に比べたら、船なんてちんけなものだ。
海と空。そのはるか遠くには、それらを分かつ水平線。そして、水平線と続いてかすかに見えるのは他県の半島だ。距離は離れているけれど、このタワーで見ることができるのか。
「いい眺めですね」
俺とまではいかないが、明里もそれなりに窓ガラスに張り付いて感嘆の言葉を述べている。こういう眺めは普段はまず見ることができないから、本当に素晴らしいし、とても気分が高揚するものだ。
「ああ、本当にすごい。かなり遠くまで見渡せるな」
海も空も最高だ。普段見られない景色はそそられる。
「反対側にも行ってみませんか?」
青く晴れ渡る空ときらきら輝く海の景色に釘付けになっていたところで、明里が提案してきた。
「うーん、そうだな。陸側の方も見てみよう」
俺は納得して展望デッキの反対側、すなわち陸側の方へと向かった。
「どれどれ……」
手をパシッと合わせて、窓ガラスに駆け寄った。
雲一つない空の下に広がるのは、俺の生まれ故郷の愛野町。
多くの人・自動車が行き交うこの町は、大都市とはいかないまでも、それなりに発達している。
電車やバス、タクシーなどの交通は充実しているし、直売店から市場、スーパーマーケットまで様々な種類の店が、コンパクトにまとまっている。これも町開発を進めてきた先人の賜物だろう。
「見えるかな……? あっ、あそこ!」
視線の先にあるのは、ぎっしりと詰められた住宅街だ。そしてそこから少し離れたところに、複合商業施設『LUCUA』の建物がある。
「LUCUAがかわいく見えますね」
明里が隣でそうぼやいた。それに同調して、街全体を見渡した。
車・人・建物。遠くから俯瞰すると、全体の動きがすべて見える。サッカーと同じだ。
フィールド内にいると、自分や自分の近くにいる選手のみに目が行きがちだが、コートから離れた場所で試合を見ると、各選手の細かい動きから、選手たちの全体的な動きまで、全てが把握できる。
つまりは、視野を広げられることによって、試合の見方が変わるというわけだ。
いつもはこの街の一住人だけれど、今はそうではない。
車や船から、街全体の流れ、そしてそれを取り囲むすべての自然を、俺はこの目で捉えて把握できている!
表現するなら、神様、もとい自然の創造神になった気分だ。ハーッハッハッハ! 俺がこの世界を造ってやったぞ!
「……さん。お兄さん」
「ん、なんだ?」
創造神の気分を味わっていたところで、肩をチョンとつつかれた。
バッと勢いよく振り返ると、明里は驚いたようで少し身を引いた。
「お、お兄さん。一緒に写真を撮りませんか? ほら、ちょうど今ベンチが空いてますし」
明里はそう言って、例のベンチがある方を指差した。名前はなんだっけ? ーーああそうそう、カップルベンチ……っておいおい、ちょっと待て。
「えーっと、あれに座って撮るのか?」
俺は戸惑いながら応えた。あれはその名の通り、カップルたちが座って写真を撮るベンチ。
もしあのベンチに座ったとなるとそれは、俺たちが恋人であることを自ら周囲に示すようなものではないのか……。
「はい。ダメですか?」
明里は真剣な表情をするでもなく、軽い口調で問うてきた。これはどういうことだ。
別に深い意味は無く、今空席だから撮っちゃおうみたいな軽いノリなのか。
そういえば明里から、色恋沙汰の話は全く聞かないな。
俺なら中学時代でこんな子がクラスにいたら、絶対お近づきになりたいと思う。
客観的に見ても明里は引く手あまただろう。誰一人からも声をかけられないなど想像できない。
こちらを不思議そうな目で見つめてくる彼女を見ながら考える。
俺と明里の仲はとても良いと希望的仮定をする。
仲の良い兄妹ならば、自分のことを包み隠さずになんでも話してくれるのではないか。
逆に色恋に関しては隠したいと思うのか。
彼女が男友達を家に連れてきたことはないため、誰かと関係を持っていたとしてもまだ深い段階とは言えない。
それにそもそも付き合っている人がいない可能性もある。
恋愛に興味があるかないか。
恋愛対象はいるかいないか。
恋人がいるかいないか。いるならどこまで関係が進んでいるか。
彼女は一体どの段階に当てはまるだろう。
分別があるから心配はしていないが、何か悩みがあれば助けになりたい。
「お兄さん、早く行きましょうよ」
俺が思考を加速させて何も喋らずにいるのに待ちかねたようで、明里は俺の手を取ってベンチの方に向かった。
「おう……」
明里は特に気にしてないようだし、別にいいかーーそう結論づけ、張り切っている妹の背中を見つめるのであった。
そして俺たちはカップルベンチの前までやってきた。
カップルベンチは二人用、というのは見なくても察しがついたが、その形は非常に特徴的だった。
座面は楕円形とありきたりな形だが、目が行くのはそこではなく背もたれの部分だ。
勘の鋭い人なら名前で気づくだろうが、この背もたれの部分、なんとハートの形をしているのだ。
実際はハート型の下から三分の一ほどはすっぱり水平に切られているが、完全な形じゃないと文句をつけるのは野暮だろう。
次にベンチの塗装についてだが、赤と青の二種類だ。男性が座る右半分が青、女性が座る左半分が赤といった具合で、座面・背もたれともに中心線を境に左右対称に色が塗られている。
こうして観察してみると、非常によくできたベンチだ。
また、ベンチは内側に向かって設置されている。つまり、絶景を背景にカップルを撮影する形になる。
「私のスマホでいいですか?」
ベンチの前で立ち止まっていると、明里が訊いてきた。
「いいけど、どうやって撮影する?」
「あっ、それは問題ないです。ほら、そこの壁を見てください」
後ろを振り返ると、スマホ用撮影ホルダーが壁に埋め込まれていて、そのすぐ傍に小さなボタンと、説明があった。
『1、お持ちのスマートフォンのカメラ機能をオンにして、ホルダーに装着してください。正しく装着されると自動的にカメラ機能が起動して、撮影が可能な状態になります。
2、このホルダーのすぐ側にあるボタンを使って撮影してください。ボタンは取り外し可能で、一押しにつき一回シャッターが切れます。(※ボタンは軽く押せば反応するので、力を入れすぎないよう注意してください)
3、写真を撮り終えた後は、お持ちのスマートフォンをホルダーから取り外して、ボタンを元の位置に戻してください。(次にホルダーを使用する人へのマナーを忘れずに)』
「へえ、便利なもんだな」
俺は感心の声を漏らす。
このホルダーが取り付けられるくらいには、この場所で撮影する人たちがいるということなのだろう。
「よし、できた!」
明里はスマホをホルダーに取り付けた。
「じゃあ、座るか」
そう言い、先にベンチに腰掛けた。位置は当然ながら青色の方だ。
続けて明里がボタンを持って俺の隣に座った。
自宅のソファーに二人腰かけるのとはどこか違って、なんだか落ち着かない。観光客に見られるのもそうだが、なにより距離が近い。
「お兄さん」
明里が話しかけてきたので、「どうした?」と顔を横に向けた。
すると、明里の端正な顔がものすごく近くにあったので、「うわっ!」と身をのけぞらせしまう。
「ふふ」
明里は妖艶な笑みを浮かべている。まさか狙ってやったのかという疑問が湧いてくる。
「撮影終了です」
「え、ウソ? もう撮ったの?」
俺は拍子抜けな声を出した。シャッター音は聞こえなかった。
「はい。おそらくベストショットです!」
明里は素早く立ち上がって、スマホをホルダーから取り外し、スマホの画面を見つめる。撮った写真が満足できるものだったようで、よしと軽く頷いた。
「写真送りますね」
明里は手にしていたボタンを元の場所に戻し、再度スマホの画面を見つめた。
ピロリン♪ ラインに通知が来たので、ポップアップされたバナーをタップしてトーク画面を開く。
「来たな……」
送られてきた写真のデータを恐る恐る開くと、まるで本当のカップルのような、至近距離で見つめあう二人の姿が映し出された。




