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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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71/117

実力テスト

 翌日。今日は9月2日の金曜日。

いつもより早く目が覚めた。ランニングもそこそこに学校へ向かうと、普段より数十分早く到着した。

扉を開け教室に入る。来ている人は数人だ。


「おはよう」


そう挨拶するが、特別仲の良い生徒はいなく、返事はなかった。

教室には哀愁が漂っている。


昨日のくじ引きで決まった席に向かう。カバンを机の側に置き、椅子にどっと腰かけた。


必要な教科書や筆記用具を机の中に入れ終わると、一度周りをぐるっと見回して、今度はスマホの電源を入れた。


学校のサイト。注目すべきお知らせは特にない。

なんとなくクラスのお知らせを開いてみる。


昨日の夜に送られてきた『席と名前のリスト』が目に入ったので、それをタップして開く。


教卓が一番上の中央にあり、そこから下はずらりと生徒の座席が並んでいる。

生徒の座席は横長の長方形で、その四角の中に生徒の名前が書かれている。


『古暮和人』


画面を拡大すると、小さかった文字が大きくなり、俺の名前が見えた。今まで数えきれないほど見てきた名前だ。


小学生でも書ける簡単な名前で、俺は結構気に入っている。

名前は簡単に越したことはない。画数が少ないと、名前を書く時間が少なくて済むし。


自分の名前はもう見飽きたので、今度は上下と右隣の人の名前を確認する。

前は前橋さん、後ろは相模原さん。二人とは話したことがない。

そして右隣は……おっ、東条さんだ。面識ある人で良かった。

知らない女子に囲まれて窮屈な思いをせずに済みそうだ。


次に俺は学年のお知らせから、九月の行事予定表のpdfファイルを開いた。


===

実力テスト

防災訓練

進路セミナー

・・・

===


ん、実力テスト……!? 


や、やばい。夏休みの宿題のことばかり気にしていて、休み明けに実力テストがあることを見落としてた。全然対策してないんだが……。


あーそうだ、確か先生が宿題の中から出るとか言ってたな。

宿題はちゃんとやってたけど、大丈夫だろうか。


テストまで少し時間あるから、課題の復習するべきだろうか? --いやいや、ちょっと勉強したところでほとんど変わらないだろ。うん、もういいや。


***


 ガラッと勢いよくドアが開いた。


「おはよー!」


元気な声で現れたのは、今日から隣の席の東条さんだった。

挨拶に反応した女子たちに手を振って応えながら、彼女はこちらへ迷わず向かってきた。


「私の席は……ここか」


東条さんは隣の机にカバンを置き、こちらを見た。すなわち目が合った。


「あっ、古暮くんだ。おはよう」

「おはよう」

「今日から隣の席だね。よろしく」

「うん、よろしく」


彼女は満足気に頷き、椅子に腰掛けた。

カバンの中から教科書類を取り出して、せっせと机に詰め込んでいく。

随分と手際が良い。手先が器用なようだ。


道具一式を入れ終えた東条さんは、カバンを机の脇に置いて、ポケットからスマホを取り出した。

今度はスマホで時間を潰すのだろうと思いきや、ふと俺の方を向いた。


「どうした?」


少し感心しながら彼女のことを見ていたが、何も言わずに観察されたら気になるのも当然だ。観察はここら辺にしておこう。


「いや、なんでもないよ」


俺は若干慌てながら答え、窓の方に顔を背けた。


「みんな、おはよう!」

「「おはようございます」」


一ノ瀬先生が元気に挨拶をして教室に入ってくる頃には、頭数はほぼそろっていて、俺たちは合唱するかのように口を揃えて応えた。


先生は「みんな今日もいい挨拶だね」とニコニコしながら、手に持っているアイポッドを教卓に置いた。

先生の挨拶に俺たちが応え、先生は笑いながら教卓に向かう。この一連の流れはもはや1Bのお決まりだ。


「今日は実力テストがあります。実技教科を除く5教科です。皆さん頑張ってください!」


ついさっき、実力テストのことを確認したからそれほどダメージは大きくないが、これがもし初耳だったら間違いなくパニックしていただろう。


***


 一時間目。

何の事前準備もしないまま、試験の舞台に立ってしまった。例えるなら丸腰で戦場に出るようなもの。


先生が言うには、実力テストは考査と違って既知の問題は出ないのだとか。つまるところ、すべて初見問題ということになる。


今まで身に着けてきた知識を駆使してどこまで戦えるか。ま、なんくるないさの精神で行こう。


「それでは、回答用紙を配ります」


用紙が配られてくる。前はそれをただ受け取るだけだったが、腰をひねって後ろに用紙を回す必要がある。よいしょ。

後ろの席の相模原さんは笑顔で用紙を受け取ってくれた。新鮮でいいね。



回答用紙に目を落として、問題の量を確認する。記述が少し多めだな。これは時間がかかりそうだ。


「次に、問題用紙を配ります」


少し厚みのある問題用紙が配られる。見ると、『第〇回 全国模試 国語(現代文/古文・漢文)』と表紙に書かれている。そして、その文字の下には長々と注意事項が書かれている。


「今から注意事項を読み上げます……」


長ったらしい説明を聞くのはごめんなので、俺は注意事項にさらっと目を通して、目を閉じた。


視界をシャットアウトすることにより、外界から入ってくる情報を大幅に遮断する。集中力を高めていこう。


「それでは始めてください」




合図の後、問題用紙を開く。


第一問 次の文章を読んで、後の問に答えよ。


 読んだことのない本について、博覧強記に会話することは不可能なことではありません。例えば、誰かがこちらの読んだことの無い本について話し始めたとします。すると彼らは必ずその本の興味の持っている点について、「面白い」や「つまらない」などの意見を述べるはずです。話が進むにつれ、適当な相槌を入れれば、話は弾んできます。そして……


現代文は評論と小説の二問か。結構解けそうな感じがするな。


第三問 次の文章は『栄花物語』の一説である。これを読んで、後の問に答えよ。


 この宮の御心地、さらにおこらせ給はず。世の中の聞こえあり、験ありと言はるる人々も、かううちはへ御修法仕まつりたり。御祭、数をつくせど、おこたらせ給ふけしき見えず……


古典は古文・漢文の二問。ぱっと見かなり難しそう……。


現代文は記述があり、時間がかかりそうなので、俺は古典の方を最初に解くことにした。


古典を解き終わった後、現代文を解いた。


記述問題に少し難儀したが、集中を切らすことなく解き切ることができた。




「時間です。ペンを置いてください」


ペンをゆっくりと置く。記述問題の解答をさらっと見て、合っていることを祈りつつ、それから目を離した。


「一番後ろの人は、自分の列の回答用紙の回収をお願いします」


俺は出番だと思って立ち上がりかけたが、一番後ろではないということに気づき、途中まで浮かせた腰を椅子に再度着地させた。



そして、回答用紙を後ろから来た相模原さんに渡す。自分が動く必要ないからとても楽だ。



先生が教室から出ていくのを見送ると、ふうと深いため息が出た。


全体を通して、予想以上に難しかったな。


全て初見問題というのもあるが、四字熟語や外来語で知らない単語が何個も出てきたので、理解するのに難があった。

意味の分からない単語が何個もあると、文面から意味を察するのもできなくなるから結構しんどかった。

出来としては、七割五分くらいだろう……。



***


 何とも言えない出だしから、数学、物理と理系教科を苦戦しながらも解いていった。


数学、物理ともに難問揃いで、考査の時に比べて手ごたえがあまりなかった。


四時間目の化学のテストの終了して昼休みになると、俺は心身共に弛緩して、骨抜きになった。


「古暮くん、テストどうだった?」


だらしなく机に伸びているところに、日代さんが訊いてきた。溶け出しそうになっていた俺は、すっと姿勢を正して答えた。


「難易度高めだったと思う」

「だね。全体的に難しかったなー」


東条さんもうんうんと頷いている。やはり全国模試は誰からしても難易度が高かったようだ。


「数学の最後の問題さ、何聞かれてるか全然わかんなかったんだけど」

「あー、はいはい。俺もよくわからなかった」

「でしょ」


東条さんの方を見ると、なかなか険しい顔をしていた。


「千鶴は最後のやつ解けた?」

「あんなの無理」


東条さんはフルフルと小刻みに首を横に振った。


「あれは解けない私たちじゃなくて出題の仕方が悪いと思うんだよなー」

「そうそう! 問題文がなってないよねー」

「まずは現代文わかりますかって感じだよね」

「ほんとその通り!」


二人の勢いに押され、俺は「アハハ」と苦笑いを浮かべる他なかった。


***


 午前の授業も終わり、昼休みになった。

席替え前と同様で、昼飯はライトとともに学食へ向かおうと立ち上がるが、悲しいかな彼は教室内にいなかった。

少し気を落とすが、思考を切り替える。

これはきっと神様から新たな環境に飛び込めというメッセージだ。人脈作りに励めということだろう。

俺は勇気を出して隣の東条さんに声をかけた。


「東条さん、お昼はいつもどうしてるの?」

「あー、たいていは学食だよ」

「そうなんだ。俺もいっつも学食なんだけど、よかったら一緒に行かない? おすすめのメニューとかあったら教えてほしいな」


女子を食事に誘ってしまった。俺もなかなか成長したものだ。


「えーっと……」


案の定というべきか、東条さんは困惑しているようだ。

立場が逆だったとしたら俺も驚くだろうから、普通の反応と言えるだろう。


「用事とか先約とかあったら断ってくれていいから」


俺は軽いトーンでそう言った。ちょっと上から目線っぽくなってる気がする。これは言い方を誤ったかもしれない。


「ち・づ・るー! 学食行こー……ってあれ、どーしたの?」


反省しながら彼女の返事を待っていると、日代さんが元気な声でこちらにやってきた。


「あっ、ほのか。今、古暮君に学食行かないかって誘われてたところだよ」

「えっ、ほんと?」


そう言うと、日代さんは俺の方を向いた。彼女はにこにこしながら俺の顔を伺ってくる。


「あ、うん。もしよかったらだけど」

「ふーん。千鶴、どうするの?」

「ほのかは?」

「私は全然問題ないよ」


日代さんからは許可が降りた。まあ日代さんとはいつもラインでやり取りしてるから、断られることはそうそうないとは思っていた。

問題はやはり東条さんだ。もしかしていつも日代さんと二人で昼食を取っているのだろうか。

女子水入らずでということなら、許可が下りない可能性が高いが……。


「そっか。……じゃあ、みんなで行こっか!」


まさかの同行の許可が下りた。やったぜ、ぼっち飯回避だ!


「ありがとう」


そう感謝すると二人はうんと頷いた。


 ライトと学食へ向かう時のように仲良く並んでとはいかず、女子二人に俺が後ろからついていくような形で食堂へ向かった。


春百(はるも)意外の女子と学食に来たのはこれが初めてだ。さらに言うと女子たちの会話に混じるのもこれが初めてだ。

学食の列に並ぶと、後ろの日代さんが声をかけてきた。


「古暮君はいつも何を食べるの?」

「えっと、日替わり定食かな」

「あ~、日替わり定食、美味しいよね。私もよく食べるよ」

「うんうん。定番は安定だよね」


東条さんも頷いている。

日替わり定食は安心安全な、定番のメニューだ。学生の数割はこのメニューを選択しているという。


「東条さんもいつも日替わり定食を?」

「うーんと、日替わり定食も食べるけど、今は牛丼にはまってる」


牛丼か。あれ、一度トライしてみたけど、結構ボリューミーなんだよな。


「意外とがっつり食べるんだね」


東条さんの体全体を見ながらそう口にすると、日代さんが、俺の思考を察知したかのような表情をして、


「千鶴は育ち盛り真っ最中だからね。確かまた体重が増えたんだっけ? 五十……」

「ちょっ、ほのか!」


東條さんは素早い動きで日代さんの口を手で塞いだ。

俺は「アハハ……」と苦笑した。



その後俺ら一行はテーブルに座り、たわいない雑談をしながら食事をした。

学校に関する話、ニュースや時事、趣味・嗜好など様々なことを話した。


ライトや奏と話している時と比べ、会話のテンポは少し早い気がした。漫才をしているみたいだった。

軽い感じで答えた話の内容に深く突っ込んでくることもあり、話が途切れることはまずなかった。

問題解決を重視する男子と違って、共感を重視する女子は、やはりコミュ力が高かった。


主な収穫は、東条さんがバトミントン部であること、どちらも音楽はよく聞くらしく、それぞれ好きな歌手がいたこと。音楽の系統としてはどちらもJ-POPを好んでいるらしく親近感が湧いた。

俺の推しである『Kirara』を知っているか聞いてみたところ、有名な曲を何曲か挙げてくれた。

二人が『Kirara』を知ってくれていたことで舞い上がり、オタク特有の早口で曲のお気に入りポイントを語ってしまい、ふと喋りすぎだと気づいて自重した。


俺は彼女たちと別れた後教室に戻り、自席に座った。


ついさっき食堂で、「実力テスト、超難しくなかった?」という話が出たのを思い出した。

国語はそうでもなかったが数学や物理といった理系教科のできはあまりよくなかった気がする。


そんなことを考えていると、教室にライトが入ってきた。すると俺は磁力で引き寄せられるかのようにライトのもとへ向かった。


「ライト、テストどうだった?」

「ん? ああ、結構難しかったな」

「そっか、そうだよね。で、手応えは?」

「数学で一つだけ解けない問題があったけど、それ以外はなんとなくいけたと思う」

「ホント? 凄いな!」

「そっちは?」

「理系教科があまりできなかった。国語は結構解けたけど」

「そうか」


ライトとの久しぶりの会話は、非常に安心感があった。


***


 キンコンとチャイムが鳴り、あまりよく知らない先生が入ってきた。上級生の担任だろうか。


「それでは英語の試験を始めます。まず回答用紙を配ります」


監督の先生がそう言って、プリントを配布した。うわ、記述系の問題が多いなこれ。


「次に問題用紙を配ります」


考査のときより少し厚みのある冊子が配られる。


「試験の始めにリスニングテストがあります。問題の指示をよく聞いて、回答してください。間もなく開始です」


その後、監督の先生は注意事項をはきはきと読み上げた。


 数分後。


「それではリスニングテストを始めます」


若い女性の声が上の方から聞こえてきた。

英語の授業では教室に置いてある小型のスピーカーから再生されるので、天井のマイク、つまり放送室から問題文が流されるのは初めてだ。


これなら後ろの方の席で音が小さくて聞こえないなんてことが無いから安心だ。


「In the listening test, you will be asked to demonstrate how well you understand spoken English……」


非常に流暢な英語で概要についての説明がなされた後、情景についての問題、会話の内容についての問題、スピーチの内容についての問題などが、ノンストップで出題された。


ネイティブスピーカーの速度についていくことが出来ず、空欄が思った以上にできてしまった。


そして次にリーディングの問題だ。 


第2問 英文を読んで、次の問いに答えなさい。


I heard that there is a cafe run by a foreigner nearby. And I just feel like I want to go there……



第2問は長文読解問題らしい。



第3、4問も同じく長文読解問題だ。そして第5問は文法や語彙の問題、第6問は英作文のようだ。


どれもこれも見た感じ難問で、わからない単語も多い。


解けそうなところを先にやって、時間がかかる問題は後に回してじっくり解くことにしよう。

英作文は面倒くさそうだから一番最後にするか……。


 そして数十分後。

長文、文法・語彙問題を解き終わり、ついに最後の英作文の問題を解き始めた。



第6問 次の日本文(A)(B)を英訳せよ。


(A)私の父は今…………。


My father is not ……



よし、Aはいい感じだ。



(B)外国人と話したことがなかったので、言葉を知らない国で暮らすことに不安を感じた。だが、海外出勤のある姉からは、尋ねる国の習慣やマナーに精通する方がはるかに重要なのだと言われた。



I had never had an opportunity to talk with a foriegner, so I felt anxious about studying in a country where I couldn't speak the language.



よし、これでいいかな……ん、待てよ。



「外国人」のスペルってfor "ie" gnerだっけ、それともfor "ei" gnerだっけ?


However, I was told by my older sister who had worked in a foriegn country that it was much more important to be familiar with customs and manners of my host country.


「海外」のスペルってfor "ie" gnとfor "ei" gnどっちだよ。やばいド忘れした。


ああ、どうしよう。もう時間がない。

なんでこんな初歩的な単語のスペルがわからなくなるかなー。中学で絶対やったよこれ。

思い出せ! 今すぐに思い出せ!


あ、待てよ。確かこの単語、第2問で出てきたような気がする。


「時間です、ペンを置きなさい」


先生がそう言ったので、物凄い勢いでページをめくっていた俺はしぶしぶシャーペンを置いた。

く、時間だから仕方がない。カンニングになるのはごめんだ。


それにしても、解けない問題もかなりあったような気がするな。まあ、しょうがないか。

解けるはずの問題をどれくらい解けただろうか。


回答用紙が全部集められた後、問題用紙を開いた。

……talk to a foreigner now and……。

なっ、for "ei" gnerかよ。スペル違ったわ……。


***


「皆さんお疲れさまでした。これで今日は終わりです」


 テストから開放され、クラスは脱力と歓喜の声で満ち溢れた。


「はあ、マジ疲れたー」「何だよさっきの英語、ムズ過ぎだろ」「しゃー、気分転換にカラオケでも行くべ!」「部活いこーぜ!」といった具合だ。



かくいう俺はどうかというと、声を発しなかった。というより、発せなかった。

かなりの疲労。『foreigner』が頭を離れない。


「古暮君、英語のテストどうだった?」


東条さんが話しかけてきた。


「うーん、あまり手応えはないなー」

「右に同じ」

「リスニング問題がろくに聞き取れなかったんだけど、東条さんは理解できた?」

「全然。お手上げって感じ」


ちらほら言っている単語の意味はわかるけど、純粋に話す速度が速すぎて処理速度が追い付いてはいんだよな。音がつながったり省略されたりとかされると、本当に呪文でしかない。


一通り会話をして、俺は東条さんと別れた。

帰りのHR、すなわちホームルームは考査の時同様なかった。


俺は琴吹さんのもとへと向かった。彼女はカバンに文房具を詰めている最中のようだ。


「琴吹さん、部室行こう」

「えっと、少し待ってください」

「はい」


俺はカバンを背負いながら、帰る人達の邪魔にならない場所に立った。

スマホをいじりながら、これは数分かかるかなと思いきや、すぐに琴吹さんが来たので、俺たちは部室に向かった。


「テストどうだった?」

「そこそこでした」


俺は驚いた。なぜなら、彼女の言う「そこそこ」は八割前後だからだ。

そして、彼女の「そこそこ」という台詞は、片手で数えるくらいしか聞いたことがないので、これは物凄くレアケースだ。


「今回、結構難しくなかった?」

「はい。難しかったです」


難しいと感じながらも、そこそこの感触があるというのは、驚異的としかいいようがない。

やはり、琴吹さんには及ばないな。

俺は彼女の足取りから少し遅れ気味のまま、部室へと向かった。


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