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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生夏休み
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引退ライブへの誘い

 夏休みはもう終盤だ。

文芸部には相変わらず顔を出している。

活動日の午前に学校へ行って、部室で過ごす。暑さは衰えることを知らないが、学校では冷房が完備されているので、なかなかに快適な環境だ。

小説や短編を読んで、たまに雑談をする。とても充実した時間を過ごすことができたのではないか。


大会は秋なので、締切はもう少し先だ。

大会用の作品はまだ書き始めていないので、いずれ着手しなければならないな。


部活について振り返っていると、着信音が鳴った。

スマホを確認すると、相手はナノハか。少し期間が空いてしまったな。

通話ボタンを押して、話しかける。


「よう。調子はどうだ?」


少し間があってから、受話器越しに返事が返ってくる。


「良いよ。最近はイラスト部でコンクール用の絵描いてる」


ナノハの声は思ったよりも軽やかだ。


「ほう。うまくいってるか?」


イラスト部は夏が忙しいらしい。

コンクールに出す一枚を、この時期に仕上げる必要があるとかで、毎日部室に籠っていると聞いた。


「いや、下書きが全然まとまらなくてさ」


珍しく、弱音っぽい声。


「悩んでる?」

「うん。でも、大丈夫」


その一言で、少し安心する。

少なくとも、投げ出したいわけじゃないらしい。


しばらく雑談をして、文芸部の話をすると、


「和人は、文芸部行ってるの?」


と、ナノハが言った。


「ああ、週二でな。部活っていうか息抜きだな」

「それ、いいね」


そのあと、少し沈黙が落ちた。

通話が切れたわけじゃない。

ナノハが何か考えているときの間だと、なんとなく分かる。


スマホを耳に当てたまま、ベッドに仰向けになる。

扇風機の音だけが部屋に響く。


――七月のライブのこと。

それに、Mioの引退。


ナノハの中ではいろいろ思考が働いているだろうが、俺はその一端しか聞いていない。


やがて、ナノハが口を開いた。


「ねえ」


少し間を置いて、続けて言う。


「九月のMioの引退ライブだけど、一緒に行かない?」


何かのイベントに誘われるのは、これで二回目だ。

今回は、前回とは誘った理由は違うのだろうか。


Mioの引退ライブ。これを逃したら、もう二度と彼女の歌を生で聴けない。

返事は考えるまでもない。


「もちろん」


俺は即答した。それから、現実的なことが頭をよぎる。


「ってか、よくチケット取れたな?」


あの人の卒業ライブだ。

一般なら、まず無理だろう。

少し間があって、返事が返ってくる。


「うん。ファンクラブ先行予約で」


なるほど、と納得する。

ナノハは、Mioのファンクラブ会員か。おそらく、最近入ったというわけではないだろう。

これまでのやりとりで、彼女がMioの古参ファンである可能性が高い。


「それでも、激戦じゃなかったか?」

「まあね」


あっさりした声。卒業ライブともなると、先行予約しようとしても倍率が高くて取れない可能性はあるのではないか。


「チケットはデフォルトで2人分なのか?」


そう言うと、少し間があってから、


「いや。シングルだけど、私は限定会員だから一枚は確定で手に入る」

「ほう」


ファンクラブの中でも限定会員とは、やるではないか。

俺も最押しであるKiraraの限定会員を目指してはいるが、相関になれるものではない。


「で、どうせならカズトも一緒にと思って、もう一枚、横並びの席で応募したら、偶然当たったから」

「そうか」


非常にありがたい。断る理由など皆無だ。


「じゃあ、ぜひ同伴させてもらおう」

「うん、そうして」


短い返事。


Mioは人気の歌手だ。

普通なら、チケットを取るだけで一苦労する。


それを2人で取ることができたのは、とても幸運だ。ナノハの思いが通じたのだろう。


このライブは、きっと特別な一日になる。


ナノハにとって。

そして、俺にとっても、きっと。

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