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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
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39/117

夏の自由研究その1 概要説明

 6月27日の月曜日。

キンコンと五時間目終了のチャイムが鳴った。10分の小休憩に入り、俺は教科書やノートを机の引き出しにしまった。


次の授業はLHR(ラージホームルーム)。総合的な学習の時間というやつで、何かの話し合いをしたり偉い人のお話を聞いたりと、頭を使わない楽な時間がやってくる。

朝のホームルームで一ノ瀬先生から講義場所は第一・第二講義室だと知らされているので、教室移動をしなければならない。

講義室は一階の隅の方にあるため、かなり距離がある。移動だけで数分かかるので、あまり悠長にしてはいられないだろう。


用意すべきものは筆記用具とメモ帳のみでいいらしいので、机の上にそれらを準備する。

すると前の席のライトが立ち上がり振り返った。


「次移動教室だろ?」

「うん」

「講義室の場所わかるか?」

「いや、ちょっと怪しい……」


行ったことはないため、一人で迷わず行けるかと言われれば微妙なところだろう。

一人ならマップを頼っていくのだが、やはりここはライトと一緒に行動するのが得策だろう。


「一年全員だから、流れに付いていけば迷うことはないだろ」


俺は「そうだね」と返事をして立ち上がる。ライトに続いて教室を後にする。

廊下に出ると、多くの生徒たちが会話しながら階段へ向かっている。

おそらく皆、目的地は同じだろう。


「ライト」


D組とE組の向かいにある階段に差し掛かったところで、ライトを呼ぶ声がする。見ると奏が男子二人と並んで近づいてきた。


「おう。お前らか」


ライトは奏とその後ろにいる男子二人に声をかける。どうやら知り合いらしい。


「やあ和人」


奏が俺に気づいたので、俺は「うっす」と挨拶する。


「紹介するよ。こっちは黒井(くろい)でこっちは白鳥(しらとり)。どっちもバスケ部で僕と同じD組だよ」


どちらもバスケ部にふさわしく、長身で体格が良い。顔は俺と同じで決して不細工ではないがイケメンでもなく、普通の部類に入る。

日焼けしていて色黒なのが黒井で、色白なのが白鳥だ。それぞれ「どうも」「うっす」と挨拶してくる。


「こっちはB組の古暮。彼は……何部だと思う?」


奏が唐突に二人に質問する。


「……サッカー部か?」


黒井が答えるが、残念ながら外れだ。中学時代なら当たりだった。


「ううん。答えは文芸部」


奏が首を振って正解を述べる。すると二人は驚いたような顔をしながらこちらを見てきた。


「俺もサッカー部かなと思った」


白鳥の感想に俺は苦笑を浮かべる。


「ライトと会ったときも同じこと言われた」


ライトに向かってそう言うと、彼は「和人はサッカー少年の雰囲気が全身から溢れ出てるからな」と応える。 それを聞いた他の三人が頷いた。

いやいや、そんなオーラが出ている自覚はない。首を捻らざるを得ない。


「歩きながら話そう」


奏がそう言って階段を下りる。黒井と白鳥、そして俺とライトが続く。


ふと周りを見ると、女子たちがこちらに熱視線を送っている。

まったく相変わらずで、ライトと奏の人気はものすごいようだ。

今回は黒井と白鳥というガタイの良い連中が一緒なので、なんというかこのグループの総合戦闘力は学校随一かもしれない。


そういえば黒井や白鳥は女子からの熱い視線には慣れているのかと様子をうかがうと、全然気にしていないようだ。部活仲間になって2、3か月経つので、もう慣れたということなのだろうか。


一応ライトとは付き合いが数ヶ月ある俺だが、度量は彼らほどまでは達していない。

若干の居心地の悪さを感じながらも、見えを張って表には出さずについていく。


「てかLHRって、結局何やるん?」


黒井が話を振ると、ライトが応える。


「朝、担任の先生から説明なかったのか?」

「……そういや何か言ってたような」


黒井がははと笑いながら答える。朝、先生の話を聞き流しているということに親近感が湧いた。


「自由研究をやると言っていたね」


奏が横から教えてくれる。


「何を調べるんだ?」

「それは言ってなかったけど、自由研究だから、自分で決めていいんじゃないかな?」


黒井の問いに、奏が応える。自由研究なんて、なんだか懐かしい響きだ。

小学校の夏休みにやったことがあるが、それを授業でやるというのか。


「他にはなんか言ってたか?」


奏が腕を組んで、少しの後、口を開く。


「毎年の恒例授業と言っていたね」

「メンドそーだな」

「どうだろうな。どれくらいのボリュームなのか」


黒井のぼやきに、ライトが反応する。


「俺あんま調べるの得じゃないんだよな。テキトーに流すとかダメなん?」

「個別で違う研究テーマだったら、サボるのは無理だろうな」


ライトがそう言って、会話が途切れる。


俺は内心でため息をつく。これまでの授業は温かったが、今日からはそうはいかないかもしれない。そう考えるとなんだか億劫になってきた。

研究ということだから、何かしらのテーマについて調べるのだろう。

もし興味のない分野について調べろと言われたなら、それはつまらない授業となるだろう。

この学校のことだから、もしも学校が調査テーマを指定するのなら融通を聞かせるはず。いくつかの候補を提示するなり、抽象的なテーマを出すなりするだろう。

説明を聞かないとわからないので、考えるのはやめにしよう。


一階に降り、中庭の渡り廊下を抜ける。屋内に入り少し歩くと人混みができていた。

どうやら目的の場所についたようだ。


「詰めて座るようにお願いします!」


白髪交じりで眼鏡をかけた壮年の男性が、開け放たれた扉のそばで指示を飛ばしている。彼は1-A担任の倉石(くらいし)先生で、数Iの授業でお世話になっている。


「席の指定はありませんので、来た順に前から座ってください!」


どうやら自由席のようなので、五人固まって座ることができるだろう。


混雑具合は同じ程度だったので、俺たちは近くの第二講義室の列に並ぶ。特に理由はないが、第一講義室は一つ奥の方にあるため、大人数での移動を控えた形となった。

見たところ、第二講義室は相当広い。3人用の長テーブルが3列で十数行ある。

一年生の半分が第二講義室に集まるとなると、120人ほど収容されるということになる。

室内はほぼ満員になりそうな予感がした。


前のドアから教室に入り、教壇にさしかかる。教壇には大きなスクリーンが天井から吊るされてセットされている。画面は真っ暗だ。

俺たちは長テーブルの間を進んでいく。


「ここにしよう」


奏がそう言って真ん中の列に入り、部屋の中心付近の席に座る。黒井と白鳥が続いて座った。

そのすぐ後ろの席にライトが座ったので、俺は続いて隣の席に座る。

まもなく知らない男子生徒が俺の隣に座った。


その後、俺は授業が始まるまでバスケ部4人とたわいない話をして時間を潰す。そしてキンコンと授業開始のチャイムが鳴った。


前を向くと教壇に倉石先生が立っていた。マイクを手に持っている。

端の方には先生が一人と生徒が一人いる。


「それでは授業を始めます」


スピーカーから声が聞こえ、皆が前の席の方から起立していく。俺もそれに倣った。

そして礼をして着席する。


「まずは資料を配ります。テーブルに座る人数分受け取って、後ろに回してください」


そう言うと、前から資料が配られる。後ろに受け渡されていく。

俺はライトから資料を二部受け取り、一部を隣の生徒に渡した。

少し厚みのあるA4冊子のようで、ページをぺらぺらめくってみる。


「皆さん行きわたりましたかね?」


倉石先生が全体に問いかける。

後ろの方の生徒が頷いたのを確認し、「それでは」と始める。

教壇のスクリーンにスライドが表示された。


「これから皆さんには、毎週この時間、月曜日の六時間目を使って、自由研究してもらいます。

テーマは自由です。最大四人のグループを作り、自分たちの調べたいテーマを決めて、調べてもらいます」


最大四人ということはソロでも良いのだろうか。一人でも良いのであれば気楽に研究できるだろう。

もしダメな場合、最低二人で組まなければいけなくなる。リサーチの効率は良くなるだろうが、やり取りをしなければいけないのは手間になる。


「グループは二人以上、四人以下です。一人や五人以上は認められません。

グループの決め方は問いません。友達同士でもいいですし、今まで交流のなかった人を誘って組んでもよいです。人数制限さえ守れば、どんな組み合わせでも大丈夫です。

来週のこの時間が期限です。それまでにグループを作ってください」


資料の二ページ目以降を眺める。

毎年やっているからか、要点がしっかりまとまっていた。

それにしても、グループは一人ではできないのか。一人で適当に済ませるということを防止するためにグループの形を採用しているのだろうか。


「グループを作ったら、代表者とテーマを決めます。

代表者は他のメンバーの進捗状況を確認したり、各種申請などの手続きをしたりと、言ってしまえば管理職のような仕事を任されることになります。

ただ、完全に損な役回りというわけでもありません。役職なしのメンバーに比べて評価が少し高くなります。

そして、グループの他のメンバーが怠慢などで調査や研究を進めない場合、先生に申告することができます。申告された生徒は反省文の提出を求められ、厳しい評価が下されます。場合によってはグループメンバーの変更も認めます」


会社に似た構造だな。怠慢な社員がいれば減給や解雇などの懲戒処分が行われるだろうが、学生の場合は内申点に影響するというわけだ。ついでに言うと他の生徒らの心象が悪くなるのもある。


「グループの代表者を決めたら、残るはテーマです。

それぞれが興味を持っていることを話し合い、一つのテーマを決めてください。

テーマは身近なものから、思想や学術的なものなど、なんでも構いません。

一つの事柄を深堀りするのも良いですし、多くの事柄をまとめて考察する、いわゆるメタ分析をしても良いです」


小学校の自由研究レベルではなく、大学の卒論研究。もしや授業で大学のシミュレーションをやらせるという思惑だろうか。


「代表者とテーマを決めたら、グループメンバーとテーマを代表者の人が申請してください。

今日の授業が終了したら、学校のアプリにグループ申請用のURLを通知します。

リンクを押すと学年名簿がクラスごとに表示されますので、該当するメンバーをチェックし、テーマを入力して申請ください。

テーマは変更可能ですが、代表者については変更不可なのでご注意ください」


資料にも説明があるので、ここらへんの説明は聞き流してよいだろう。グループを決めるとなったときに見直せばよい。


「では、来週のグループ・テーマ決めを含めて、スケジュールの説明をします。資料の最後のページを見てください」


そう言われ、資料を閉じて裏返す。そこにはタイムスケジュールが書かれている。


「今日は1回目の授業になります。自由研究の概要説明をして、最後に昨年の一年生の自由研究の発表があります」


先生は部屋の隅の方に控えている生徒の方をちらりと見る。やはりあの生徒は上級生だったか。


「来週はグループとテーマを決めます。来週の段取りをここで説明します」


先生は一息置いて話す。


「来週は一時間まるまる使ってグループとテーマ決めをします。

グループを決めるとっかかりとして、こちらでざっくりしたテーマをアルファベットで割り振って提示します。A:数学、B:理科、C:スポーツといった感じに」


先生は全体を見ながら説明する。生徒たちが各々頷いている。


「合わせて、アルファベットに応じた区画を用意します。1年A組にAとB、B組にCとDといった感じで。皆さんは興味のあるテーマの区画に向かい、そこで集まった人の中からグループメンバーを見つけてください」


やはり毎年やっているだけあり考えられている。このシステムならば路頭に迷う心配はないだろう。ただ、見知らぬ生徒に話しかけるのは少し勇気がいるかもしれないが…。


「1年A組からF組までの教室をグループ決めの場として使用することを考えています。

グループメンバーが見つかった人は順次ここ、第一・第二講義室に移動してもらい、代表者を決めて、自由研究の打ち合わせをしてください。

もし授業前にグループとテーマが決まっていた場合、最初から講義室で打ち合わせをしてもらって構いません」



事前にグループとテーマを決めても良いということであれば、授業前に考えておいた方が良い。

テーマを決めて、一緒に研究したい人をグループに誘ってみる。そこでダメだったら、授業中に違うメンバーを探すのもありだろう。

あるいはメンバーを決めてしまって、テーマは授業中に考えるのもいいだろう。


「テーマの割り振りなどの詳細は、決まり次第お知らせします。スケジュールの話に戻りますね」


先生が話を戻す。俺は手元の資料に目線を映した。


「7月11日の授業からは各グループで研究を進めていきます。

場所は基本的に自由です。図書館の個室やPC室も有効活用してください。

ただし授業中に学外に出る場合は申請が必要ですので、担任の先生に相談ください」


フィールドワークをやろうと思えばできるということだな。

真面目な生徒がほとんどだから、これを使ってさぼろうとするやつはいないだろう。


「7月は合計で3回授業があります。そして夏休みを挟んで、9月に2回、10月に2回、文化祭の前週に授業が終了する予定です。全部で授業は8回になります」


これは長丁場になるな。夏休みも含めると3か月以上ある。もし7月に研究が進まない場合は夏休みに進めなければならないということになる。


「7月18日に中間報告があります。そして10月10日は研究成果物の提出締め切り日です」


資料のスケジュールを確認すると、7月18日、10月10日はともに祝日となっている。

講義はないが、毎回月曜が成果報告の締め切り時期というのはわかりやすい。


「再来週から毎週の授業の終わりに何に取り組んだか簡単な報告書を提出してもらいますが、中間報告・成果報告では成果物:スライド資料・動画・音声などの媒体を提出してもらいます。

我々教師陣は皆さんの成果物を研究内容によって分類し、それぞれを詳しいものが評価します。例えば、数学や情報・データ分析がテーマであれば、私の専門分野ですので、私が評価することになります」


前編・後編で成果物を提出しなくてはならないとは。これは本格的だな。

提出媒体が限定されていないということは、例えばオリジナル曲やダンスの動画、写真なんかでも良いということだろうか。


「そして7回目、最終回の10月17日は、成果発表会があります。

成果発表会では我々教師が特に優秀だと評価した2グループの研究成果を、皆さんの前で発表して貰います」


2グループ。もし最優秀を取ったなら、一年生全員に自ら公開しなければならないということか。


「以上の11回で授業は終了となりますが、その次の週は文化祭があります。文化祭では全グループの研究成果を一般向けに展示します」


席の周りが少しざわついた。さすがにこれには皆思うところがあるのだろう。

評価してもらう先生以外に成果物の内容が漏れることはないと安心していたが、展示してしまったら知らない人に見られるということになる。あまりに俗なテーマを選んだり、めちゃくちゃ手を抜いたりということができなくなってしまった。


「文化祭で来校者に投票してもらいます。表の獲得数トップ2になった研究は後日、学校総会で全体に発表してもらいます」


なんということだ。もし研究が人気になってしまったら、学年ではなく学校全体に発表しなければならないとは。

もしそうなってしまったら学校中に名を馳せるのはもちろんのこと、学校の雑誌や他のメディアなんかに取り上げられてしまう可能性がある。


俺は小心者であるため腰が引けてしまうが、内申点を高めたかったり目立ちたかったりする生徒にとっては絶好の機会と言えるだろう。


「スケジュールの話は以上になります。続いて、研究テーマの決め方と、研究の進め方についてです。4ページを開いてください」


言われた通りページを開く。手順が簡潔に書かれている。


「研究テーマの決め方はいくつかあります。

自分の興味のあることや、身近なこと。視野を広げて地域や社会からテーマを探すのもありです。

テーマ探しでは情報収集が大事になってきます。

本や雑誌、ニュースやSNS。大学や企業の論文。いろいろなプラットフォームから情報を取集できます。人やAIチャットに聞くのもありです。

独自性を持たせるため、似たような研究や調査を行っている人がいないかチェックし、かぶらないように研究内容を調整するのも大事です」


情報の探し方は様々あるようだ。研究にあったツールを見つけるしかないだろう。


「次に研究の進め方です。

まずは調査・研究に充てる時間を決めます。

費用が掛かる場合は見積もりを立て、人や場所の予約が必要であれば、できるだけ早めに申請してください。

学校のアプリにタスク管理機能があるので、必要に応じて使用してください。使い方はマニュアルのpdfと動画が各種マニュアル置き場にありますので、そちらをご確認ください。

学外での調査は自己責任、自己負担でお願いします。ただし学校の許可が必要や、判断を仰ぎたい場合などは適宜相談ください」


学外調査をする場合は、雑務をすべて自分たちでやらなければいけないということか。

しかも経費は自己負担ときた。ちょっとケチではないか。

以前は負担してくれたが、不当な経費を申請する輩がいて出さなくなったとかだろうか。後で霞先輩に話を聞いてみるか。


「自由研究で役立ちそうなサイトのURLの一覧を載せています。参考にしてください」


次のページを見ると、まるまる使ってURLが貼られていた。後で見ておかなくては。


「最後に、評価方法について話します。評価項目はおおまかに三つ。

一つ目はプロセス。テーマをどのように研究していったか。成果を得るまでの過程について評価します。こちらは毎週のレポートを参考に評価します。

二つ目は成果。研究をしてどんな結果や知見、成果物が得られたのか。こちらは中間報告と成果報告および最終レポートで評価します。

三つめは投票結果による評価。成果報告では学年全体、文化祭では来校者で投票を行い、その結果を参考に評価します」


もしも成果が芳しくなかったとしても、プロセスを評価してもらえるのであれば、0点ということにはならないか。とりあえず無難に平均点が取れればよいだろう。


「これにて自由研究についての概要説明を終わります。続いて、昨年の研究発表に移ります。準備しますので少々お待ちください」


先生がそう告げたので、俺はふうと息を吐き、楽な姿勢になった。

周りも集中が切れ、隣の人とひそひそ話を始める。

隣を見ると、ライトは机に腕を預けている。


「思ってたより大がかりだったね」

「だな」

「ライトは何をテーマにするの?」

「これから決める。そっちは?」

「同じく、これから考える」


そんな風にささやき声で会話していると、「あ、あ」とスピーカーから声がした。

前の方を見ると、控えていた生徒が教壇に立ち、スクリーンにスライドを用意していた。


「準備できましたので、発表に入ります。お願いします」


先生が渡したマイクを生徒が受け取った。


「皆さんこんにちは。私は2年A組の多久(たく)(いつき)です。『愛野町・愛華町交通アプリの開発』という題で発表します」


多久と名乗った上級生は、明るくはきはきした声で発表する。

内容としては、お題の通りで交通アプリを開発したという話だ。

ここ愛野町と隣の愛華町に限定されるが、電車・バス・タクシー・自動運転車・レンタルサイクル・レンタカーなど交通手段を網羅しており、出発地点と到着地点を入力したら、使える交通手段が出てくるというもの。

グーグルマップにかなり近いが、地域限定であるため出てくる情報の精度は高い。


アプリ作成に至るまでの経緯から、どのようにアプリ作成を進めていったか。

予算はどのくらいかかった、協力者をどう募ったか、技術面で苦労した点など、具体的に話していた。


研究というから学術系で堅苦しい理論が出てくると想像していたが、全然そんなことはなかった。アプリ作成の一連の工程をわかりやすくまとめているため、十分に理解できる内容だった。


「発表を終わります。ありがとうございました」


多久さんが礼をする。周りから自然と拍手が起こる。俺も称賛すべく手を叩いた。

まさかアプリを開発する猛者がいるとは思わなかった。技術面の苦労話はあまりよくわからなかったが、AIや協力者をうまく使って解決したという。もはやさすがとしか言いようがない。

今後の展望として、もっとアプリを拡張していくと話していた。愛野市全域の交通情報を網羅するのが目標とのこと。そうなれば観光などの地域活性化で役立つだろうから、是非とも頑張ってほしいところだ。


「次は第一講義室から遠隔で発表になります」


先生はそう言って部屋を出て、すぐに戻ってきて隅に控えた。


「こんにちは。2年D組の八幡(やわた)みどりです。『一週間分のヘルシー食事メニューの考案』と題して発表します」


スピーカーから女子の声が聞こえ、発表が始まった。


経緯として、家庭科部の女子四人でアレンジ料理を作っていたが、独自性を持たせるために一週間分に増量したというもの。


最初は普通の料理に手を加え、見た目や味、そして栄養価を高めようと奮闘した。

試作していく中でテーマを変え、一日分の料理を作ることにした。

普段おなじみの料理の栄養素を分析し、一般的な食事で不足しがちなものをピックアップする。

その情報もとに、いろいろな組み合わせやアレンジを生み出していき、いつしか一週間分を考えていた。

一週間分の料理を作るとなれば必然、どうすれば効率よく美味しいものが作れるかを考えることにとになる。余り物を使ったシンプルな料理のアイデアも沢山生み出すことができた。

今後の展望として、より安く、健康的で美味しいものを作っていくらしい。

資料の隅の方にURLがあり、実際に作成した一週間分のメニューが見れるとのことだ。


「以上で発表を終わります。ありがとうございました」


声が止み、スクリーンが暗転する。俺は率先して手を叩き、拍手の波を起こした。

料理を嗜む身として、このテーマは実にわかりやすくなじみ深い研究内容だった。


「はい、お二人ともありがとうございました。それではーー」


先生が引き継いで説明するのを傍目に、早速メニューのURLを開く。

日曜から土曜までの一週間、朝昼晩と三食のメニューが用意されていた。

栄養情報もしっかり記載されており、三食合わせることによりすべての栄養を取り入れることができるメニューのようだ。

もちろん作り方も書いてある。作る際のコツやポイントなども記載されているため、非常に親切である。

これならば比較的簡単に試すことができるだろう。明里にも共有して、明日から取り入れてみるか。


それにしても、学校の授業でこんなに有益な情報に出会えるとは思わなかった。

ぜひ家庭科部には感謝したいところだ。この機会に料理仲間を増やすというのも良いかもしれない。

うーむ…しかし、何の接点もない中いきなり家庭科部を訪れる勇気は出ない。

そうだ、授業が終わったら八幡先輩に話しかけてみよう。


「質問や不明点等ありましたら、各クラス担任の先生に聞いてください。今日はこれで終わりにします」


起立・礼の号令がかかり、授業終了となる。生徒たちが無秩序に部屋を退出していく。

資料と筆記用具を持ち、タイミングを見計らって部屋を出る。

生徒であふれる廊下に出て、ライトに声をかける。


「俺、ちょっと用事あるから先に行ってて」


ライトは軽く頭を捻ったが、「わかった」と返事をしてバスケ部の皆と歩いて行った。

それを見送り、廊下の端の方に移動する。つま先立ちをして目的の人を探す。

周りにはいないようだ。まだ第一講義室に残っている可能性が高い。

流れに逆らって、第一講義室の前の扉までやってくる。パッと見で上級生を探す。

部屋の中で、先生と会話している生徒を発見する。中ズックのサイドラインの色は緑なので、2年生と判別できた。

ちょうど会話が途切れたようなので、俺は他の生徒を避けながら近づく。

上級生に話しかけるというのは結構緊張するが、料理の腕を上げるため、ためらってはいられない。


「八幡先輩、ちょっといいですか?」


声を掛けると、先輩は「はい?」とこちらを向いた。俺は緊張すると早口になる傾向があるため、丁寧かつゆっくり話すことを意識して口を開いた。


「俺、1年B組の古暮(こぐれ)和人(かずと)といいます。先輩のさっきの発表がとても興味深くて、詳しくお話を聞きたいなと思い、声をかけさせてもらいました」


自己紹介した俺を、先輩が興味深そうな目で見る。


「そうなんだね。君は普段料理するのかな?」

「はい。毎日自炊してます」

「えっ、すごい! なら料理は得意なんだね?」


先輩は感心したように頷き、にこりと笑った。俺は「はい!」と自信を持って返事をして続ける。


「小学校のとき母から料理を教わって、それから自炊するようになったんですが、栄養素は大雑把にしか考えてなくて。先輩がちゃんと分析していろいろな料理を考案しているのが、かっこいいと思いました」

「そっか。嬉しいな」

「あの、もしよかったら料理仲間になってくれませんか?」


俺は気持ち腰を低くして問いかける。料理仲間というのはリアルでそうそう出会えるものではない。

先輩は唐突な誘いに戸惑ってしまうだろうが、人生を豊かにする人脈を増やせるかもしれないこの機会を逃す手はないのだ。


「うーん、そうだね……」


先輩はあごに人差し指を当てて考えるそぶりを見せる。やはり即決はしてもらえないか。


「君の料理の腕前を見せてもらおうかな」

「えっと?」

「場所は家庭科室。食材はこっちで用意しておいてお題を出すから、その場で作ってもらって、その結果を見て仲間になるか決めるっていうのでどうかな?」

「あっ、はい。いいですよ」


先輩の言葉に大きく返事をする。


「すごい自信ありって感じだね?」

「はは。人並みにはありますけど、あんまりマイナーな料理だと、ちょっと厳しいかもしれないです」

「ふふ。そこは安心して。定番の料理にするから」

「そうですか」


俺がふっと安堵の声を漏らすと、先輩はにこりと笑った。


「古暮くんは何の部活に入ってる?」

「文芸部です」

「ふーん、そっか。放課後、空いている曜日はあるかな?」

「火・水・金は空いてます」


月・木は文芸部の部活があるので、それ以外の日は基本空いている。


「そっか。じゃあ来週の火曜日、家庭科室に来てもらえるかな?」

「わかりました」


いきなり明日来いと言わないのは、先輩の配慮だろうか。俺はそう言われたとしても対処できただろうけど。そうだ、連絡先を聞いて置いたほうがいいか。


「あの、一応連絡先を教えてもらえますか? もしかしたら都合がつかなくなるかもしれないので」

「そうだね。ラインでいいかな?」

「はい」


俺はポケットからスマホを取り出し、ラインのアプリを起動する。

友達登録用のQRコードを表示し、先輩に画面を見せる。


「名前は…フルネームだね?」

「はい、そうです」

「登録っと。適当にスタンプ送るね」

「はい」


アカウント名『みどり』とのトークルームにて、可愛げのあるシロクマが「よろしく!」と文字を掲げているスタンプが送られてきた。


「あ、そうだ! 来週の持ち物だけど、エプロンと三角巾を持ってきてね」

「はい。わかりました」


家庭科室ならば料理具は揃っているだろう。マイ包丁を持っていく必要はないか。


「それじゃー、また来週」

「はい!」


バイバイと小振りに手を振る先輩を見送り、俺もその場を後にした。



 その日の夜。

俺は今日の六時間目の授業内容ーー自由研究について思考を巡らせていた。

どんな研究テーマにしたものかと授業後から度々考えていたのだが、勉強を始めようとノートを開いた瞬間にピンとくるものがあった。最近の関心事を思い出したのだ。

期末テストの一週間前の帰り道、日代さんとの会話を思い出す。


============================


「勉強の仕方は習わなかったから、どうすればいいか……」

「うーん。今回は間に合わないけど、試験が終わったら一度勉強方法を見直してみるのはアリだね」

「うん、そうだね」

「じゃあさ、試験が終わったあとでいいから、お互いそれぞれで効率の良い勉強法を調べて、後で情報共有するのはどうかな?」

「いいアイデアだね。そうしようか」

「うん。よろしくね」


============================


あのときは苦手な教科の話していた流れで、勉強方法についての話をした。

日代さんもどうやら効率の良い勉強方法というのは知らなかったようで、何か良い方法があれば共有してほしいと頼まれた。

それから俺達は両手で数えるくらいではあるが、ネットなどで見つけた勉強法にういて共有し意見交換をしていた。見つけた方法を試してみて、普段の勉強に取り入れるようになったものもいくつかある。

その経験を踏まえたうえで考えてみると、学習方法や学習環境というのは、勉強が仕事の俺達学生にとって非常に大切なことではないかと感じる。

そして同時に、上手いやり方や良い環境の作り方を知っているのといないのとでは、大きな差がつくのではないかということも頭に浮かんだ。


他に研究テーマも思い浮かばないし、高校生の研究テーマとしてふさわしいと思う。


北高校は優秀な生徒が集まっているから、勉強法は各々が自然と開拓している可能性は高い。中には万人に適用できる方法があるかもしれない。それらの情報をまとめて皆に共有することができれば、皆の学習が洗練されて学年の成績が上がるだろうし、革新的な勉強法が生み出されるなんてこともあるかもしれない。理想かもしれないが、そうなったら最高だ。


よし、テーマは決まった。


あと問題になるのはグループメンバーだろう。授業で説明されたとおり、2-4人でグループを作らなくてはならない。

つまり俺だけで研究を進めることはできず、少なくともあと一人、生徒を誘う必要があるということだ。

学習方法と学習環境なんていう、一見するとつまらなそうなテーマを研究することに賛同してくれる生徒は何人いるのだろうか。


一緒に研究してくれる可能性が一番高いのは日代さんといえるが、果たして参加してくれるだろうか。

もし彼女に断られてしまったら、他をあたらなくてはならないが、片っ端からあたるとしても見つけられるかどうかは怪しいところだ。

ここはいくら悩んでも仕方ない。早めにコンタクトを取ったほうが良いだろう。


俺はスマホを起動し、日代さんとのトーク画面を開く。

少し文章を考えて、送信ボタンを押した。


「日代さん、自由研究のテーマってもう決まってたりする?」


少し待つと既読が付いてすぐに返事があった。


「ううん。まだだよ。古暮くんは?」

「ついさっき決まったよ」

「ほんと? どんな内容か聞いてもいい?」


俺は「うん」と返事をしてから一呼吸置いて、チャットを飛ばす。


「テーマは学習方法と学習環境で行こうと思ってる」


少し間が空いて、メッセージが返ってくる。


「学習方法ってもしかして、期末テストの以降のやりとりの延長ってことかな…?」

「そうそう。まさしく日代さんとの会話から着想を得まして(^_^;)」

「そっかー。古暮くんナイスじゃん」

「いやいや。もとは日代さんが提案してくれたんだから、日代さんの方がナイスだよ」

「それもそっか。えへへ、ありがとう」

「本当に感謝してます」


日代さんにそう感謝し、続けてメッセージを打つ。本題はここからだ。


「あのさ、よかったらなんだけど一緒に研究してくれないかな? これまで何回かやりとりしたのを、もっと広げて調査したいなと考えてるんだけど」


内心ドキドキしながら返事を待つ。すぐに既読は付いたので、今スマホを触っているということだろう。

もし断られてしまうと、次の授業で冒険しなくてはならない可能性が極めて高いため、なんとか了承してもらいたいところだ。もし無報酬が気に食わないというのであれば、食事を奢るなどの接待をするの一つの手だろう。まあ日代さんはそんな嫌な性格ではないだろうけど。


「えっと、ごめん。何人か他の子からも声かけられてて」


日代さんは人気者なだけはあるようで、お声がかかるのは当然か。もしかしたら即決してもらえるのではと期待していたのだが、この感じは断られるやつだ……。


「悪いけど少し考える時間をもらえないかな? 古暮くんのテーマもめちゃ興味あるんだけど、他のテーマにも惹かれるものがあるから、どれが一番やりたいかをちゃんと決めたいんだ」


どうやら首一つ繋がったようだ。日代さんはちゃんと考えを述べてくれた。

それならば不満を言ったり催促したりせず、真摯に気長に待つことにする。


「わかった。期待して待ってるよ!」


マイナーなテーマだからメンバーは集まらないだろうな……と弱音を吐いたりはしない。

哀れに思わせて彼女の同情を誘うという手もなくはないだろうが、それは情けないのでやらない方向で。


「ありがとう。水曜までには返事するね」


回答期限を言ってくれるとは、さすが気配りが上手な日代さん。


「うん。じゃあまた」

「またね~」


挨拶を交わし会話を終える。俺はスマホの電源を切った。


とりあえず、他の知り合いにも声をかけてみるとする。

日代さん以外に研究テーマのことを伝えるとなると、より詳しく話さなければならないため、どんな研究内容かをあらかじめ具体化しておく必要があるだろう。


椅子に座って腕を組み、研究方針について再度思考を巡らせることにした。

意外なところに新たな出会いはあるものです。

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