閑話 文学少年の過去
「お前が新入りか。まあ、レギュラー目指して頑張れや」
初めての部集会が終わると、三年生の先輩が力強く俺の肩を叩いて鼓舞してくれた。
「はいっ!」
大きい声で返事をし、頭を軽く下げる
今日からサッカー部の一員だ。うまくなれるよう練習を頑張ろう。
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「うおおおおい!!!! オメーだよ!!! オメーがミスったんだよ!」
「す、すみませんでした」
「チッ。マジ使っえねーなあぁぁぁ!!!」
「すみません……」
「謝って済むことじゃねーんだよ!!! やってらんねーわ」
先輩たちは身につけていたビブスを投げ捨て、部室に戻っていった。
俺が入部してから三ヶ月近く経った頃から、先輩達が俺に対して辛辣になった。
俺はサッカー初心者だったので、入部してすぐは先輩たちの練習に混ざることはなかった。
そして、一年生が入部してからニヶ月程経った頃に中総体があり、それが終わると同時に三年の先輩たちが部活を引退した。
主力の大部分が抜けて、全体としても人数がかなり減ってしまったので、初心者の俺もついに先輩たちの練習に加わることができた。
やっと本格的に練習できると初めは喜んだものだ。
しかしその期待や喜びはすぐに消え失せた。
なぜなら、他の一年生は全員経験者だったのだ。
周りの連中が先輩たちの練習に難なくついていくことができていたが、俺は体力がなく、毎日のように途中で倒れていた。
仕方のないことだ。
小学校の休み時間にボールを蹴って遊ぶ程度では、体力・技術・精神どれもが、部内の誰よりも不足していた。
練習中にしでかしたミスを、最初のうちは謝れば済んでいたが、初歩的なミスが多く、同じミスを何度も繰り返したことが度々あり、だんだん部内が険悪な雰囲気になっていった。
そして彼らは、俺が受け止められないような無茶なパスや、ボールを持っていないのにタックルしてくるなど、故意に嫌がらせをするようになった。
加えて、ミスする度に「ザコ」や「消えろ」などという暴言を吐いてくるのだ。簡単な言葉だけど、いや簡単な言葉だからこそ、俺は心底傷ついた。
日を経るつれ、部活中の嫌がらせは卑劣なものに変わっていった。
顧問やコーチに見つからないような場面ばかり狙ってやってくるものだから、極めて卑劣だった。
証拠がなく、何も言い返せない。
大っぴらなに嫌がらせをされることはなくなったが、部内の雰囲気は地獄以外の何物でもない。
当然、部活に行くのが嫌になり、放課後になると逃げ出したい思いで心が沈む。
けれど、俺は部活をやり続けた。
嫌がらせをされるのは、俺が下手くそなせいだ。
人一倍努力して、あいつらが何も文句を言えなくなるくらいの腕前になってやる!!!
俺は胸の中に積もり積もった悲しみや苦しみ、怒りを原動力にかえて、日々の練習に一層励むことにした。
本気で何かをしようと思ったのはこれが初めてだった。
部活終了後もグラウンドに残り、ボールを蹴っては走り、蹴っては走りの日々。
ドリブルやパス、トラップにシュート、全てものにして、あいつらを見返してやるんだ!!!
雨の日だろうが何だろうが、毎日ジョギングに出かけ、帰って来ては筋トレ、体幹トレーニング。
誰も追いつけないくらい足が速くなればいい。
誰が体をぶつけてこようとそれを跳ね返せればいい。
ひたすら走り、壁打ちをし、リフティングをした。
どんなに辛くてもめげず、逃げず、諦めなかった。
日々鍛錬を積んでいった。
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俺は三年になった。
先輩達が引退してからもう半年以上過ぎた。
結局先輩たちは部を引退するまで、誰一人俺の実力を認めてくれなかった。一年とそこらの努力では、先輩達に追いつけなかったということだ。
だが俺は、もうそのことは気にしなくなった。あれから大きく成長し、同級生達に実力を認められてもらえたからだ。
「お前、よく部活辞めなかったよな、あんだけ先輩達に嫌がらせされてたのに」
副部長の悠人が俺に言った。
「ああ、まあな」
「あの時助けてやれなくてごめんな」
それは仕方ない。歯向かえばすぐ手を出してくるような、やけに好戦的な連中だったから。きっと逆の立場なら、俺も何もせずに傍観していただけだろうから。
「もういいんだ。今となっちゃ、あれもいい思い出だ」
あの時の嫌がらせがなければ、死に物狂いで練習することもなく、まして俺がここまで上達することはなかったのだろう。
「……お前、ほんとすげーよ。素人だって最初は舐めてたけど、今はサッカー部で一番上手いだろ」
「いや、俺はまだまだだ」
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中学最後の中総体、県大会の準決勝。
相手は強敵。全国大会常連校だ。
試合は後半ロスタイムに入っていた。
「和人さん!」
「ああ」
俺は後輩の海斗からのパスを左足で受けた。
左斜めにドリブルをして、相手のボランチをかわしながら、逆サイドに展開する。
「悠人!」
サイドハーフの悠人にパスを出した。彼の走る先を予測してボールを蹴る。上手くパスが通った。
悠人は相手のサイドバックをフェイントでかわし、ゴールラインギリギリのところでセンタリングをした。
速度を落とさずに走っていた俺は、ゴール前で高くジャンプした。フォワードをカバーしていた相手のセンターバックの選手の一人が、俺に負けじと競り合ってきた。
「ふっ!」
「おりゃ!」
競り合いの結果、勝ったのは俺だ。頭上のボールを勢いよくヘディングした。
ドンッ!!
ベクトルが変わったボールは、ゴールのサイドネットめがけて飛んでいく。そして、シャッとネットが擦れた。
ピッピッピーーー!
試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「ナイスーーー!」
アシストの悠人が俺の元へ走って来た。
「か、勝った!」
「やったな、和人!」
俺を悠人とハイタッチをして、ハーフウェイラインに並んだ。
「「「ありがとうございましたっ!!!」」」
挨拶をした後、俺たちは順番に相手の各選手たちと軽く握手と挨拶を交わす。そして次に審判の人たちとも握手をする。
その後、相手のベンチの前まで行き、同じように並んで一礼する。そして最後、自分たちのベンチと観客に一礼をして、試合が終了した。
自分のゴールで、強豪校を破ったのだ。この光景は一生忘れない。
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「部長。……俺たち、もっと強くなります。そして来年は絶対に全国行きます。だから……今まで本当にありがとうございました!」
次期部長の武が、泣きそうになりながらも感謝の言葉を述べる。
「ああ。俺たちが果たせなかった全国、次こそは成し遂げてくれ。サッカー部をよろしく頼む」
「「「はいっ!!!」」」
そして俺は後輩に思いを託し、部を引退した。
未練はない。初心者だった俺だが、頑張ってここまで来ることができたのだから。
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ピピピピ!
背伸びをしてカーテンを開いた。昨日はよく眠れた。
着替えをしてリビングに向かった。
「明里、おはよう」
「あ、お兄さん。おはようございます」
「なんか昨日、昔の夢見たわ」
「へえ、何の夢ですか?」
「中学時代のこと。サッカー部の」
「ああ。それで、どういう内容だったんですか?」
「えっとな……」
これからもよろしくお願いします。




