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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
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28/117

文学少年の暇つぶし2

 6月11日。土曜日の昼。

机の上には、ノートと問題集。

窓から入る光がやけに眩しくて、集中しようとするほど意識が散っていく。


「休憩」


シャーペンを置いて、背伸びをする。

午前中に思ったより捗ったが、午後は気が緩んでしまう。


息抜きのつもりでスマホを手に取る。

通知は来て――ない。最近は勉強ばかりで、LINEを使う機会は極端に少なくなっていた。

一番最近チャットしたのは……ナノハか。

先週勇気を持って電話してみたが、結構うまくいったよな。


彼女は今何をしているだろう。またバンドの練習だろうか。

正午近いし、昼飯を食べている可能性が高いか。


メッセージを送るか少しだけ迷ってから、俺は通話ボタンを押した。電凸というやつだ。


コール音が一度、二度。


『もしもし?』


明るい声。

前回より、ためらいがない。


「もしもし。今、大丈夫?」

『うん。ちょうどお昼食べ終わったとこ』


話し声の奥は無音だ。家だろうか。


「俺は勉強の休憩中」

『そっか。和人は宿題貯めるタイプじゃないんだね』

「そうだな。計画的にできてる」

「さすが。北高校の生徒は違うね」


北高校にしっかりものが多いのは確かだが、全員が当てはまるかと言えば違うのではないか。

俺だってときどきは溜め込んでしまうことはある。ラノベや書籍の新刊が出た時は特にそうだ。


「ナノハは今日も練習?」

『今日はオフ。明日から詰め込み』

「部活終わりに?」

『うん』


部活動の後にバンドの練習とは、なかなか大変だ。

リードギターのリオさんが厳しい人っぽいから、毎日練習やっている可能性があるな。

それにしても、俺の予想では部活動とバンド活動が同じだろうと思っていたが、どうやら違うらしい。

ではナノハは何の部活動に入っているのか。


「部活動は何やってるの?」

『イラスト部だよ』


ほう、これは意外だ。彼女のことだから、作詞作曲とか、とにかく音楽関連だろうなと思っていた。


「アニメとか漫画とか書いたり?」

『うん。イラスト全般だから手広くやってる』

「へー、すごい」


ということは、自分でMVが作れるということで、歌手デビューできてしまうな。


「どこかのコンクールに作品を応募したりするの?」

『うん。いずれね』

「そっか。じゃあ、応募作品をこっそり見せてよ」

『やだよ。恥ずかしいじゃん』


速攻で拒否されてしまった。ならば、自分のも見せればおあいこか。


「じゃあ、俺の書いた作品も見せるから」

「え? 和人もイラスト描くの?」

「いや、俺は文芸部だから、詩とか小説とか」

『そうなんだ! 意外! なんかスポーツ……サッカーとかやってそうなイメージだったけど』

「おう、正解。中学ではサッカー部でした」


ナノハが「やっぱり」と応える。なかなか勘が鋭いじゃないか。


「ひとまずそれは置いといて、俺の提案はどうだろう?」

『うーん……まあ、お互い見せ合うなら、いいよ』

「よし。じゃあコンクール応募したら教えてよ」

『うん』


話が途切れる。次の話題に行こう。


「そういえばさ」

『なに?』

「前に影響受けたアーティストの話してくれたじゃん。それ関連なんだけど、ナノハの推しってKiraraとMiraizだよね?」


少し間が空くが、すぐに返事が返ってくる。


『Kiraraは合ってるけど、Miraizは違う』


「ほう。では?」

『Mioって知ってる?』


聞いたことのない名前だった。

俺の中で、自然と「調べてない領域」に分類される。


「Mio……?」

『あ、知らない?』

「初めて聞いた」

『Mioはね、水色がイメージカラーの歌手でYouTuberで』


声が少し弾む。

好きなものを語る前のトーンだ。


『音楽ライブも結構出てて、ステージだと、めちゃくちゃ堂々としてる』

「堂々?」

『うん。「ついてきて!」って感じ』


その一言で、なんとなく像が浮かぶ。


『煽りも上手だし、MCのテンポもいいし』


オールマイティーに何でもこなせるタイプか。


『でも自信満々っていうより、努力型なんだよね』

「へえ」


『楽しくなりたい時はKiraraを聴くし、自信出したい時はMio』


その区別の仕方が、妙にしっくり来た。


「太陽が二種類ある感じだな」

『……なにそれ』

「Kiraraは、一緒に笑う太陽」

『うん』

「Mioは、前に立つ太陽。背中押すタイプ」


一拍。


『カズト、的確!』


思わず笑ってしまう。


「文芸部だからかな」

『やるじゃん』


そう言ってクスリと笑い、ナノハの声が落ち着く。


『最近、練習前とか、Mioばっかり聴いてるんだよね』

「へえ。どうして?」


少しだけ、間。


『前向かないと、って思うから』

「無理してはいない?」

『うーん。無理ではないけど』


歯切れが少し悪い。


『多分だけど、他のメンバーと目指してる景色が違う気がする』

「はあ。方向性の違いってやつか?」

『……うん』


昼の静けさの中で、その一言がやけに重く響く。


「ナノハは、どこを向きたい?」

『……迷ってる』


正直な答えだった。


「わからないなら、今はそれでいいんじゃない?」

『そうかな?』

「少なくとも、悩んでる時点で止まってはいない」


電話越しに、息を吸う音。


『カズトってさ』

「ん?」

『ちゃんと、考えて話してくれるよね』

「気まぐれだ」

『そう?』


しばらく、穏やかな沈黙。


『そろそろ、勉強戻らないとだよね』

「うん。いい休憩になった」

『それはよかった』

「今度、Mioの曲も聴いてみるよ」

『ほんと? 絶対好きだと思う。Kiraraとかなり曲のスタイルは似てるから』


その言葉に、なぜか確信を感じた。


『じゃあ、またね』

「うん、また」


通話が切れる。


スマホを机に置いて、窓の外を見る。

昼の光はまだ強い。


問題集に視線を戻しながら、頭の片隅で思う。


――前に立つ太陽、か。


ナノハが今、そっちを必要としている理由。

それが、少しだけ見えた気がした。


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