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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
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23/117

文学少年の暇つぶし1

  6月5日の日曜日。夕方。

珍しく週末課題が少なめだったため、宿題を早々に終わらせることができた。

自室でミステリーものを読もうとしたが、思いの外文字が頭に入ってこない。


机に置いていたスマホの画面が光る。ラインの通知のようだ。

俺はスマホを操作し、ラインを開く。

ネットスーパーのクーポン配布ーー知人からのチャットかと期待したが、ハズレだ。


フレンド一覧の画面を適当に眺める。そこで一つのアイコンが目に入った。

最近追加された、柔らかい雰囲気のアニメ風イラスト。ナノハのアイコンだ。


そういえば、彼女との直近のやり取りから、数日経っているな。


またメッセージを送ろうとしたところで、ふと電話のマークに目が行った。


ライン通話は家族としかやった覚えがない。花音とは何度も話しているが、彼女は家族扱いだ。

知り合って間もない相手といったら、皆無と言えるのではないか。


文章だけじゃ伝わらないことがあるからな。何事も経験ということで、いっちょ試してみるか。


俺は、短く打つ。


〈和人〉

ナノハ

今日もし時間あったらなんだけど

電話で話さない?


送信したら、秒で既読が付いた。ちょうど彼女もスマホを見ていたのだろう。

少し待ってみるが、返事は来ない。

別に用事があるわけではないの仕方ない。漫画でも読んで時間を潰すか。

そう切り替えてスマホを机に置いて、本棚を漁り始める。



 それから数分後。

ブルブルとスマホが震え、独特な着信音が鳴った。


画面には、〈ナノハ〉の名前。


「お、はやかったな」


思わず呟いてから、通話ボタンを押す。


「もしもし」

『もしもし、カズト?』


少し弾んだ声。

でも、どこか様子をうかがっている感じもする。


「うん。急にごめん。暇しててさ」

『そうなんだ。私はさっきバンドの練習が終わって、家に帰ってきたところだよ』


ほう、日曜でも練習してるんだな、と感心する。


「そっか。疲れてない?」

『まあまあ』

「リオさんに厳しく指導された?」

『う、なぜそれを知っている?』

「いや、なんとなくだけど。雰囲気的にそうかなって」

『カズトにはお見通しかー。まあでも、なんとか楽しんでやってるよ』


その言い方が、ナノハらしい。すべて楽しさに変える的な。


「そっか。それはいいね」


それから少し沈黙。

LINEならスタンプで埋まる間が、電話だと無音が残る。


「そういえば、先週のライブのことなんだけど」

「うん」

「ラストのオリジナル曲の作詞って、もしかしてナノハがやってた?」


俺の問いに、ナノハは明るい声で肯定する。


「やっぱり」

「え、やっぱりって?」

「ナノハっぽいなと思って」

『私っぽいとは?』

「言葉選びとか雰囲気とかが、ちょっと独特でさ。着眼点も面白い」


一瞬の間。


『……よく言われる』


「ほんと?」


『うん。たぶん、私がそういう、周りからはちょっとズレた捉え方をしてきたからかな』


そこから、話は自然と音楽の話になる。


ガールズバンドを始める以前に影響を受けたバンドやアイドルの話。

電波系なバンドもののアニメ作品であるとか、宇宙人設定の有名VTuberであるとか、俺にも馴染み深いアーティストの名前が挙げられていく。


ギターを始めたきっかけは、自分も楽しい曲を作りたいと思ったから。とても純粋だ。

そして歌詞を書き始めたのは、中学の頃だという。これは驚きだだが、同時に納得がいった。


ナノハのターンが終わり、次は俺が身の上話をした。

ピアノ、サックス、フルートの音が、家にあったこと。

音楽は“自分からやりにいくもの”じゃなく、“最初からそこにあるもの”だったこと。


『へえ。カズトは、楽器演奏しないの?』

「ピアノは人並みにできるよ。趣味のレベルだけどね」

『なんか羨ましいな。最初から音楽の中にいたなんて』


その純粋な言い方が、妙に嬉しかった。


「ナノハは今のメンバーとずっとバンドやっていこうって考えてたりするの?」


少し間が空く。


『うーん』


さらに長い沈黙。


『……正直、迷ってる』

「ん、迷ってる?」

『皆、好きな音楽のジャンルは似てるけど、同じ方向を向いてるかは……わかんない』


ナノハが慎重に言葉を選んでいるのが伝わってくる。大事な問題だからな。


「そっか」

『ごめん。あいまいな回答で』

「いや。話してくれてありがとう」


そう言うと、ナノハの微笑む音が聞こえる。


『あ、結構話し込んじゃった。そろそろ切るね』


気づけば、三十分近く話していた。


「うん。また話そう」

『次は、私からかけるね』


通話が切れる。

スマホを置いて、天井を見上げる。


声を聞いただけなのに、

距離が一気に縮んだ気がした。


LINEの文字越しじゃなくて、会話できたのは新鮮で良い経験になった。

今度は彼女から電話をかけてくれるみたいだし、次に機会を待つとしよう。


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