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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
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24/117

春百

体育祭後の話です。

 体育祭が終了した翌週。6月6日の月曜日。

体育祭で団結出来たおかげでクラスに慣れて、新しい友達も何人か出来た。

これからもっといろいろな人たちと仲良く話をしたい。

更なる出会いへの期待を抱きながら登校した。


後ろのドアをガラッと開けて、馴染みつつある1Bの教室に入った。


「あ、琴吹さん、おはよう」


俺が挨拶をすると、ノートを広げようとしていた彼女はさっと顔を上げて、


「おはようございます」


と、柔らかい笑みを浮かべた。体育祭は終わったけれど、この笑顔はいつもと同じで、本当に素晴らしい笑顔だ。


「おはよう、和人!」


俺が琴吹さんスマイルを心の中で絶賛していたところで、ライトが勢いよく教室に入ってきた。


「おはよう」


手を上げてこちらに向かってくる彼に、俺は軽く返答した。


「おう。琴吹さんもおはよう」


ライトは鞄を下ろして、琴吹さんにも挨拶をした。


「おはようございます」


琴吹さんは華やかな笑顔でそれに応えた。恩寵は万人に与えられる。はあ、幸せ。


メンバーが揃ったところでチャイムが鳴り、一ノ瀬先生が登場した。


「皆さんおはようございます。それでは朝会を始めます。まずは皆さん、先週の体育祭おつかれさまでしたーー」


一ノ瀬先生は体育祭でクラスのみんなが奮闘したことを労う。クラスメイトたちは皆照れくさそうな表情をしながらその称賛を受け止めた。


そして話を終えると、今度は真面目な表情を作って口を開いた。


「再来週から期末テストです」


一ノ瀬先生の言葉に、クラスの一部が不満気な声を上げた。俺は背筋を伸ばして話を聞く体勢に入る。


「期末テストは年四回あります。今回は前期中間考査になります。これまで学んできたことを、しっかり復習して試験に臨んでくださいね」


嫌がるクラスメイトたちに対して、先生は真面目な顔つきで言った。部活動でのおちゃらけた雰囲気とはまるで正反対で、なんだか気味がわるいな。


「それじゃあ、これで朝会を終わります。解散してください」


そう言うと、先生は教室を出た。テストがあるのかと考えていたら、いつの間にか朝会が終わっていた。


「まじか、やべーな」「ねえ、どうする?」


クラスはテストの話題で持ち切りだ。

いつもは窓から校庭を見ながら朝会を聞き流している俺だが、今回は珍しくしっかり聞いていた。

なぜなら俺もテストに不満のある生徒の一部だからだ。


「ライトはテスト、大丈夫なの?」


俺は前の席の彼に話しかけた。ライトは振り返ってにやりと笑みを浮かべた。


「俺は心配ない。ま、強いて挙げるなら数学か。計算ミスとかな。和人は?」

「俺は数学と物理、英語が不安要素だな」

「そうか」

「ねぇライト、勉強教えてくれ」

「俺より、もっと身近に適任者がいるだろ」 


ライトは斜め横に視線を送る。俺の隣の席に座る人の方。


頭脳明晰、才色兼備。未だ実績はないが、日々の授業や小テストなどで、彼女の優秀さはクラス内に浸透するに至った。彼女の名声は広がっていたのだ。


「どうやら、先着が多いみたいだな」


彼女は複数人の女子に囲まれている。


「琴吹さん、勉強教えてー」「あ、私にもお願い」「私英語がダメダメで」「ちょっと私も私も!」


彼女に教えてもらうのはちょっと無理そうだ。名案だと思ったんだけどな……。


「ほかに頼れる人はいないの? ライトの知人に」 


俺は少しへこみながら、ライトの方へと顔を戻した。


「うーん。部の先輩、マネージャー、女子バスの知り合い...…」

「それ、みんな知らない人じゃん。頼みづらい」


話を持ちかけたのは俺なのに、なんだかわがままだな俺。


「和人は部活の先輩とかで頼れる人いないのか?」


「そういえば、いなくもないな」 


そうだそうだ、文芸部には頼れる先輩がいるのだ。


そうこう話しているうちにキンコンとチャイムが鳴った。




 二時間目終わりの休みに、俺の席に万和人がやってきた。


「よう。古暮は期末テスト、楽勝か?」

「いや、このままだと辛勝、いや惨敗まであるな」

「ははっ。仲間だ」

「え、万和人も? そうは見えないけど」


性格が物凄く良いのだから、成績も良いのだろうなと思っていたのだが、なんだ違うのか。


「俺は文系教科が死んでる。特に古典」 

「ああ、難しいよね。再読文字とか」

「……そんなのもあったな。一つも覚えてないけど」

「それ、やばくない?」

「そうか? 古暮はもう覚えたか? その、再読文字だっけ?」

「ああ、一応網羅したけど。というか俺、国語は問題ないんだけど、数学とか英語が…...」 

「ああ。俺も英語やべーわ。ははっ。同士だな」


うーん。何といっていいやら。


「ま、俺は進級できればいいから」


万和人は笑いながら言った。


「はあ……」


俺は返事にならないような声を出した。

もしかして彼も、目標無いけど高校受かっちゃたタイプなのだろうか。


その後も軽く雑談し、万和人は席へ戻っていった。

どうやら万和人とは馬が合うようで、もっと仲良くなりたいなと思った。



 昼休み。

ライトに食堂に行こうと誘ったが、用事があるらしく一人で行くことにした。

廊下に出て、階段を降りる。


食堂に近づくにつれ、人の量が増えてきた。

昼休みは膨大な数の生徒がこの食堂に一斉に集まる時間だ。

食堂へ通じる廊下は群衆がひしめき合い、ひとたびその中に足を踏み入れたなら、逆流することは不可能だ。

入学して間もなくは苦労したが、三か月の期間が過ぎ、この戦場にそれなりに慣れることができたのではないだろうか。


待たされるのは嫌だから、長蛇の列になる前に注文口へ辿りつかないとーーそう思ったところで、横から勢いよく誰かがぶつかってきた。


「おっと」


つまずきそうになった。しかし、タックルは中学時代に何度もされてきたので、ぐっと足に力を入れてなんとか踏ん張ることができた。


「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」


元の姿勢に戻ると、はっきりとした芯のある声を後ろからかけられた。

ーーぶつかって来た奴だなと振り向くと、綺麗な顔立ちの長い黒髪の女子がこちらを心配するように不安げな表情をしていた。


「はい、大丈夫です」


俺は堂々と答えた。踏ん張ったから外傷はない。


「本当にごめんなさい」


彼女は曇り顔で再度謝り、反省する態度を見せた。


「あの、本当に大丈夫でなんで」


俺は彼女を安心させるため、落ち着いて冷静に応えた。


「そうですか……では、失礼します」


彼女は安心したようで、人ごみの中に向かっていく。


その後ろ姿を見送る際、彼女の靴のサイドに入っている線の色が俺と同じ赤であることに気づいた。


靴のサイドにある線の色は学年ごとに異なり、一年は赤、二年は緑、三年は青である。


同じ学年だーーそう思いながら足を踏み出すと、つま先にコツっと何かがぶつかった。


ハンドサイズのメモ帳だ。はて、一体誰が落としたのだろう。さっきぶつかった女子のものなのだろうか?

メモ帳を拾い裏返すと、下の方に小さく名前が書いてあった。


高橋春百(たかはし はるも)


名前を見るなり、俺は昔のことを思い出した。


俺が保育園の頃の話だ。

音楽家の父の影響で、俺は三歳でピアノを習い始めた。

商店街の通りの一つ奥に大通りがあるのだが、その大通りにあるピアノ教室に俺は通っていた。


ピアノ教室のレッスン形態には個人レッスンとグループレッスンのニつのパターンがある。

前者は先生と生徒のマンツーマンで、後者は三から七人くらいの生徒が一人の先生に教わるというものだ。


俺は三歳でグループレッスンを習い始めたのだが、その時一緒になった一人に、高橋春百という名の少女がいた。

小学校中学年くらいまで一緒にピアノを習っていたのだが、春百はピアノを本気で学びたいと、グループを抜けてしまった。

きっと、グループレッスンから個人レッスンに切り替えたのだろう。同じピアノ教室とはいえ、タイムスケジュールが全く異なっていたため、会う機会が全くなかった。通っていた小学校も異なるため、それ以降は音沙汰なしだ。

今はどうしているのやら。きっとピアニスト目指して頑張っているだろう。



とまあ回想はここまでとして、さっきぶつかってきた子は記憶にある彼女とは全然印象が違った。

昔の彼女は短髪だったし、陽気で好戦的な性格だった。


非常に珍しいことだとは思うが、同姓同名のセンが濃厚か。


このメモ帳は彼女が落とした可能性が高いと判断し、メモ帳を届けてあげることにしよう。しかしながら、この人混みの中、探し出せるかどうかは微妙なところであるな。





 次の日の朝。

俺は昨日の昼、放課後にメモ帳の持ち主を探し回っていたのだが、未だ発見できずにいた。今は彼女にメモ帳を届けるため、ほかのクラスを回っている。

A、B、C、Dと来たが、彼女はそのクラスに在籍していないようだ。次はE組だ。


ドアのガラス張りから、そっと中を覗く。長い黒髪の美少女……おおっ、やっと見つけた!


「ようよう、E組に用かyou!」


後ろから少しチャラめの男子が話しかけてきた。

ヨウって四回も言ってるyou……って語尾が映っちゃったyou。


「えっと、高橋春百さんをお願いします」

「おういぇーい、りょーかいだyou!」


彼は例の女子のところへ行き、俺の方を指さしながら何かを話した。

すると彼女が振り返り、俺の方を見た。

彼女は立ち上がって、不思議な顔をしながら近づいてきた。


「私に何か用ですか?」

「これ、あなたの落とし物ですよね?」

「え……あっ、私のです! ありがとうございます」


彼女は頭を下げ、勢いよくメモ帳を広げながら喜ぶと、メモ帳から視線を離して俺の顔を見つめた。


「……あの、もしかしてどこかでお会いしましたか?」

「昨日の昼、廊下でぶつかって、その時にそれを落としたみたいですね。それで、靴のサイドラインで同じ学年だってわかったので、直接渡そうと思って昨日からずっと探してたんですけど、見つからなくって」

「ごめんなさい。昨日は忙しくて、休み時間はほとんど教室にいなかったです……でもよかった、ありがとうございます」


彼女は焦り顔になったかと思うと、再度感謝してきた。


「いえいえ。こっちこそ素直に落とし物預り所に届けてたら、放課後にでも受け取れたかもしれないのにすみません」

「全然大丈夫ですよ。届けてくれてありがとうございます。……では、失礼しますね」

「ちょっと待ってください」


俺が呼び止めると、彼女は振り返った。


「はい?」

「俺、古暮和人っていいますけど、聞き覚えはありませんか?」


同姓同名の別人か、それとも思い出の少女か。さて、どちらだろう。


「えっーと、コグレカストさん……」

「小学校の時、ピアノ教室で一緒だったーー」


ここで反応があればそれはつまり、


「あっ!」


何か思い出したような表情。もしやこれは……!?


「もしやあの!? じゃんけんがめっぽう弱い?」

「うっ、ーーそうだよ! じゃんけんが()()ばかり弱い和人だよ!」


そう応えると、


「えっ、ほんとに? うわ~懐かしー!」


彼女は満面の笑みを浮かべた。

はいきた、BIngo! 幼馴染の春百さんだ。


「おおう、久しぶりだな」


俺はその勢いに圧倒されながらも同調する。


「うわーほんともうびっくりだよ! まさかおんなじ高校だったなんてね!」


春百は久しぶりの再会にいたく興奮しているようだ。


「よく私だってわかったね」


ひとしきり興奮して熱が覚めたところで、春百はふと不思議そうな表情で問いかけてきた。


「ん? ああ、メモ帳の裏に名前書いてあったから、もしかしてと思って。見事に的中したわけだ」

「さすが和人」


春百はニンマリ笑いながら、俺の身体をじろじろと見回す。俺はそれに対抗して彼女の容姿を品定めする。長い黒髪と白い肌。お転婆娘の面影はどこにもなく、お嬢様学校に通っていそうな清楚な女子高生の姿そのものだ。


「それにしてもお前、小学校の時に比べて見違えたよな」

「んー!? それはお互い様でしょ。最後に会ったのって七、八年くらい前だし」

「ふっ、だな」


それだけ長い年月が過ぎれば、外見は変わって当然のことだ。

彼女も俺を見て、昔の姿からの変化を感じ取っているのだろう。


「私がいなくなって寂しかった?」


春百は冗談交じりにそんなことを聞いてきた。その容姿でからかわれると違和感がすごいが、そのうち慣れるだろう。


「いや、全くそんなことはない」


俺は即座に冷たく否定した。今まで忘れていたわけだから、当時は寂しいかったかもしれないが……。


「え、即答!? ちょっとショック……」


春百は子犬のような目で俺を見る。ぶりっ子のような行動だ。こんな一面が過去にはあっただろうか。

思い出そうとしたが、記憶はかなり薄れているため厳しいものがある。

7年とはやはり長い年月であることを実感する。


「そんな目をしても俺には効かない」

「ちぇ。まーいいや。元気そうで何よりだよ、和人」

「ああ、お互いにな」


それからしばしの間、俺は春百と雑談をした。

時間ギリギリまで話して、到底話し足りないと感じたのでランチに誘ったところ、快諾してくれた。

存分に話し合えると期待を胸に抱きつつ、自分の教室に戻った。



 昼休み。

俺は春百と昼飯を食べながら、いろいろなことを喋った。


まずはグループにいた頃の話。

新しい曲を始めようと思ったときに、誰がメロディーのパートをやるかで毎回揉めて、じゃんけんで決めることになり、いつも俺は負けて彼女がメロディーをやっていたこと。

俺がアンサンブルでしでかした些細なミス(和音を外す、タイミングを間違えるなど)を春百は逐一注意してくるので、先生よりも彼女の方が厳しいと腹の中で思っていたこと。

年に一度あるピアノコンサートにて、発表が終わった後の集合写真撮影で身長順に並ぶ際、どちらが背が高いか毎回揉めていたこと。


存分に過去の思い出を語り尽くしたところで、今度は別々になってからのことだ。

文芸部に入ったこと。ピアノは個人で続けていること。父がジャズバンドで各地を東奔西走していること。

春百が様々なコンサートで優勝してきたこと。

今も変わらずピアノを習い続けていて、大学は芸大を志望していること。

部活動は英語部に入っていて、ネイティブスピーカーの先生達とわいわい楽しく部活していること。



春百の外見は大きく変わったが、内面は昔のまま。

ノリが良くユーモラス。基本は何事もエンジョイ派でそこそこ頑張れば満足するタチだが、音楽は関しては超絶ガチ勢で負けず嫌い。このなんとも形容し難い性格は変わっていないようだった。

頭の片隅に追いやられていた記憶が急に次々と引き出されて、話している最中は非常に頭が冴えていた気がする。


新情報盛りだくさんで、昼休みがすぐ終わってしまった。俺は彼女とラインを交換して、食堂を後にした。



 放課後。

俺は琴吹さんと文芸部の部室に向かった。


「琴吹さんはテストの心配する必要なくていいよね」

「いえ、初めてなのでなんとも。どんな傾向の問題が出るか、少しでもわかればいいんですけどね」


うわ、勉強出来る人のセリフだ。努力家様々だ。


「あの、俺にも勉強教えてくれない?」


試しに言ってみた。可能性は皆無に等しいのだが。


「うーん、ちょっと厳しいかもしれないです。先客が多いので」

「そうですか……」


まあそうだよな。わかってはいたけど、彼女に教われば間違いなく上手くいくだろうから、惜しいと思ってしまう。


「あ、でも何かわからないところがあれば、聞いてください」 

「え、いいんですか?」


俺のために時間を作ってくれるのだろうか。ちょっと期待。


「自習か小休憩の時にならいいですよ」


なんだ、そういうことか。あくまで休憩時間、放課後とかは無しね。でも、ありがたいや。


「ありがとうございます」


俺は情けない笑顔で答えると、彼女は優しく微笑んだ。

こんな若輩者に手を差し伸べる琴吹さん。こんなに優しい人が身近にいるなんて、本当に幸せだな。


「「こんにちは」」

「こんにちは」


俺たちは部室に入った。霞先輩が顔を上げてこちらを見て、静かに挨拶した。


「こんにちはー」


部屋の中心ぐらいまできたところで、栄子が部室に入ってきた。


「「こんにちは」」

「今日は何をするんですか?」

「これと言ったものは特にないわ」

「そうですか。じゃ、とりあえず」


俺は無造作に置いてある椅子に適当に腰掛け、カバンから文庫本を取り出した。

そうしているうちに栄子が俺の前を過ぎて、窓際の一番後ろの席に座った。それはお決まりの席だ。


みんなが座る席は大体決まっていた。


先輩は、縦六列、横三列ある席のうち、一番前の列の左からニ番目に座った。窓に近い席だ。

そして俺のその二つ右隣、最前列のほぼ真ん中の席に座った。また、琴吹さんは廊下側の席に座った。


掛時計のある壁の方にY軸をとると、先輩とはY成分が合っているが、他の二人とはX成分、Y成分のどちらも合っていないな。ってなんで座標なんか考えてるんだ俺は。いつもはそんなこと考えないのに。

もしかして、俺の思考、知らないうちにテストモードにオートチェンジされたのかーーもうどうでもいいや、読書しよう。


俺たち文芸部は詩や短歌などを作るが、いつもそのようなことをしているわけではない。ただひたすら読書や、くだらない雑談なんかもよくしている。


読書は普通に一人だけの世界だが、雑談は俺と先輩が主となって、偶に琴吹さんや栄子が参加するという感じでやっている。


読書をするのは当然楽しいが、ここでの雑談もかなり楽しかったりする。


「先輩はテスト勉強どうしてるんですか?」

「どう、と言われても毎日ちゃんと予習復習としか言いようがないわね」

「えっと、質問を変えます。苦手な教科の勉強はどうやってますか?」 

「そうね、私は数学が苦手だったのだけれど、公式がどういう過程で出てきたのかは論理立てて、しっかり覚えたわね」

「やっぱり公式ただ丸暗記じゃ無理ですよね...はは」

「丸暗記は歴史、地理、生物くらいにしか通用しないわね」

「じゃあ、英語はどうやって勉強してましたか?」 

「そうね、英語とは限らずに、語学で基本的に重要なのは語彙量ね。文法も大事だけれど、やはり覚えている単語の数が多ければ多い方が、文章読解は容易になるわね」

「つまり、単語の暗記が重要だと」

「ま、そうかもしれないわね」


くそ、結局肝心なのは暗記か。日々の努力じゃないか。アンキパンがあったらどんなに楽なことか。


先輩が言うには、勉強の取り組み方よりも、勉強したいと思う環境づくりが重要らしい。環境は一度整えてしまえば、『勉強したくない病』からはおさらばできるそうだ。そして、毎日机に向かうようになると、今度は向かわない方が気持ち悪くなってくるそうだ。これを『勉強したい病』というらしい。


俺は面白いと思ったことには熱を入れられるけど、そうでないものはすぐ冷めてしまう。つまり飽きっぽい性格なのだが、さて、どうやって勉強する環境を整えるか……。


その後も、先輩からアドバイスをもらった。いろいろ聞くことが出来た。


日が傾いてきたので、俺は部活を後にした。



 その日の夜。

ベットに寝転がり、早速春百にラインを送る。

最初からフレンドリーではなく、あえてビジネスメールのような堅苦しい文章を送って反応を楽しむことにした。


「春百様。


夜分遅くに失礼いたします。古暮和人です。

お昼はざっくばらんなお話を伺うことができ、楽しい時間を過ごせました。

お食事の誘いを受けてくださり心より感謝申し上げます。

今後も仲良くしていただけますと幸いです。


どうぞよろしくお願いいたします」


ニヤリと悪い笑みを浮かべて送信ボタンを押すと、すぐに既読が着いて返信が来た。


「た、たいへん堅苦しいですね。フランクな和人さんはいらっしゃいますか?」


うむ、うろたえているな。指名が入ったのでモードチェンジするか。


「ハーイ♪ 和人だよ~♪ チェキラ!」

「わっ! 豹変した!?」

「仲よくしてね♪(゜▽^*)ノ⌒☆」


顔文字を使うことでさらにフランクになる。さて、返答は……?


「わたし春百! 気分上々! 老若男女ウチの虜! イエーイ! ☆⌒(*^∇゜)」


ラップをぶちかましてくるとはさすがだ。

ノリがいいあたり、本当に中身は昔と同じままである。


挨拶もそこそこに、「そういえば」と春百が話題を出してくる。


「体育祭、E組すごかったね。ニ位でしょ?」

「そう。あれは惜しかった。もうちょっとだったな」


俺の出場した種目は全て二位だった。そして1Bは総合二位、つまりは準優勝ということになった。体育祭で二位という順位しか見ていないので、きっと俺は『二位(カース)(オブ)呪い(セカンド)』にかかっているに違いない。


「ほんとにそうだね。和人が全部一位どうなってたかわからなかったかもね」

「うっ、痛いところをついてくるな。まあ、めぐり合わせが悪かったということで……。そっちはどうだったん? 1Eだっけ?」

「私たちは九位でしたよ。九位!!!」


そういえば体育祭後に、クラスポイントが開示されたんだよな。まだ見てないから、後で確認しよう。

ところで、春百たちのEクラスは九位か。


「お、おう。ちょうど全体の真ん中だな」


随分中途半端な順位だな。


「まあ可もなく不可もなくでちょうどいいんじゃ?」


真ん中なら、捉え方によっては中途半端ともちょうどいいともとれるよな。


「うんうん丁度いい順位だねーって慰めにならんわー!!! (*`Д´)っ))

もっといい順位取りたかったっすよ( ´Д`)y━・~~」


「草。今度は頑張れ。オマエのチカラで世界を変えろ!」


真ん中の順位は基本的にパッとしないから、評価が悪いのは当然だ。彼女が本気でやっていたのかどうかを聞いてみるか。


「そうね。この魔眼を持ってすれば、一位なぞ朝飯前……いや、朝食後……昼食、夕食……」

「…………(▼ω▼)ジーー」

「うん、まあ次は100%の力を開放して頑張る(・̫・)」


頑張るとは書いてあるが、最後の顔文字がどうもな。春百の運動神経を見るに、あまり期待はできなさそう……。


「俺も今度は一位獲れるよう頑張るわ」

「頑張れp(*^-^*)q You can do it!」


可愛げのあるシロクマの子どものスタンプが送られてきた。このシロクマスタンプ、最近やたら流行ってるんだよな。女子がこれ持ってる率、百パーセント(俺調べ)。


そこから何回かやり取り、今度は俺がテストの話を出す。


「そういえば期末テストのこと、聞いた?」


すぐ既読が付いた。


「うん、再来週でしょ?」

「俺、理系教科やばみだわ」

「そーなの? 私は文系が……特に国語」

「理系は良いの?」 

「うん、バッチリだよ」


まさか春百が理系が得意だとは思わなかった。ここは知的財産を使わせてもらおう。


「じゃあさ、数学教えてほしいんだけど、ダメかな?」 

「いいよー。その代わり、国語教えて」


ただで家庭教師を引き受けてはくれないか。ならば交換条件で手を打とう。


「うん、できる範囲でよければ」

「じゃ、いつがいい?」

「今週の日曜日はどう?

「いいよ」

「じゃあ、よろしく」

「はーい!」


春百はすんなりと俺の誘いを受け入れてくれた。

それぞれが苦手とする教科を教える。これが等価交換というものか。

よかった、これで数学は問題なさそうだな。


そう一安心すると眠気が襲ってきた。


そこから、返答があるかなと数分待っていたが、既読がつかなかったたので、もう寝たのだろうと思い、俺は寝ることにした。


今日はとても有意義な一日だった。出会いはパッとしないものだったが、昔の友、もとい幼なじみに再開できたわけで、連絡先をゲットという収穫もあったのでいいことにする。


ベッドに入ると五分もしないうちに睡魔が襲ってきた。



幼馴染が登場しました。今後に期待です。

作者の私もグループレッスンだったなら、こんな出会いもあったかもしれないのに……。


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