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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
23/51

期末テスト(前期中間考査) 二週間前

 先生が期末テストの話をしてから何日か経った。

クラスのみんなも体育祭モードから、勉強モードにトランスフォームしていた。

俺はもちろん、勉強モードに入ってい……るはずだった。


数日前、ライトノベルの最新刊で、今まで読んできた中で一位ニ位を争うような傑作のハイファンタジーものが出た。俺はここ数日間そのラノベを何回も読みなおしていたので、勉強の進捗状況はゼロに等しい。


当然夜更かしをしたので、寝不足で、授業もこの有様だ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「まず復習だ。Hを除く1族元素をアルカリ金属、Be、Mgを除く2族元素はアルカリ土類金属といったな。じゃあ、17族元素はなんといったか……古暮、わかるか?」


え、俺当てられた? やばい全然聞いてなかった。何の話だこれは?

困った様子で隣を見ると、琴吹さんが教科書を立てて、一つの単語を指さした。ああ、17族元素の呼び名か。


「えーと、ハロゲン元素です」

「よし、正解だ」


先生が頷いたのを見て、ふと安堵の息を漏らす。

隣で微笑む琴吹さんに小声で「ありがとう」と呟いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


とまあそんなこんなで午前が過ぎていった。

実技教科の授業が二つあり頭を使わない時間が多くて助かった。

午前中で覚えたことはハロゲン元素くらいだが、後で復習すればカバーできるだろう。それほど難しい内容でもなかったし暗記多めだったし。



 昼休み。

俺はライトと食堂に行き、いつもの定食を食べた後、すぐに別れた。超絶イケメンを見ながら飯を食うというのは腐女子的観点からすれば超絶萌え展開なのかもしれないが、まあ日常風景なので特筆すべきことはない。

暇になってからは、何もやることがないなと思い、屋上で本を読むことにした。テスト勉強のことなど頭からすっぽり抜けていた。


キイ。


少し重めのドアを途中まで開ける。するとドアの向こうから声がした。

さらに少しだけドアを開いて声のする方を覗くと、男女が向かい合って何か話しているようだった。


「君の笑顔は俺にとって特別なものだから、ずっとそばで守ってあげたい」


男子はそう言って、手を前に広げた。大げさな動きだ。

これはなんだ。演劇の練習か何かだろうか。


「ふん。あんたと付き合ったげる女の子なんて、私しかいないんだからねっ!」


女子は顔を赤く染めてそう言うと、ふいっと男子から顔を逸らした。


「えっとそれは、オッケーてことでいいんだよね?」


男子が戸惑いながら聞いた。すると女子は声を発せず、小さく首肯した。

それを見た男子はガッツポーズをし大げさに喜んだ。


なんと俺は偶然にも告白現場というものに居合わせてしまったようだ。告白なんて、漫画や小説の世界でしか遭遇しないだろと思っていたが、まさか実際にあるとは思わなかった。


いや待て、演技の線は考えられないだろうか。

真昼間の屋上で告白なんて、普通に考えたら相当勇気がいる行動だ。屋上は普通に一般の生徒が入れるので、誰かが途中で入ってきて邪魔になることは想像に難くない。いつも大抵は複数のグループが散らばっているものだが、今日は見た感じ人の気配は二人以外なさそうだ。

さては二人は異能持ちで人払いの能力があって、告白する間はテリトリーに人を寄せ付けなくする結界を発動していたとかだろうか。いや、さすがに妄想が過ぎるな。単純に今日は彼ら以外に生徒が一人も来なかったというだけだろう。私的には放課後の方が適していると思うが、昼下がりというシチュエーションもないわけではない。


彼のガッツポーズは本気で喜んでいるようだし、二人とも顔の染まり具合が演技のそれとは思えない。


これは演技の線はないだろう。リアルと推察する。となれば二人の時間を邪魔するわけにはいかない。


俺は屋上を後にした。

図書館に行く時間はないので、俺は教室に戻った。


俺は机に座って校庭を見ながら、くだらないことを考えていた。テスト勉強のことは完全に忘れ去っている。

さっきの告白シーンに影響されたわけだ。

男子の方はちょっと臭いセリフをいってたな。どこかの王子様のような立ち振る舞いをしていた。

そして女子の方は、ツンデレキャラだった。「○○じゃないんだからね」や「勘違いしないでよね」などに代表される例のあれだ。まさか現実でお目にかかれるとは思わなかった。


もし俺が誰かに告白されるなら、どう告白されたいか。シチュエーションとセリフはどんな感じがいいか。

実際告白してくる人なんていないだろうけど、これは妄想なので問題ないのだ。存分に思考を巡らせることができる。

最近読んだラノベの告白シーンはどんな感じだったかな。脳内にある告白セリフ辞典を検索してみる。


「あなたのことが好きです」

「私じゃダメかな…?」

「こんなに誰かを好きになったの初めて!」

「ずっと隣にいてもいいですか?」

「私があなたを守る。だからあなたも私を守ってね」

「どんなことでもしてさしあげますよ」

「フフ。私だけいれば問題ないよね?」


脳内に告白シーンがどんどん現れた。ラブコメディを散々読んできたわけだが、これは褒められるべきことなのだろうか。まあ告白のセリフを覚えているということは、告白への返事のセリフも同時にインプットされているわけで、いつしか来るであろう実戦のため武器を磨いておくのは褒められるべきことではなかろうか。


「……おい、和人! 和人!」

「へ?」

「次、移動教室だぞ」


俺はライトの声によって、現実世界に引き戻された。


「えっと、次は何だっけ?」

「物理だ」

「あ、そうかーーえ、物理!?」


そこで俺は、物理の宿題をやっていないことに気づく。やばい妄想している場合じゃなかった。物理の先生おっかないんだよな。


「ライトー、宿題見せてー!」


俺は涙目でライトに懇願した。つぶらな瞳攻撃で何とか落とせないかな。


「ん? あーいいよ」

「ほんと!? ありがとう!」


よかった。前の授業で確か、宿題は次の授業の最後で集めると言っていたので、授業中に内職すれば何とかなりそうだ。





 それからいろいろあって放課後。


「琴吹さん、部室行こっか」

「はい。少し待ってください」

「うん」


帰り支度を済ませ、琴吹さんとともに部室へ向かった。


「こんにちは。今日の活動内容は?」

「特にやることはないわね」

「そうですか、では」


俺たちは昨日みたく、適当に腰掛けた。


「先輩は恋愛小説とか読みますか?」

「そうね。最近読んだのに、イニシエーション・ラブという本があったわね」

「どういうあらすじですか?」


「えーと、簡潔に言えば、大学生の主人公が合コンであった女子大生と恋に落ちる話ね。ミステリー要素もあるから結構面白かったわ」

「え、ミステリー要素もあるんですか?」

「そうね。最後まで読むと真相が分かって、もう一度読みたくなる、みたいな感じだったわ」

「へえ、面白そうですね。じゃあ、後で読みます」


先輩に本の紹介をされるのはとても楽しい。後で図書館に行こう。


話題を変えよう。


「先輩の家にテレビはありますか?」


スマートフォンとパソコンで完結できる今、大画面のテレビは一般家庭において減少傾向にある。


「あるわよ。65インチだったかしら」

「へー、すごい。こだわりはあるんですか? 大きさとか画質とか」


テレビは超薄型で8Kが当たり前の時代。


「私はないけど、両親はあるみたいね」

「どんな番組見てるんですか?」

「私はテレビというより本に興味があるから、あまり見てないわ。強いて言うなら紅白歌合戦かしら」

「一年に一度しかやってないやつですね」


俺は笑いながら応えた。

大きさの話とか、テレビに詳しいのかと思ったけどそうではなかった。

テレビはこだわる派だから、少し残念だ。今の技術は最高なのに。

よし、これから先輩にいかに今のテレビがすごいか語り尽くす必要があるな。改心させますよ!



その後、日が落ちるまで先輩に熱弁し、キリの良いところで切り上げて帰宅した。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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