体育祭実行委員決め、リレー集会、ほのか、千鶴
ここからは体育祭編になります。新たな出会いがあるかも。
五月中旬。文芸部に入ってから二週間と少しが経った。
俺は琴吹さんとの距離を縮めることができたのだろうか。
友達とはいかないまでも、普通に話しかけても問題ない、『よく話すクラスメイト』くらいの立ち位置にはなれたと思う。
今週は週番の仕事をこなさなければならない。
普通の人なら君が週番だと言われたら、面倒だ、やりたくないなどと思うだろうが、俺はそうではなかった。
何故かというと、隣の席の人とペアでやるからである。
入学時の席替えからまだ一度も席替えはされていないので、隣が誰とは言うまでもないだろう。
彼女との仲をより深めるために、この機会を是非とも利用しておきたい。
「それではこれからホームルームを始める」
「起立、礼、着席」
事前の話し合いで、授業開始時の挨拶をどちらがするか決めていたので、俺はロボットのような無機質な声で号令をかけた。
「今日、一ノ瀬先生は出張でいらっしゃらないので、私が代わりに来たぞ!」
薄毛で小太り、そして眼鏡を掛けている。不審者が侵入したのかと周りの生徒たちが疑惑を持ちーーというのは冗談で、1B副担任の高木先生が低い声で言った。
「六月の終わりに体育祭があるというのは聞いているだろう。そこで、学級のリーダーと、体育祭運営委員を決めないといけない」
「ふーん」「体育祭かー」「そうだねー」
クラスがざわついた。
「みんな! 体育祭、盛り上がっていこーぜ!」
爽やかでいかにも運動部っぽいクラスメイトが立ち上がった。彼はクラスのムードメーカー、水上だ。
「おー!」「いぇー!」「水上ー!」
みんながそれに同調した。
「先生、俺がやります!」
「おお! 他はいないな。よし、頼む!」
高木先生は一瞬驚いたが、水上だとわかって納得したようだ。
「しゃーみんな。俺について来い!」
水上ははにかみながら、手を突き上げた。クラスのみんなはそれをヒューヒューと盛り上げた。さすがムードメーカーだ。もし俺がこれをやったとしたら、クラスメイトたちの歓声はなく、寒い風邪がヒューヒューと吹くに違いない。
「んじゃ、残るは運営委員だな。まず、男子から。希望はあるか?」
周りを見るが、誰も手を上げようとしなかった。しかし、
「先生、俺がやります」
ライトがパッと手を上げて立候補した。
「おお、中島やってくれるか。頼んだぞ」
「はい!」
ライトは元気に返事をして着席した。そして、後ろを振り返って、
「こういうのって、ワクワクするよね」
と、俺に向けて囁いた。
急な不意打ちに、ドキリと俺の心臓が跳ねた。危ない危ない。俺が女子だったら完全にイチコロだったな。
それにしても、ライトは運動部で忙しいだろうに、面倒そうな役に自ら立候補するなんて、やる気満々なんだな。
女子の方はというと、決まるのに少し時間がかかった。
というのも、全く候補がいなかったからではなく、逆に立候補が多くいたためだ。
こんなにも積極的な女子が多い理由は考えるまでもなく、ライトのせいだ。
ごく一部を除き、ペアになりたいと願うのは当然のことだ。
最終的にじゃんけんで、活発系女子に決まった。
***
それから一週間が経った。体育の授業の時間が増え、放課後も多くの生徒が残ってリレーや他の競技の練習をするようになってきて、本格的に体育祭への緊張感が高まっていた。
体育祭は、リレー、障害物、綱引き、騎馬戦……と、様々な競技がある。一人につき最低で四つの競技に出場するよう義務付けられている。
俺は障害物と、借り人競争、綱引き、騎馬戦、リレーに出ることになった。
琴吹さんが二人三脚に手を上げていたので、よし、俺もと手を上げたのだが、数少ない男女混同競技であるから、それはもう多くの手が上がり、ペアになることは叶わなかった。あわよくば、ペアになってああだこうだ……という邪な考えを胸に秘めていたのだが、それは俺だけではなかったというわけだ。
このクラスの運動部の人はとても優秀だが、文化部所属の人もちらほらいて、走るのが得意じゃない人もそれなりに多かった。いろいろな人がいる、それが高校だ。
ちなみにいうと、俺は前者に当てはまる。中学でサッカー部で散々走ってきたし、惰性で毎日の朝ランも続行しているから、あまり体力は落ちていないと思う。
そういえば、入学してまもなく行われた体力テストでは、百メートルを十三秒ぐらいだったな。まあ、リレーのコースはずっと直線というわけではないから、あまり参考にはならないか。
四時間目の体育の授業は、リレーや徒競走の練習だ。
体育祭も近くなってきたしと、全力で授業に取り組んでいると、
「和人、結構足はえーよな。中学で運動部だったっていうし、リレーいけんじゃね!?」
と、クラスの一人が発言した。すると、それに対し、
「そうだな」「うん、いけるいける」
と、賛成する声が多く上がったため、俺はリレーの選抜メンバーに抜擢された。
昼休み、学食で昼食を取って教室に戻ると、リレー練習の集まりがあると言われたので、俺はグラウンドに向かった。男女五人ずつが交互に走る、というのをどこかで聞いたなと思いつつ辺りを見回していると、ライトを見かけたのですかさず話しかけた。
「ライト、やっぱり来てたんだね」
「ああ、走るのはそれなりに得意だからな」
「じゃー、アンカーはライトで決まりだね」
「ん? ……いやいや、俺よりもっと速い人がいるだろ。ほら、そこに」
ライトが指し示す方を見ると、金髪で長身の生徒が何人かの女子生徒と話している。たしか、樋山……いや風間だったか。もう二か月経ったっていうのに、いまだにクラスメイトの名前を覚えていないなんて、俺ってなんて無関心な奴なんだ……。
「葉山くんがアンカーで決まりだね!」
「そうそう、なんたって全国大会出場者だもんねー」
「だねだねー!」
彼の取り巻きは、蝉がジリジリと鳴くかのような盛り上がりだ。
その勢いは衰えることを知らず、さらに輪を拡大しているようだ。
それよりも彼の名字、葉山だった。最後の『ま』の文字しか合ってなくて本当に申し訳ない。
それと全国経験者って、もはや凄いを通り越して畏れ多いな。
「おい、和人。そろそろ集まるみたいだぞ」
「ん? うん」
リレーのメンバーが密集するなり、説明が行われた。肝心な走る順番だが、女、男、女、男の順に交互に走らなければならないらしく、話し合いの結果、ライトはニ番目、俺は六番目、葉山は十番目すなわちアンカーになった。
同じクラスのリレーメンバー全員の前で自己紹介をしないまでも、バトンを渡してもらう人と渡す人のそれぞれに、「よろしく」の挨拶とともに自己紹介をしておくことにした。
俺にバトンを渡す人の名前は、日代ほのかという。
大きな目と高めの鼻。それでいて桜色の唇は控えめで、清涼感がある。
黒色の髪は短く艶があり、イエローベースの肌は張りがあって瑞々しい。
身長は平均よりは高いようで、スタイルが絶妙に良い。
この容姿なら、クラスで人気が出るのも頷ける。勉学は目立つところはないものの、バレー部で期待されていると聞くので、運動能力は高いのだろう。
彼女とはほんの数回しか会話したことがない。いつも皆に囲まれているクラスの人気者に自分から話しかけるには、勇気が足りなかった。誰とでも友好的に接する人と友達になれば、他の人たちと仲良くするという観点から見ても相当なアドバンテージがあると思うが、それにしても自分から話しかけるのは億劫になってしまう。小心者ですみません。
そして、俺がバトンを渡す人は東条千鶴という。
特徴的なのは髪で、明るい橙色の髪を後頭部で結い上げている。いわゆるサイドテールだ。
つり目でまつ毛が長いため、どこか好戦的な印象を受ける。こちらも顔全体のバランスは良く、整った顔をしている。
背は日代さんより低いが、年齢で比較すれば平均的な身長といえる。
これまで接点は全くなかったし、これができるといった話題もあまり聞いたことがない。
頭の良し悪しは未知数だが、見た目は個人的に好ましいし、運動面に関して言えばこうしてリレーの代表に選ばれているわけだから、良いと判断してよいはずだ。
彼女に話しかけるのは相当難易度が高いだろう。日代さんのように交流が広いわけではないし。
リレーの練習の場で知り合えたことは幸運だが、話しかけるにはきっかけが必要だ。
席が近くなるとか、委員会のような同じコミュニティーに入るとか、趣味嗜好などの情報を得るとかしない限り、仲良くなるのは相当難しいだろう。
「それじゃあ、いきまーす!」
トップランナーの女子が声をかけ、練習がスタートした。
人の得手不得手を考察するのはやめて、クラスメイトの走りっぷりを観察してみようと思う。ふむふむ、スムーズにバトンをやり取りしているな。うわっ、あの人すごい早い。わあ、あの人もかなり早いや。なんだよ、俺が思ってたよりみんな速いじゃんか!
そんな感じで愉快適悦に観察していたら、早くも俺の出番が来た。
日代さんがこちらに向かって来るのを見て、俺は走りだした。
右手を後ろに出して、バトンを受け取る姿勢に入る。
「はい!」
掛け声と同時にバトンが渡され、俺はそれを強く握った。
中学の時もリレーの選手に選ばれていたので、バトンの扱いにはもう慣れたものだ。
テイクオーバーゾーンの終わりくらいから、バトンを左手に持ち替えてさらに加速していく。
全力の八割ほどでトラック半周分を走り、次の半周を走る東条さんの手にバトンを乗せた。
「はい!」
上手くバトンを渡す事ができた。
東条さんの走りっぷりを見ながら、クールダウンをして呼吸を整えた。
選抜リレーは上位が狙えそうだ。頑張らなくては。
放課後、騎馬戦の集会があると言われていたので、俺は教室に残った。いつものように琴吹さんと一緒に部活に行けないのは残念だけど、仕方がない。俺が事情を話すと、彼女は一人で行ってしまった。
騎馬戦は四人一組で騎馬が三人、騎手が一人で構成される。俺は背が高いわけではなく、小さいわけでもないので、騎馬をやることになった。騎馬の右後ろをやることになった。騎士のリーダーは、このクラスのリーダーの水上がやることになった。
「じゃ、みんな! これから頑張っていこーぜ! 目指せ優勝!」
水上は拳を握りながらそう言った。
「おー、やろうぜ」「頑張ろー」「一位!」
皆は彼の言葉に、次々に同意した。
詳細が説明され、解散となった。
中学校の時よりも規模が大きい分、クラスのみんながやる気に満ち溢れているようだ。競う相手が多ければ多いほど、やる気が増すというものなのだろう。
これは、俺もやる気を出さなければならない。目指せ一位!
そう意気込みながら、俺は教室を後にした。
執筆していて、昔のことを思い出しました。
学校の屋上でオタク仲間二人とひたすら好きな作品の話をしていました。




