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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
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12/117

妖精探し対決 in植物園 パート1

ゴールデンウィークのお話です。

 5月3日の火曜日。ゴールデンウィーク初日。

プシューと電車の扉が開き、私は愛表(あいのもて)駅のホームに降り立った。

きょろきょろと周りを見回し、ちょうどよく空いたベンチに腰掛ける。


今日の天気は無事晴れで、お出かけ日和と言える。

駅のホームを行きかう雑踏のなか、スーツに身を包んだ人の割合は1割にも満たない。

これはゴールデンウィークという長期休暇を満喫するものが多いという裏付けではなかろうか。

休日の朝の生息分布について考察を深めつつ、スマホを起動する。

ラインには明里からメッセージが来ていた。


「もう少しで着きます」

「了解。改札前で待ってる」


そう返信し、ベンチから立ち上がる。

どうせ乗る電車は同じなので、その中で合流しても良いのだが、少しでも歩数を稼くため動く。

もちろんただ歩くというのはつまらないので、歩けばポイントがたまるアプリ『ステッピング』をスマホにインストール済みだ。

今日は1万歩目指して頑張ろう。


ホーム内を移動し、愛野駅西口の改札前に到着した。

あとは古暮兄妹が到着するのを待つだけだ。

待ち時間の間、植物園内のレストランをチェックしておこう。



 数分後。改札を傍目にスマホをいじっていると、古暮兄妹が姿を見せた。

和人は標準的なスポーツウエアを身に着けている。いつも似たような格好なので、奇抜な格好じゃなくて一安心だ。

そう観察しながら手を振ると、二人は気づいてこちらに近づいてきた。


「お待たせ」「よう。一か月ぶりだな」


明里は控えめな笑顔、和人は手を挙げて声をかけてくる。


「おはよう。全然待ってないよ。和人は久しぶり」

「おう。元気そうで何よりだ」


和人が頷いて応える。相変わらず元気そうだ。ゲーム仲間兼好敵手(ライバル)には元気でいてもらわないと困る。


「花音ちゃん、今日は動きやすそうな格好で来たんだね。とっても似合ってる」


明里が私の全身を観察し、感想を言う。


「うん。母直伝コーデですが、お気に召してくれて何より」


今日の私は白Tシャツに青ジャージ。下は薄茶色のカーゴパンツと白のスニーカーを履いている。

さすがおしゃれ好きの母というだけあって、私の魅力ステータスは高い値が出ていた。


「明里も似合ってるじゃん。落ち着いた雰囲気がハマってるよ」


そう褒めると、明里は優しく微笑む。ライトグレーの半袖プリーツワンピースがふわりと揺れる。

清楚な印象は服装から来るというより、彼女の大人な立ち居振る舞いから来るのではなかろうか。

周りの連中は『可愛い系美人』の称号を私に押し付ける前に、明里に『清楚系美人』の称号を進呈するべきだ。


「なあ花音」


明里のファッション鑑賞を終わりにして、和人の方に顔を向ける。


「飛び入り参加、許可してくれてサンキューな」


和人が頭を軽く下げる。


「うん。ただし、条件がある」


そう告げると和人は身を一歩引き、考える仕草を見せた。


「飲み物……いや、昼食をおごるとか?」

「違う……けど、和人がそうしたいならそうしてくれてもいいんだよ?」

「あ、えっとすまん。最近本の買いすぎて金欠で、自分の分しか手持ちが」

「おい」


情けないことを言う和人に低い声で突っ込みを入れる。

可愛い可愛い女子二人のお出かけに飛び入りで参加したのだから、それくらいの支払い能力は有しておけよな、高校生男子。

私は内心でため息を吐く。


「すんません花音さん。それで、条件とは……?」

「着いてからのお楽しみ」

「えっと、お手柔らかにお願いしますね」


和人はゴマすりをしながら頭をへこへこ下げる。お前は上司にゴマをする平社員か。

情けない彼は第三者にどう映るのかと隣を見ると、明里がニコニコとほほ笑んでいた。

どうやら私ら二人のやり取りを楽しんでいるらしい。なんだか拍子抜けだ。


「それじゃー行こう」

「うん」「おう」


私は二人を先導してホームを移動する。すぐに乗り場の番線に到着し、間を置かず電車が停車した。

プシューと両扉が開き、電車に乗り込む。電車内はそれほど混んではおらず、手ごろな席に三人並んで座った。

それから電車は数分の間停車し続け、扉が閉まり発車した。


「そういや昼はどこで食べるかって決まってるのか?」


明里を挟んで反対側に座る和人が話しかけてくる。


「植物園内にレストランがニ店あります。どっちかに行こうかなと」

「ほう。違いはあるか?」

「一方は定食屋みたいな雰囲気で安く、もう一方は本格的な料理店みたいでお高めらしい」

「そうか。なら安い方で」

「おいおい」


私は和人に残念な目線を向ける。即答って、そんなに金欠なのかよ。


「多数決を取ります。ちゃんとメニューを見て決める方が良いと思う人」


そう言って私は手を上げ、明里にウインクする。すると彼女はこくりと頷いて挙手してくれた。


「過半数の賛成により、和人の案は却下されました」

「ずるっ!」

「ふん、貧乏人はこれだから……」

「くっ、まあいい。別の質問だ」


和人の言葉に私は目線でどうぞと促す。なんでも答えて進ぜよう。


「植物園ってどれくらいの広さだ? 一日で全部見れるのか?」


ぐぬぬ。植物園の面積だと。インプットの甘いところをつかれてしまった。

とにかく広い。私の通う北東中学校の数倍は確実に広い。

なんと答えたものかと頭を捻っていると、明里が口を開いた。


「甲子園球場6個分くらいで、県で一番広い植物園だそうです」

「ほう、それはまた。さすがに一日で全部は無理そうだな」


球場6個分となると、一辺五百メートルほどあることになる。

ただ単に周回するだけでも、2キロは歩くことになりそうだ。

今日の目標は1万歩であるから、1歩0.75mとすると計2600歩。四周すれば達成可能か。

ちょっと厳しいかもしれないが、何とか頑張りたい。


「まあ、コンプを目指そうとは考えてないから」

「あ、そうなの? 気合入ってるから、フルコンするんかなと思ったんだが」


もし目的地が遊園地となれば、和人の予想は正しいだろう。

しかし、今回は植物園。ほんの数分で終わるアトラクションとは違い、花は種類が多く、鑑賞方法も数えればきりがない。

なので収集・開拓系ゲームにとって最高の栄誉と言えるフルコンプリートを達成することは不可能だ。

無限にある方法のなか、いかなる方法で楽しむかーーそれがイベントクエストに挑むプレイヤーの課題なわけだが、それについては考えがある。

ルール説明は目的地に到着してからにしよう。


「楽しむ方法は考えてあるから、着いたら発表します」

「そうか。わかった」


和人は嬉々とした声で返事をした。ははは、笑っていられるのも今のうちだ。



***


 十数分後。目的地の最寄り駅である種田駅に到着した。

私たちは電車を降り、改札に交通系ICカードをかざしてを通り抜ける。

人の少ない駅内を通り過ぎ、駅の外へ出る。太陽光がまぶしくて目を細めた。


「そこが植物園の入り口か?」


和人が指差す方向には、ネットの画像で見た植物園の入り口らしきものが見える。


「そうみたいだね」

「めっちゃ近いじゃん」


拍子抜けしたような声で和人が感想を漏らす。私もそれには同感する。


「そうですね。アクセスしやすいのは好印象です」


どうやら明里も同意見のようだ。

そしてすぐに植物園の入り口の前までやってくる。私はスマホを出し、ぱしゃりと一枚写真を撮った。


「SNSに上げる用か?」

「いや、記録用。あとで見返すための」


ゲーム画面のスクショはともかく、リアルアバターの写真をネットに上げるなど言語道断である。

学校でもそういう写真を気軽にアップするなと授業があったからね。

明里のように信用できる人じゃないと共有できないのだ。


「そうか。なら、二人のこと撮ってやろうか?」

「珍しく気が利くじゃん。明里、こっちこっち」

「うん」


和人にスマホを渡し、明里と肩を並べる。するとシャンプーの甘い香りが鼻をくすぐった。

まるで花の妖精だーーなんて気を取られていると、少し離れたところから「はいチーズ」と掛け声がしたので、ニッと笑顔を作る。


「いい感じにとれたぞ」

「ふむ、どれどれ」


スマホを受け取り、写真をチェックする。見るとそこには、女子二人のキュートな笑顔があった。


「グッジョブ」


私が親指を立てると、和人は得意げに「だろ?」と応える。

明里が顔を寄せてきたので、画面を見せてやる。


「うん、いい感じ」


明里も満足げに頷いた。


「よし、証拠写真も撮ったことだし、入場券を貰いますか」


友達と外出した証拠写真を閉じる。


「貰う……?」

「うん。中学生以下はタダなのですよ!」

「なにっ! 高校生は?」

「250円」

「マジかー……」


和人ががくりと肩を落とす。

我々と同行したくばマニーを払いたまえ、マニーを。


「250円……思ってたよりは安かったな」

「何円だと思ってたんですか?」


明里がさりげなく和人に聞く。


「千円ぐらい?」

「いや、それはさすがに…」


私はそう言って、和人に呆れた視線を送る。


「植物園は初めて来たから、遊園地的な感覚でいたわ」


それならば仕方ない。相場は知っているもので比較するしかないのだから。

和人と料理の値段当ての某テレビ番組で対戦したら、意外と勝てたりしてね。


「県が運営してるんだから、予測はつけれるでしょ? そんなかからないって」

「あー、そう言われればそうだな」


県が管理しているということは、多少なりとも運営費が入ってくるだろう。それに加え、有名な植物園だから寄付金もかなりありそうだ。

そんな風に思考を巡らせながら券売機に近づく。私達は無料なので並ぶ必要はないのだが、券売機がどんなものか見ておくことにする。

券売機は駅のICチャージ機と似たような構造で、タッチパネル式の画面にチケットの選択画面が出ていた。


=======================================


入園チケット(一日)

一般500円 シニア250円 高校生250円

中学生以下・70歳以上無料


=======================================


和人が高校生の丸枠を押すと支払金額と方法が表示される。

QRコード払いを選択し、スマホをスクリーンの横にあるバーコードリーダーにかざす。

即座に支払いが完了し、チケットと領収書が取り出し口から出てくる。彼がそれを受け取った。


そして私達は植物園の入場ゲート前の列に並ぶ。

どうやら従業員がチケットを目視で確認しているようだ。一応ここで中学生以下は身分証明書を見せる必要があるけど、私達に関しては口頭で申告すれば大丈夫だろう。

チケット確認はスムーズなようで、すぐに順番が回ってきた。

従業員の初老の男性に挨拶する。


「おはようございます、中学生二人です」

「おはよう。はい、パンフレット。楽しんでいってね」

「はい、ありがとうございます!」


元気に返事をしてゲートを通過する。すると目の前に広大な空間が広がった。

だたっ広いコンクリートの道がゲートからまっすぐに伸びていき、大きな噴水へと続いている。


「いい眺めですね」

「おお、これは広いな」


後ろから二人が付いてきて、そんな感想を述べる。


「さて、それで?」


和人が聞いてきた。私はきょろきょろと周りを見回し、右手の方に休憩所らしき建物を見つけたたのでひとまずそこへ向かう。

綺麗に並んであるベンチの一つに腰掛け、パンフレットのQRコードをスマホのカメラで読み込んでマップを表示する。


「それでは説明します」

「待ってました!」


私は公式サイトを開き、植物園で開催中のイベントページを二人に見せる。


「同伴を許可したその条件とはーーこのイベントで勝負することです」

「ほう」


今日開催されているイベントの一つである『妖精探し』。

これは子ども向けの探索イベントで、植物園内に紛れ込んだ複数の妖精を見つけ、その数に応じて景品がもらえるというものだ。

景品は妖精1体ならお花のシールセット1個、3体でシールセット2個、5体で3個となっている。

参加資格は特にない。年齢問わずだれでも参加可能だ。

このイベントを利用して勝負をすることが、和人の同伴を許可する条件というわけだ。


「そう。今日一日このイベントに参加し、見つけた数で勝負をつける」

「わかった。何個か質問があるんだがいいか?」

「詳細を説明するからその後で」

「はいよ」


ここからゲームの詳細説明だ。ゲームのルールや賞品などはっきり決めることが、プロゲーマーになるうえでは重要なことだ。


「対決は午前の部と午後の部。午前の部は開始宣言から12時まで、昼休憩1時間を挟み、午後は1時から4時きっかしまで。対戦者はもちろん私と和人。明里はオブザーバー」

「ふむ」

「勝利条件はより多くの妖精を見つけること。見つけた妖精は都度写真に収めておくこと。もし見つけた妖精が同数だった場合は早く見つけた方の勝ちとする」


二人は頷きながら聞いている。


「ここからは禁止事項。

一つ、妖精の情報収集目的で他人と接触してはならない。オブザーバーも他人とみなす。

一つ、接触した他人に尾行等含め迷惑行為をしてはならない。本イベント参加者と判明した場合は、すぐさま離れること。

一つ、妨害や隠ぺい工作など、相手に不利益を生じさせる行為をしてはならない」

「うむ、なかなか厳しいルールだ」


和人が辛そうな表情をしていた。このルールだとかなり情報が制限されるから、言うことはわかるが、公平な勝負にするためだ。


「これでルール説明終わりだけど、ここまでで質問ある?」

「明里はどう動くんだ?」

「午前は私、午後は和人についてもらう。いいよね明里?」

「うん、問題ないよ」


明里が頷いてくれたので続ける。


「他に質問は?」

「午前・午後どちらかでオブザーバーがいない状態になるが大丈夫か?」

「そこは良心に任せるしかないね。ゲーマー精神に則って、正々堂々勝負すること」

「わかった。不正はしないと誓おうじゃないか」

「それでこそ我がライバル。じゃあ賞品だけど」


和人がおっと目を輝かせる。あまり期待してもらっても困るのだが。


「勝者は敗者のおねがいをなんでも一つ聞く。これでどうだろう?」

「面白い」

「ただし、バイオレンス・セクシャルなことや金銭のやりとりはダメ。法律違反もバツ」


私は両手の人差し指でばってんを作る。


「妥当だろう」

「じゃあ勝負成立ということでいい?」

「おう」


私が差し出す手に和人がタッチした。おっと言いそびれたことがあった。


「もし途中で体調不良とかになった場合はお流れということで」

「はいよ」

「何かあったら明里に連絡して、ジャッジしてもらうこと」

「了解」

「明里も質問はない?」

「ないよ。大丈夫」

「それじゃあ戦闘準備だ。必要な装備を揃えよう」


私はベンチから立ち上がり、近くの自販機売り場まで足を運ぶ。

ミネラルウォーターを購入し、キャップを開けて一口飲んだ。冷たくて美味しい。


「日なたは結構暑いから、水分補給は大事だな」


そう言って和人も同じミネラルウォーターを購入する。明里も後に続いて、同じものを買ったようだ。


「勝負の前に一つ、昼食のことなんだけど」

「うん、なんだ?」

「すぐ近くに高い方のカフェがあるから、メニューを見に行きます」

「ふむ……『北東門カフェ』ってやつだな?」


私は頷いて応える。


「休憩所の隣か。じゃあちょっくら見に行くか」


私達は休憩所を通り過ぎて西に向かう。数十歩も歩かないうちに、目的のカフェについた。

立て看板にメニューが書いてあったので、品定めすることにした。


「ランチメニューは……どれも美味しそうだけど、2500円近くする」


メニューはすべて洋食で、ピザやパスタ、カレーなどがあった。


「一旦保留にしよう」


私は二人にそう提案する。和人はもちろんのこと、明里も首肯した。


「もう一つのカフェなんだけど、中央広場にあるみたいだから、午後の部が終わったらそこに集合ってことでどうかな?」


私は和人にマップを見せ、カフェのの位置を示す。


「『森のカフェ』か」

「そう」

「OK。それで構わない」

「よーし、じゃあ準備はいいね?」

「はいよ」

「午前の部スタート! 行こう明里!」

「うん」


明里の手を取って休憩所の方へ戻る。

そして広い歩道を進み、噴水のところまで歩いていく。


「ふーむ、どこから探すか……」


そう独り言をつぶやきながら、植物園内のマップに目を走らせる。

本来なら隣にいる明里にも相談したいところだが、今回彼女はオブザーバーという立ち位置であるため、プレイヤーである私は干渉してはならない。

体調不良など何かしらのトラブルがあったときは干渉していいが、平時は路傍の石ころと認識しなければならないのだ。


私は今一度気を引き締めて、探索ルートを模索し始めた。


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