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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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116/117

文化祭前日

 10月20日の木曜日。文化祭前日。

文化祭ーーそれは学校行事の中では欠かせないイベントだ。

学園が舞台の物語は、この行事を起用して話を大きく展開させる。文化祭の準備を通して、今まで知らなかった誰かの良い面に気づくこともあれば、共に出し物や出店を回ったりして、目当ての人との距離をグンと縮めるなんてこともあるだろう。


学園ラブコメの王道的展開なら、『ロミオとジュリエット』だとか『シンデレラ』だとか、そういった恋愛ものの劇を文化祭でやることになる。

主人公は劇の主役、ヒロインは劇のヒロイン役に抜擢され、煌びやかな衣装を身にまとい、恥ずかしい台詞を言い合うわけだ。


「なぜ私はこんなにどきどきしているの? これはあくまで芝居なのに……」

「ドレスを着たその姿はまさにお姫様。なんと美しい!」


わーもうお腹いっぱいです! とこうなるのだが、悲しいかな、現実においてそのようなエキサイティングな展開は決して起こり得ないのだ。

何せ俺は帰宅部でもなければ運動部でもなく、文化部。しかも文化部の中心的存在である『文芸部』に所属する高校生なのだ。


体育祭の主役が運動部なのに対して、文化祭の主役は文化部。そして、文化部の中の代表的な存在である文芸部。その文芸部が暇を持て余すことなどあるわけもなく、クラスでゆったりしながらワイワイ楽しく準備を進めることなんてことはできるわけがなかった。


この一ヶ月、展示会で出展する作品作りのため、毎日身を削り、クラスの方にはあまりというより殆ど貢献できなかった。授業時間内での話し合いには参加していたけれど、関わったのはそれぐらいで、放課後が来れば俺の体は強制的に文芸部の部室へと引き寄せられるのであった。


我が県立北高校の文化祭は週末、金・土・日の三日間に渡って開かれる。この学校の文化祭は例年盛大に盛り上がるらしく、今年の見込み客は相当なものになっているらしい。したがって準備期間も三日と、それなりに長い期間に渡る。


文化祭の三日前、すなわち火曜日からは授業が一切無く、正門の前に設置された仮設テント内に設置された出席確認用のデバイスにスマホをかざしたら、会場に直行し、すぐさま会場設営に取り掛かるというのがルーティンとなっていた。

昼休みも会場設営に関する雑用とその他諸々があったため、よそ見する暇もなく、自分の教室に足を踏み入れることはなかった。そもそも一度も1Bの教室の前を通らなかった。よって、漫画喫茶がどうなっているかこの目で確認することは叶わなかった。


さて、我がクラス1Bはどう変貌したのやら。

月曜までの話し合いやクラスのグループラインでのやり取りを見るに、なかなか順調に準備を進めていたようだが、いっさい助力の出来なかった俺は、詳細はおろか、その内装すら全くわかっていない。時間が空いたときに、客として1Bの教室へと出向いてみようと思う。



 王雲祭。

多くの発見と出会いがあるであろう、大々的イベント。学校内だけで執り行われた体育祭とは違って、一般客が沢山訪れるだろう。


この行事のために全校生徒が、勉強も部活も放棄! とまではいかないまでも控えめにして準備してきたのだから、精一杯楽しみたいと誰もが張り切っていることだろう。


一方俺はというとその普遍的な考えをもちろん持っているだが、執筆で体力と精神力が大幅に削られてしまったうえ、提出し終わった後も展示会の準備やらなんやらで忙しかったため、更なる追撃をされてしまい、疲労困憊ーーなかなかに危ない状態に陥っていた。RPGに例えるなら、残りHPが1。ラスボスを倒せたものの、あと一撃食らったらゲームオーバーの瀕死状態だ。


なので俺は今日の夜、もとい文化祭前日の夜、明日登校して文化祭を満喫するための体力を回復するため、比較的早い時間帯にベッドに寝転がっている。


我が文芸部の展示会の準備はおおむね滞りなく行われた。

前から言われていた通り、今まで創作した代表作に加え、展示用の新作の計二作を各部員がそれぞれ出展した。また、百人一首の課題や地域レポートについても問題なくセッティングできた。

自分たちの作品がすべて出揃ったため、準備日に入る前日の月曜日は達成感で満たされていたのだが、「展示会で出展されるのはそれだけではない」と言われたときには、体じゅうの骨という骨が溶けそうになった。

何も、「それだけではない」というのは自分たちの他の作品のことを表しているわけではない。

以前、展示会をやりますと先生の口から初めて聞いたときは、俺たち文芸部の作品のみを展示するのだろうなと思っていたが、なんとそうではなかった。

言い換えれば、この展示会では、文芸部以外の団体からも出展されているということだ。



他の団体からも出展されるというのを、会場設営の初日、すなわち火曜日に聞かされて俺は驚いたが、「自分が創作するわけでないよな」と心底安心し、心もとなかった展示作品の数が増えると考えると、展示会の面白みが増すので快く思えた。


とまあ、いきさつを振り返ってみたが、その間にも刻々と時間が過ぎていくわけで、そろそろ本題に入らなければ。


今からやるのは、文化祭を存分に謳歌するための布石打ちだ。

少し誇大して言ってみたが、それほど大したことではなく、回数に限りがある文化祭という名のお楽しみイベントを誰とともに楽しむか、友人たちと連絡を取って決定しようというものだ。

もし俺が文化部一忙しい文芸部でなければ、三日間を通して最大の幸福を追求しにいけるのだが、そういうわけにはいかない。


各団体との話し合いの結果、文芸部は展示会の見回りを任されることになったのだ。

その一番の理由に、文芸部は部誌販売を行うので、少なくとも一人は会場内にいる必要がある。

文芸部員の人数は言わずもがな、全部で四人いる。半分ずつ分かれて二組のペアになり、午前と午後で交代して教室の見回りを行うことになるのは、ごく自然な流れだ。

一人ずつで良いのでは、と思わないでもなかったが、教室をまるまる一室使ってそこそこ盛大に開かれるし、もしやむを得ず会場から離れる場合も考えられるため、ツーマンセルというのが最適な戦術なのだと今では納得している。サッカーのディフェンスにおいてもツーマンセルは基本の戦術だ。


おっと、少し話が脱線しつつあるので、元に戻ろう。

俺は展示会の見回り兼部誌販売の当番があるため、自由に動けるのは一日目の午後、二日目の午前、三日目の午後のみである。

よって、今からその時間帯が空いている人を見つけ、同行が可能であるかを伺いたいわけである。

俺が持っている連絡先は、十五人ほど。

上級生は霞先輩とみどり先輩、下級生はそもそも自分が一年生なのでなし。また、チャットの頻度がそれなりに高い同級生は、男女合わせてちょうど十人。

普段やっているソシャゲーに比べると随分フレンド数が少ないが、ゲームとリアルは違うのでひとまず置いておき、まず初めに考えることは、対象が特別な役職持ちであるかどうかだ。

文芸部や吹奏楽部などの多忙な文化部、そして文化祭実行委員。それらに属している場合、同行は困難であると思われる。


思考を巡らせる。一、二、三、四……五人!


文芸部のメンバーである(かすみ)先輩、琴吹(ことぶき)さん、栄子(えいこ)の三人。それから、文化祭実行委員の水上と日代(ひしろ)さん。この五人は無理なので、選択肢から排除する。

今段階で残ったのは、七人。男三人、女四人だ。

七人全員に片っ端から声をかけるというのも一つの手ではあるが、効率的でないのでしばし考慮してみよう。


男性陣はライト、(かなで)万和人(まなと)の三人ーーうん、ちょっと無理な気がしてきた。

ライトと奏では入学当初から絶大な人気があったので、前日にどうこうできる相手ではない。これは断言できる。

次に万和人についてだが、万和人はライトたちに比べるとそこまで知名度は上がらなかったが、我がクラス1Bには彼を信頼している人も多く存在する。

彼に対する女子たちの好感度はよく知らないが、決して低いということはないだろう。対して、男子の大半は彼を親切な生徒と認識している。彼の友好的で温厚な性格が、誰に対しても好印象を与える所以である。よって、万和人に対しての前日の予約は厳しいと判断せざるを得ない。


となれば可能性があるのは女性陣だ。

女性陣には東条(とうじょう)さん、中虫壁(なかむしかべ)さん、春百(はるも)、みどり先輩がいる。基本的にどの人とも複数回チャットをしたメンバーである。


まず、中虫壁さんはすでにお目当ての人がいるため、選択肢から外れる。

彼女に初めて会ったのは九月の頭。自分磨きを始めたばかりで、まだお目当ての人に告白できる段階には至っていないため、今回はサッカー部のメンバーみんなと一緒に文化祭をまわることにしたそうだ。


そして、みどり先輩は家庭科部の出し物のシフトがあると事前情報をもらっている。したがって、先輩も候補から外す。


となると残るは春百と東条さんの二人。

もし両方に断られようものなら、俺はゾンビとなって校内を徘徊することに……いやいや、ソロプレイヤーとして秋の季節限定ボーナスクエスト『文化祭散策』に挑まなくてはならない。

年に一度の文化祭をソロプレイするとは、なんて非効率な。決して寂しいなどではないぞ。


せっかくのボーナスイベントなのだ。ただ単に場所を回るだけであれば一人の方が効率的だが、普段手に入らない経験値やアイテムを多く得るためには、誰かと一緒に行動した方がはるかに効率がよいだろう。

三日間をフル活用できないため、時間に制約がある。量より質を求めていきたい。

そのためには同伴者が必要だ。

なのでどうかお願います。このわたくしめに同伴の許可を与えたまえ。


天に祈りを捧げ終えたので、まずは春百から行こう。ラインのアプリを開き、彼女のトーク画面を開いた。


「春百! 明日、デートしようぜ!」


春百の場合は素直にデートと言っても問題はないはず。十分仲がいいから不快に思われることはないだろう。


彼女の返信は比較的速い方だから、ネットサーフィンでもしながら時間を潰そう。


そして数分後。ピロリンと通知音が鳴った。


「デートしようぜって、なんだかな~。まあそれはいいとして、私、部活あるんだよね」

「英語部だよな。詳しく聞いてなかったけど、なんか出し物でもやるんか?」

「うん。展示と出し物の両方をやる予定だよ」

「まさかの両方!? ってことは終日忙しい?」

「シフト制だからそうでもない」


ほう。ならば空いている時間があるわけだ。これはチャンスがあるかもしれない。


「明日空き時間ある?」

「13:00からは空いてるよ」


キッター! ちょうど俺もシフトない時間帯だ。やったぜ!


「奇遇だな。俺もその時間帯空いてるわ。んじゃあ、そこから文化祭終わるまで共闘しよう」

「共闘って、何するの?」

「脱出ゲームとかさ、一緒に楽しめるやつだな」

「なるほど。わかった。付き合ってあげる」

「おお、ありがとうございます! 本当にありがとうございますぅ!」


大事なことなので二回言った。これで少なくとも三日のうち一日はぼっち回避だ! 神様ありがとう。


「そんなに嬉しいの?」

「ああ。文化祭ソロプレイは効率悪いからな」

「和人って……もしかして友達いない?」


失礼な。

別に友達がいないわけではない。皆忙しすぎるせいで、傍からそう見えてしまうのだ。


「皆忙しいんだよ」

「あ、そういうことね」


そこから少し間が空く。なんだか居心地が悪いので、早く返事をしてほしい。


「じゃあ、明日の午後一時集合ね。場所はどうしよっか?」

「混んでないところがいいよな?」

「だね。閉鎖してる教室の前とか?」


終日閉まっている部屋は何か所かある。一番良さそうな場所を挙げてみる。


「PC室はいかがでしょうか?」

「よろしい。そこに決定! じゃ、また明日(。╹ω╹。)」

「はい。明日はよろしくお願いします! ( ̄^ ̄)ゞ」


よし、これで百春とのトークはひとまず終了だ。

二日目、三日目の予定も聞くべきかと思ったが、文化祭を同じ人と三日間回るというのは体裁的にあまり良くないし、そもそもできない可能性が高い。

それに、できるだけ多くの人と交流したいという希望もある。欲張りだと思われるかもしれないが。

というわけで、春百と巡るのは一日目だけにしておこう。



さて、次は東条さんに連絡だ。ラインのトーク画面を開いた。誘いの文章はどうしようかな。


「東条さん。文化祭の二日目、よかったら一緒に見て回らない?」


手短かつ簡潔に済ませたいので、前置きは置かずに誘いの旨を送る。

東条さんはリプライが春百ほど早くないので少し気長に待ってみようと思う。

もし今日リプライが来なくても、明日聞く時間は十分にあるので問題はない。読書でもして三十分くらい待って返答がなければ寝てしまおう。


 それから三十分後。そろそろ寝るかと思ったところで、ピロリンとラインの通知音が鳴った。東条さんからの返答だろうか。トーク画面を開いた。


「ごめん古暮くん。二日目は予定がぎっしり詰まっちゃってて、行けそうにない」

「そっか、残念。なら、三日目でどこか空いてない? 出し物を一個か二個見て回るくらいの時間でいいんだけど」

「ちょっと待ってね」


スケジュールを確認してるな。どうか空いてますように。


「午前は予定が入ってるから厳しくて、午後も予定があるけど、14:00前には終わりそう」


であれば最後の一時間は空きということだな。これはまたしてもチャンス到来!

俺はすかさず誘いをかける。


「じゃあ、最後の一時間だけでも一緒に回らない? お化け屋敷とか」


クラスの出し物を決める際、東条さんはお化け屋敷をやりたいと言った。

そして喫茶店の内容を決める話し合いでは、お化け屋敷風喫茶を提案した。

あれだけお化けを推していたのだから、お化け屋敷に興味があるに違いない。


「科学部の実験とかに行こうかなと」


いつも物理や化学の授業を楽しそうに受けているのは確認済みだ。

ドラマも科学捜査ものを見ているのだから、食いついてくる可能性は高いはず。


「おーいいね! どっちも行きたい」


よし。当たりだ。


「それじゃ、一緒に行こうよ」

「うん」


集合場所はどうするか。行く出し物は決まったので、順番を考える。

最初お化け屋敷……いや、科学部の方がよいな。

確か科学部は時間が区切られてたはず。30分ごとで。


「集合場所だけど、科学部の前でいいかな?」


そう返信し、少し待機する。


「いいよ。先に科学部だね?」

「そうだね。確か時間指定あったはず」

「了解。じゃまた学校で」


シロクマのスタンプ『おやすみなさい』が送られてきた。


「うん。また」


ラインを閉じる。

なんと幸運なことに、東条さんからも同行する許可が下りた。

三日目も予定が入っていると聞いたときはダメかもと思ったが、少し粘ったら、最後の一時間をキープすることができた。


まさか二人から許可が得られるとは思っていなかったので、正直信じられない。

こんな俺に時間を割いてくれるなんて、なんとお礼を言ったらよいか。

三日間すべてに予定を入れることができなかったが、そこそこ満足な結果が得られたと言える。

二日目はソロプレイを楽しむことにしよう。


よし、今日の大目標は達成した。

あとは文化祭のスケジュールの再確認ぐらいだろうか。

以前学校のホームページから入手しておいた王雲祭のプログラムをスマホの画面に表示していく。

各クラスの出し物や各部活動の出し物が表示される。


===

・・・

2-CDEF合同:脱出ゲーム『THE LAST LOG』

1-EF合同:お化け屋敷『精神医療センター 第4病棟』

・・・

演劇部:ミュージカル映画『Wonderful World』

ゲーム研究会(音ゲー部門):リズムゲーム『BEAT MAX』(自作譜面あり)

・・・

===


すでに何度か目を通しているが、何度見ても興味がそそられる。

どれに行こうか非常に迷う。

隅から隅までじっくり読みたいところではあるが、眠くなってきた。

今日は早く寝て、明日に備えることにする。


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