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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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114/117

夏の自由研究その12 最優秀研究成果発表

 週明けの10月17日。六時間目。

先週提出した自由研究の成果報告について、学校アプリに評価結果が届いていた。

評価者は、相変わらず一ノ瀬先生だった。コメントは確か……。


『3人がそれぞれ違う学習方法を取り入れて考察している点は興味深いです。

調査・実践・検証・改善の流れが明確で、学習に関する研究として価値が高いと感じました。

学習法に絶対的な正解は存在しないーー結論にも説得力がありますね。

研究を通して得た知識や経験を活かせる場面は、将来多々あると思います。

今後も学びを継続してください』


結構高い評価を付けてくれたようで、正直驚いた。

夏休み前は、ここまで形になるとは夢にも思わなかった。


学習方法と学習環境などという、超不人気なテーマに協力してくれる人がいるかどうか最初は不安しかなかった。

しかし、日代さんと万和人という心強い仲間ができた。

二人と協力しながら試行錯誤を積み重ねて、その結果が評価された。

嬉しさと達成感で心が満たされるのを感じた。


ちなみに、今日締め切りの文化祭展示用の資料も、すでに提出を終えている。

成果報告用のスライドをベースにしながら、展示向けにレイアウトを調整したものだ。

これについても、ほとんど万和人が作業を進めてくれた。

俺と日代さんは内容確認と細かい修正をした程度で、提出作業自体はかなりスムーズだった。


そして今日の授業ではいよいよ、自由研究の優秀研究発表の日だ。

一年生全員が第一・第二講義室に集まっている。

俺たち三人のいる第二講義室の中は、文化祭前らしいざわめきに包まれていた。


発表内容を予想している者。

友人と雑談している者。

スマホをいじっている者。


俺たちは中央付近の席に並んで座っていた。


「なんか緊張するな」


万和人が小さく呟く。


「別に俺たちが発表するわけじゃないけどね」


俺が返すと、


「でも気になるだろ。どこが選ばれたのか」


確かにそうだ。日代さんも静かに頷く。


「結構頑張ったグループ多そうだったしね」


そう話していると、前方のスクリーンが点灯した。

少し遅れて、倉石先生が前へ出る。


「静かにー。じゃあ始めるぞ」


軽く手を叩きながら、倉石先生が話し始める。


「今年の自由研究は、全体的にかなりレベルが高かったです」


講義室が少し静かになる。


「傾向として、実際に試して検証するタイプの研究が多かったですね。調べ学習だけじゃなく、データを取ったり比較したりしてるグループが大半でした」


数学教師らしい総括だ。論理性や検証を重視している感じがする。


「その中でも、特に完成度が高かった2グループの研究成果を発表してもらいます。

それでは対象のグループの皆さんは登壇してください」


そう言われて、他クラスの男女4人が前に出る。

先生が手元で何か作業した後、マイクに向かう。


「まずは第一講義室のグループからです」


ーーバスケットボールに応用できるスポーツ科学ーー


スクリーンにタイトルが表示される。

あれ、もしかしてこのテーマって……。


「俺たちは、バスケットボールのパフォーマンス向上にスポーツ科学を応用できないか研究しました」


聞き慣れた声。やっぱりライトたちだった。

画面にはジャンプ測定やシュート成功率の比較データが表示されていた。


「睡眠時間、疲労、食事、フォームなどを検証し、実際に練習メニューも改善しました」


スライドが切り替わり、奏の声がする。

フォーム比較画像や練習記録が映し出された。


「特に効果が大きかったのは、動画を使ったフォーム確認です」


黒井が補足する。


「自分では気づけない癖がかなり見つかりました」


さらに白鳥が、


「感覚だけじゃなくてデータ化したことで、改善点を言語化することができました」


と締めた。


短い発表だったが、かなりまとまっていた。


実用性が非常に高い。ライトが「やるなら役立つ研究だろ」と言っていたことを思い出す。

発表後、講義室全体から自然と拍手が起こった。

俺たちも拍手を送る。文句なしの結果だ。


続いて二組目。次は俺たちのいる第二講義室の方だ。

スクリーンに表示されたタイトルは、


ーー嘘ーー


たったの漢字一文字。一瞬講義室がざわついた。

代表の女子生徒が口を開く。


「私たちは、人はなぜ嘘をつくのかをテーマに研究しました」


スライドにはアンケート結果や簡単な統計資料が表示される。


「嘘にも種類があって、自分を守るための嘘、空気を壊さないための嘘、相手を気遣う嘘などがありました」


続いて男子生徒が話す。


「あと、SNSだと現実より自分を盛る傾向も確認できました」


別の女子生徒が、


「嘘は悪いものって単純に言い切れない部分があるのも面白かったです」


と続けた。最後に代表の女子生徒が締める。


「嘘は信頼を壊すこともあります。でも、人間関係を円滑にするために必要な場面もあるという結論になりました」


かなり文系寄りだが、発想として面白い。


ライトたちとは方向性が全く違う。考察中心で心理分析寄りの内容だ。

それでもちゃんとした研究として成立させているのが深く印象的だった。


二組の発表が終わると、講義室には大きな拍手が広がった。


そして倉石先生が再び前へ出る。


「なお、他にも最後まで優秀候補として残った研究があります」


スクリーンが切り替わる。


・購買部の行列を減らす方法について

・高校生の睡眠とスマホ利用時間の関係

・学習方法と学習環境


複数の研究タイトルが表示され、その中に俺たちの研究テーマがあった。


「これらもかなり完成度が高かったです」


先生が続ける。


「特に『高校生の睡眠とスマホ利用時間の関係』『学習環境と学習方法』は、継続的な検証と改善が丁寧に行われていました」


隣で万和人が息を呑んだ。俺はスクリーンを見つめながら内心思う。

優秀候補ということはおそらく、他の先生たちにも見られた可能性が高い。

最優秀には届かなかったが、十分健闘したと言える。

倉石先生はスクリーンを見渡しながら続ける。


「今回の自由研究は、文化祭期間中に展示されます。来場者投票も実施するので、ぜひ他のグループの研究も見て回ってください」


講義室の空気が少しだけ和らぐ。


「以前お伝えしましたが、文化祭の投票で得票数トップ2のグループは、学校総会で全校生徒の前で発表してもらいます」


そういえばそんなことも言っていたな。忘れていた。

万が一にも俺たちの研究に票が入ることはないだろうから、そこは大丈夫だろう。

俺たちの自由研究は実質、今日で完全に終わりということだ。


「皆さん、お疲れさまでした」


そう締めくくると、講義室全体から拍手が起こった。


夏の自由研究は、思っていたよりもずっと本格的だった。

最初はここまで大きなイベントだとは思っていなかった。

適当に終わらせようと考えていた生徒もきっと多かったのではないか。

でも蓋を開けてみれば、皆それぞれのテーマに真剣に向き合っていたように見える。


「では、解散です。教室に戻ってください」


先生の指示で、生徒たちが席を立ち始める。

俺たち三人も廊下へ出た。


文化祭前ということもあり、校内はいつもより浮足立っている。

生徒数人が段ボールや何かしらの資材を運んでいた。


「まさか、優秀候補とは思わなかった」


歩きながら万和人が言う。


「ホントだね。先生ウケがよいテーマだったからかな?」


日代さんが笑う。


「確かに。それはある」


俺も頷いた。

最優秀を逃した悔しいという思いは全然ない。

候補に上がったことに驚くばかりだ。


俺たちのテーマに比べ、ライトたちの研究は実践的で完成度が高かったし、『嘘』の研究は嘘を『善悪』じゃなく、『機能』として分析しており面白かった。

どちらも選ばれるのが納得できる内容だった。


「ライトたちの研究、めっちゃレベル高くなかったか?」


万和人が感心したように言う。俺は口を開く。


「動画分析とか?」

「そう。かなり本格的だったよな?」


万和人がそう問いかけると、日代さんが会話に入る。


「確かに中島くんたちの研究はすごかったけど、大事なのは自分たちの研究に満足できたかじゃないかな?」

「ああ、それはそうだね」


日代さんの指摘は鋭い。

おそらくこの自由研究の趣旨は、興味のあることを調べて学びを得ることだ。

本来は他人と競うより、自分なりの発見を得るためのものなのだと思う。


「俺はまあ、なんだかんだで満足してるよ」


万和人がぼそっと言う。


「私もいい経験になった」


日代さんも柔らかく頷く。


「俺も同じで、いろいろ学べて成長できたと思う」


俺は窓の外を見上げた。


学習に絶対の正解はない。

試行錯誤を重ねれば、人は少しずつ前へ進める。

この研究を通して、それだけは確かに分かった。


達成感とこれからの期待を胸に、俺たちは教室に戻った。

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