新バンドメンバー勧誘 その2
今日は10月14日の金曜日。
部活帰りに廊下を歩きながら、ふとナノハのバンドメンバー募集のことを考える。
手伝い始めて一週間が経過したわけだが、掲示板の通知は……ゼロ。反応は皆無だ。
知り合いは全滅。そして、軽音部を始めとして他人に声をかけてみたがすべて空振り。
二週間、文化祭準備の合間に動いてみたが、なかなか一筋縄ではいかないものだ。
やれることは、全部やったつもりだ。
ナノハのために動いた時間を無駄だったとは決して思わない。
ふと、彼女の言葉を思い出す。
――待ってるだけじゃなくて、見せたいんだよね。
最近のナノハは、吹っ切れたようで、芯の定まった姿は魅力的に映る。
少しでも彼女の力になれればーーそんな思いから行動してみたものの、芳しい結果は得られなかった。
正直、不甲斐ない。
このまま集まらなければ、ナノハはラブと二人で芸能高校の文化祭に望むことになる。
きっと、2ピースバンドでもライブを成功させることは可能だ。
その様子を、ただ観客席から見ているだけで本当にいいのだろうか。
……そんなわけ、ないだろ。
***
夜。机に向かっていると、スマホを手に取る。
メッセージを打つ。
『今、電話できる?』
数秒後、既読がついた。
『できるよ』
すぐに通話をかける。
『もしもし』
ナノハの声がする。少しだけ間を置いて、口を開く。
「メン募の件、結論から言うな」
『うん』
「まだ見つかってない」
短く、はっきり。
言ったあとで、少しだけ息を吐く。
「学校の掲示板に応募出したし、軽音部とか知り合いとか、他にもいろんな人に当たってはみたけど」
できることは全部やった。
「ダメだった」
沈黙が訪れる。電話越しに、空気が静まった。
『そっか』
短い一言。責める感じはない。
それが逆に、ちくりと心に刺さった。
「ごめんな」
自然と言葉が出た。
『なんで謝るの?』
すぐに不思議そうな声色で返ってくる。
「頼まれてたことだし」
『でも、できることをやってくれたんでしょ?』
「まあそうだが」
『じゃあ、何も文句はないよ』
あっさりしている。
でも、その裏は信頼が隠されていると感じる。
少しだけ肩の力が抜けた。
そこで一度会話を止め、考える。
このままだと本番はどうするのか。もう二週間しかない。
メンバーが増えたとしても、練習時間が確保できるのか。
揃って文化祭に出られるかどうかは微妙なところだ。
ーーだったら。
「なあ」
「うん?」
少しだけ間を置く。
「文化祭ライブだけど、俺を臨時メンバーに加えてくれないか?」
そう言ったあと、静かになった。
それは数秒だったが、思ったより長く感じる。
『……和人が?』
少しだけ驚いた声。
「役立たずのまま終わりたくないし、近くでサポートしたいんだ」
俺は素直な気持ちを言う。
ナノハの求める演奏レベルに届くかは分からない。
でも、頑張っている彼女を助けるには、これが一番だと判断した。
『そっか』
小さく返事がある。生まれた沈黙は、きっと考えているのだろう。
決して強いるつもりはない。
あくまで提案であり、断られるなら今まで通りの距離を保つだけだ。
『じゃあ、お願いしよっかな』
「おう。任せろ」
短く答える。それで十分だった。
『ふふ、頼もしい』
少しだけ柔らかい声がした。
その様子に安心しつつ、身を引き締める。
「文化祭まで、あと二週間だよな?」
『うん』
「時間ないな」
『だね』
でも、その声に焦りはあまりない。
むしろ、前を向いているようだ。
「とりあえず曲はどうするんだ?」
『一曲はオリジナルで、もう曲は完成してる』
即答だった。
「そうか。どんな内容だ?」
『今の自分のための曲』
なるほど。彼女の心の内を書いた曲か。
返事をして、他の曲について聞いてみる。
「他の曲は?」
『MiraizとMioのカバー曲を1曲ずつやる予定』
どちらも馴染み深いアイドルで安心した。
「OK。あとで譜面か曲のデータ送ってくれるか?」
ナノハから「わかった」と了承が来る。
『じゃあ、ひとまず今日はこれで切るね』
「うん。じゃあ」
『おやすみ』
通話が切れる。スマホを机に置いて、背もたれに体を預ける。
文化祭まで二週間。
臨時メンバーとして加わることが決まった。
正直なところ、万全な状態に持っていけると断言はできない。
ーーけれど。
小さく息を吐く。
彼女の音楽を、未来へと広げていくために。
観客じゃなくて、一番近くで支える者として。
やれることをやろう。




