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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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112/117

文化祭2週間前

 10月6日の木曜日。

クラスの出し物、漫画喫茶の準備は順調に進んでいるみたいだ。文化祭でもし時間があるのなら、1Bの教室でゆっくり過ごすのも良さそうだ。


一方文芸部は一つの教室を借りて、展示会をやることになっている。

今まで作ってきた作品に加え、学校や地域についてまとめたものを大きな紙に印刷して展示する予定だ。そしてさらに、部誌も発行することになっている。


文化祭は二週間後。

日を重ねるごとにクラスメイトたちは浮き足立っていくが、文芸部員である俺は、『シメキリ』という名の怪物に迫られているため、日々不安と焦燥に駆られている。誰でもいいから時間操作魔法『加速(アクセラレーション)』を俺に向けて唱えてくれ……。


殆ど身が入らない授業を終え、俺は琴吹さんとともに部室へと向かっていた。


「琴吹さんは小説、もう完成した?」

「はい、大体は終わりました。後は、細かいところに少し手を加えるくらいですね」


琴吹さんは微笑みながら応えた。

ほぼ完成か。まあ聞く前からそうなんだろうなと察してはいたけれど……。

仕事が早い人に聞くもんじゃないな。自分からダメージを食らいに行くとか、なんて愚かなんだ。


「早いね。俺なんか、詩なのにはまだ半分くらいしか終わってない……」


弱気になりながら、自分の現状を報告した。何か文句言われそうだから先生には報告したくない。足取りが重いよ。


「え、そうなんですか?」

「うん……」

「少し急いだほうがいいかもしれませんね」

「そうだね……」


そんな感じで琴吹さんと展示用作品の進捗具合について話していると、すぐに文芸部の部室へと到着した。



「こんにちは」


 中に入ると、部室には先輩と栄子がすでにいた。俺たちは軽く挨拶を交わして、それぞれ席についた。


「皆、お疲れ様! 元気?」


いつもの席でふうと一息吐くと、一ノ瀬先生がドアを勢いよく開けて部室に入ってきた。


「こんにちは。まあまあです」


無難な挨拶をし、先生の様子を伺う。おそらく俺たちの課題の進捗を聞きに来たのだろう。


「みんな、小説や詩はどこまで進んでるかな?」


先生は微笑みで威圧しながら、俺の予想したことをズバリと聞いてきた。全然嬉しくない。


「私は完成しました」


霞先輩は自信満々といった様子で、さらりと答えた。先輩はやり慣れているから、完成が早いのは当然だろうな。


「ほう、それは良かった。さすが霞ちゃん」


先輩を褒め称えたあと、先生は胸の前でパシッと手を合わせて、俺たちに目を向けた。


「ほんで、そっちは? 順調に進んどるか?」


先生は手のひらをこちらに向けながら、大阪のおっさんみたい喋り方で問うてきた。

妙にプレッシャーかかるんで、急に喋り方変えんといてください。


「私は文章は書き終わっていて、残るは推敲のみです」


琴吹さんは一番に言った。なかなか勇気があるな。


「ふむふむ。琴吹さんは大丈夫そうっと」


先生は頷くと、次に栄子に目を向けた。


「私は8割くらいできてます」


栄子は控えめな声で続いた。仲間がいたと喜んでいる場合ではない。


「俺も同じくらいです」


俺は彼女に便乗した。半分しか終わっていないとは口が裂けても言えない。


「ほうほう」


すると、先生はそうかそうかと何度か頷いて、


「遅くとも来週月曜日。それまでにきっちりケリをつけて持ってきてね」


と念を押してきた。まるで裏社会のようで、俺は得も言われぬ恐怖を感じた。


「「はい」」


そろって返事をするのは俺と栄子だ。


「じゃあ、私からは以上。あとは君たちに任せます!」


目的を果たしたようで、ボスもとい先生はそそくさと部室から退出していった。

先生は俺たちが作品を書き終えた後で、その文章の内容確認とか添削とか、それ以外にもやらなきゃいけことが山のようにあるだろうから、念を押してくるのも当然のこと。

教師に休みはほとんどないと聞くが、まず間違いなくそうだろう。


「また速攻で退出しましたね」

「そうね。ここ最近は忙しいみたいよ」

「それじゃ、部活始めます?」


俺が聞くと先輩は首を縦に振り、他のニ人に声をかけた。すると、栄子や琴吹さんが頷き、席の近くまでやってきた。


「じゃあ、レポートの進捗を確認します。順番にどのくらい調べたのか教えてもらえるかしら? 資料などあれば併せて見せてちょうだい」


先輩は全体に向けてそう言うと、まずは琴吹さんの方を向いた。


「ええっと」


琴吹さんは自分の番だと悟ると、調べてきたことを書いてきたであろう用紙を鞄から取り出して見せた。


「私はこんな感じです」


量はそんなに多くない。数枚といった程度だ。

先輩は出されたプリントを手に取ると、何も言わずにじっくりとそれを読み始めた。

それから数分間、先輩は真剣な表情でプリントを読み続けていたが、ついに目を離すと、うんと頷いて「結構詳しく調べてあるわね」と良好の意を示した。

琴吹さんは与えられた役割をしっかりこなすので、当然のこと。しかしそれができる人は案外多くない、と誰に言うでもなく保険をかけておく。


「うん。大まかな内容はこれで良いけど、少し加筆すべき箇所があるわ」


先輩はプリントを見ながら、足りない部分を指摘した。

琴吹さんはそこですねと頷きながら、プリントを見返していった。


「それじゃあ次、篠原さんはどうかしら?」


そう言われると、栄子はカバンからプリントを取り出し、先輩にそれを渡した。こちらも数枚程度だ。


「結構書けてるわね」


先輩はプリントを見るなり驚きの声を上げた。

それに対し、栄子は「はい」と当然のように返事をした。

栄子もこれでいてやるときはやるタイプなのか。

いつもはダメだけど映画になるとかっこよくなる奴。

まさか彼女に主人公気質があったとは……。


それから数十秒、先輩はただプリントを眺めていたが、やっと読み終わったようで、足りない部分や修正して欲しい箇所を指摘し始めた。

やはり完璧というわけではないか。

栄子は頷きながら、先輩が改善すべきだという箇所に印をつけていった。


そして最後に、俺の番が来た。


「えっと、こんな感じです」


先輩はさっきと同じ流れで、プリントを受け取り、じっくりと眺めてから、ふむと頷いた。


「この部分が分かりずらいわね、まとめ直して。それから……」 


褒められるかと思ったが、先輩は複数の箇所をリクエストをしてきた。

俺は多少面食らったが、俺自身リサーチ不足だと思っていたので、そこまでのダメージではない。


先輩から次々に指摘されるが、俺は一つ一つそれらをチェックしていき、後で手直しが出来るようにした。改善点がみるみるうちに浮上してきたな。


「……まあ、このくらいかしらね」


先輩はプリントから目を離して、満足げに言った。


「何か質問はある?」

「はい。ここなんですけど……」


それから、先輩に指摘された点や自分が気になる点などについて質問するうちに、時間が刻々と過ぎていった。



***

「はぁー」「ふぅ」


 レポートが一段落してため息をもらすと、隣の席に座る霞先輩が同時にため息を吐いていた。


「あら、被ったわね」

「ですね」


霞先輩もお疲れのご様子。その原因が俺ではないことを祈る。


「じゃあ、今日はこのくらいにしましょう」


先輩は体勢を整えると、皆に向かってそう提言した。俺は真っ先に「そうしましょう」と応えて帰り支度を始めた。琴吹さんや栄子も各々返事をして、カバンに書類を詰め込んでいった。


部室を出た後は皆に挨拶して別れ、すぐさま帰宅した。


手直しやら付け加えるやらと、やらなければならないことがさらに増えた。

締め切りまであと一週間しかない。今まで以上に頑張らないと。



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