ナノハからの協力依頼
10月初旬のとある日の夜。部屋で宿題を終えるとスマホが震えた。
画面を見る。ナノハからのチャットか。
連絡が来るのは、久しぶりだ。
ラインのトーク画面を開く。
『ちょっと相談いい?』
短い一文が書かれている。
もしかしてバンド募集のことだろうか。
俺は軽く息を吐いて、返信を打つ。
『いいよ。どうした?』
既読がつくのは早かった。
『今、電話できる?』
少しだけ間を置いてから、「ok」と返す。
すぐに着信が来た。
『もしもし』
聞き慣れた声。けれど今日は少しだけ張りがない気がする。
「どうした?」
単刀直入に聞く。
少しだけ間があってから、
『メンバー、全然集まらなくてさ』
やっぱりか、と思う。
『一人だけ来てくれたんだけど、方向性が合わなくて』
「そうか……」
応募はあったはいいが、合わずに別れてしまったのか。
それは残念なことだ。
『それでさ』
声がほんの少しだけ強くなる。
『このままだと宣伝が足りない気がして』
そこまで聞いて、少しだけ姿勢を正した。
『文化祭、出ることにした』
一瞬迷い、意味を理解する。
「文化祭って……ナノハの高校の?」
『うん。芸能高校の。エントリー締切が迫ってたから、エントリーしといた』
さらっと言ってのけるが、いくつか問題があるのではないか。
「メンバーは揃ってないのにか?」
『だからこそだよ』
少しだけ、沈黙が落ちる。
電話越しでも分かるくらい、まっすぐな意思を感じた。
『待ってるだけじゃなくて、私はこういう音楽をやりたいって見せたいの』
なるほど。人前に身を晒すことで、見つけてもらうって寸法か。
それは悪くない考えだ。やるべきだと思う。
やる気になった彼女はきっと止まらない。
「で、俺に相談ってのは?」
聞くと、ほんの少しだけ言い淀む気配がした。
『知り合いとかで、誰か興味ありそうな人いたら、声かけてもらいたいなと思って』
遠慮がちな口調だが、別に断る理由もない。
「ああ分かった。当たれるだけ当たってみる」
そう言うと、少しだけ間があって、
『ほんと?』
声が、少しだけ明るくなった。
「あまり期待はしないでな」
うまくいくと約束はできない。何せ人脈は少ないからな。
でも、これを機会に他の生徒と話してみるのもありだろう。
『わかった』
苦笑が返ってくる。
「それでーー」
少しだけ考えてから、続ける。
「そっちの文化祭はいつやるんだ?」
『月末の土日』
「あんまり時間ないな」
今から約三週間後か。思ったより猶予はない。
『うん』
その声は思いの外落ちていない。
「とりあえず、俺も動いてみる」
『ありがと』
間髪入れずに返ってくる。
軽いけど、ちゃんと重みのある言い方だった。
『じゃあ、また』
その声を聞いて通話が終了する。
スマホを机に置いて、天井を見上げる。
芸能高校の文化祭まで、残るはあと一ヶ月。
それまでにメンバーが集まるかは、非常に怪しいところだ。
もし集まらなかったらどうなるのだろう。
二人でライブをやるのだろうか。
バッキングトラックを使えばできないことはないけれど。
……俺がサポートとして入るのもありか。
いや、今そこを心配しても始まらないか。
まずは知り合いに声をかけてみよう。
ナノハが前に進もうとしてるなら、応援しない手はない。




