表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
PR
103/117

運動公園でランニング

 10月2日の日曜日。午前中。

空は高く、秋らしい澄んだ青が広がっている。

少し気温が上がり、風もやわらかい。


家から南西方向に4km。自転車を走らせて、運動公園の駐輪所に到着した。

入り口の門から広い敷地内に入る。

ランニングコースや芝生広場、テニスコートが点在している。


休日らしく、人の姿も多い。

家族連れ、ジョギングする人、他校の運動部らしき集団。

にぎやかな空気の中で、先日のことを回想する。


日曜日の朝、東条さんと河川敷でランニングをした。

たわいない雑談を交わして、楽しい時間を過ごすことができた。

その帰り際にまた誘うと伝えた。


翌日に次の祝日は空いているか尋ねたところ、新人戦に出場するから厳しいと断られてしまった。

そのため、この2週間はお誘いを控えた。


そして今日に至る。

大会が終わったとのことで、一緒にランニングをすることになった。

ちなみに、大会の詳しい結果は聞いていない。


「お待たせ」


振り向くと、東条さんが軽く手を上げていた。

前回と同じくジャージ姿だが、昼の光の中だと少し印象が違う。


「いや、俺も今来たとこ」

「そっか。よかった」


東条さんが自然な笑みを見せる。


「じゃあ、軽く一周する?」

「いいよ。行こう」


二人で並んで走り出す。


舗装されたランニングコースは緩やかにカーブしていて、景色が少しずつ変わる。


木陰に入ると、風が気持ちいい。


「東条さん、そういえば新人戦の結果ってどうだったの?」


俺が切り出すと、東条さんは少しだけ考えてから答えた。


「個人戦で――シングルは準優勝だった」

「え、すご」

「優勝逃したから、悔しい」

「そっか」


息を合わせながら走る。


「ダブルスも出たんだけど、そっちは二回戦負け」

「へえ、意外。もう少し行けるものだと思ってたよ」

「ペアとの連携がまだ詰めきれてない感じで」


 淡々とした言い方だけど、少しだけ悔しさが混じっている。


「そっか。個の力が十分でもダメか」


東条さんは「ううん」と首を振る。


「私個人の技量もまだまだだよ。シングル準優勝だし」

「自分に厳しいね」

「古暮くんだってそうでしょ?」

「俺はもう引退してるから、気楽なもんだよ」

「なら現役の時」


東条さんが前を向いたまま言う。


「まあ厳しい方だったかもね」

「やっぱり」


納得される。


「辛いことを乗り越えた先に、楽しいことが待っているみたいな考え?」

「うん。まさに」


俺は大げさに頷いた。


***


 一周目を終えて、少しペースを落とす。


「そういえば」


東条さんがちらっとこっちを見る。


「この前話してたドラマ、見た?」


「ああ、“Nexus Forensic Lab”?」


俺の返事に東条さんが軽く頷く。


「シーズン1全部見た」

「早っ」


少し驚いた顔をする。オタクを舐めてもらっては困る。


「気になって一気見した」

「どうだった?」


少しだけ身を乗り出すような声。


「かなり面白かった」

「でしょ?」

「科学捜査の描写がめっちゃリアルだよね」


東条さんはうんうんと頷く。


「あと、舞台がちょっと近未来っぽい」

「そうだね。AIの普及具合が現実よりそこそこ進んでるよね」


そのコメントに同意する。

アンドロインドはまだだが、自立型AIがかなり普及している。


「ナノセンサーとか実用化されそうだし」

「わかる」


テンポよく会話が続く。

一人で見るよりも、こうやって誰かと話すほうが楽しいかもしれない。


***


 コース脇の自販機の前で足を止める。


「ちょっと休憩する?」

「そうしよう」


スポーツドリンクを二本買う。 一本は東条さんに渡す。

ベンチに座ると、ほんのり汗ばんだ体に風が心地いい。


「私、普段あんまり昼に走らないけど、たまには悪くないね」


東条さんが缶を軽く揺らしながら言う。


「まあ、朝や夕方とは違う魅力があるかもね」

「そうだね。賑やかしがほしいときとかはいいね」

「確かに」


少しの沈黙。でも気まずさは全くなくて、むしろ心地いいと感じる。


「……古暮くんさ」

「ん?」

「こういうのって、慣れてる?」


あいまいな質問に困惑する。

休日の昼に走ることか。それとも、誰かと過ごすことだろうか。


「誰かと走るの」


質問がその意図ならば、素直に答える。


「いや、全然ないよ」


最近は。中学ではあったけど、ここ半年近くはその機会はめっきりなくなった。


「そっか」


それだけ言って、東条さんは前を向く。

その視線がどこへ向いているのかはわからなかった。


***


「そういえば、文化祭ってもうすぐだね」


 先日のホームルームで、出し物は喫茶店に決まった。


「うん。結局やるのは喫茶店だっけ?」

「うん」


並んで走りながら、自然と会話が続く。


「東条さん、お化け屋敷じゃなくて不満?」

「うーん。そこそこ不満」


少しだけ残念そうに笑う。


「あっでも、喫茶店もいいかも。どういうコンセプトにするかで結構変わるだろうし」

「ああ、確かに」


内装や雰囲気でいくらでも色が出せる。


「古暮くんは、何系がいいと思う?」

「落ち着いた感じがいいかな」

「うんうん」

「ゆったり読書できる……漫画喫茶とかどうだろう」


ふと口に出す。


「いいんじゃない、それ」


東条さんの声が少し明るくなる。


「あまり労力をかけなくてもいいんじゃないかって。初めての文化祭だしさ」

「なるほど」


軽く頷いてくれる。

真剣に意見を言ってみたものの、そもそも自分は文芸部の活動が優先だろうから、クラスに参加できるか怪しいところだ。


「一理ある。でもさ、難しいものに挑戦してみるものありなんじゃないかな」


ほう、聞こうじゃないか。


「まだ一年で、あと2回はチャンスがあるわけだし、やりたいことをトライして、ダメだったら次に活かすっていう考えをしてもいいんじゃないかなって」

「それもありだね」


俺は首肯する。その考えも決して間違いではない。


「じゃあ、お化け屋敷風喫茶とかどうかな?」

「なるほど。そう来るか」


本家から分家じゃないけど、変化球で来たな。


「みんなでお化けの恰好をしてさ」

「……なんかハロウィンを想像した」


そう考えると、意外と悪くない。ちょうど10月だし前哨戦をするのもいいかもしれない。


「そっか、それだとハロウィンに被っちゃうか」

「いや、別に被っても問題ないと思うけど」

「それもそうだね」


年中行事はいろいろあるが、ハロウィンを本格的に祝っている日本人は多くはないと予想する。だから、文化祭でお化けの恰好をしても全く問題はない。


「まあ次のホームルームで言ってみたらいいと思うよ。最終的な判断は多数決だろうし」

「だね」


そこから会話が途切れ、少しの間、足音だけが続く。


「東条さんは文化祭当日って忙しい?」

「うーん、どうかな。忙しくなるかも」

「そっか」


傾向的に運動部は暇だと思うが、個々によるからな。

東条さんは充実した文化祭を過ごしそうだ。


「古暮くんは?」

「俺は文芸部があるから、そこそこかな」


正直に答える。少しだけ間。


「そっか。出し物とかあるの?」

「うん。展示会だね」

「そっか。じゃあ、もし空き時間があったら見に行ってみようかな」


軽い口調で言われる。


「えっと、よければどうぞ」


自分の作品が見られる可能性を察し、ぎこちなく返事をする。

東条さんはふっと笑った。


***


 走り終えて、公園の入口まで戻る。


「今日はこのへんで解散しよう」

「うん。いい運動になった」


東条さんが息を整えて満足げに答える。


「また誘ってもいいかな?」

「もちろん」


短い会話。でも、前より少しだけ距離が近い。


「じゃ」

「うん、バイバーイ」


手を軽く上げて別れる。


部活、ドラマ。そして文化祭。

今日はより深く話をすることができた。

振り返ると走っていた時間よりも、話していた時間のほうが印象に残っているな。

東条さんはしっかり意見を持っていて、話も面白い。

また休日に誘ってみよう。

次はランニングじゃなくて、他のことをしてみるのもありかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ