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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生2学期
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新バンドメンバー募集 その1

 九月下旬のある日。

夏の余熱がまだ残る夕方、私は家の自室でタブレット端末の画面を睨んでいた。


「……書けた?」


隣に座るラブが身を乗り出してくる。


「うん、一応」


深呼吸して、もう一度イラストを確認する。


夕焼け色の中で、マイクを握って歌う女の子。

視線はまっすぐ前へ――誰かに向けるように。


線は少しラフで、光はやわらかく滲んでいる。

背景の人影はぼかして、輪郭だけ。


右下に、小さく手書きで言葉を添えた。


――バンドメンバー募集。

高校生限定。

――想いを届ける音楽を、一緒に。


画面を見たまま、ラブが小さく笑った。


「ナノハっぽいね」

「そうかな」

「うん。ちゃんと伝わると思う」


その一言で、少しだけ肩の力が抜ける。


「じゃあ、出すよ」


親指を動かす。

投稿ボタンを押す瞬間、ほんの一瞬だけ躊躇した。


――本当に集まるのか。

――また同じことになるんじゃないか。


頭をよぎる不安を振り払って、私は押した。


「よし、投稿完了」

「送っちゃったね」


ラブがスマホを覗き込みながら言う。


「これ、バズったりして」

「それはないって」


苦笑する。

でも、心のどこかで少しだけ期待している自分もいた。


ラブから励ましを受けて再発起を決意してから、できることは全部やったつもりだ。

手始めに学校の掲示板に募集ポスターを貼った。

それから、友達や学校のクラスメイト、軽音部、吹奏楽部の生徒に声をかける。

「いい人いたら紹介して」と、何人かには頼んでおいた。


Green Boxはもちろんのこと、ツテのある駅前のライブハウスにも立ち寄り、事情を話してフライヤーを置かせてもらった。


「頑張って」


知り合いから励ましのメッセージをもらい、妙に嬉しかった。


***


 その週末。

私とラブは、愛表駅西口前の路上に立っていた。


「……ほんとにやるの?」


ギターケースを足元に置いたまま、ラブが小声で言う。


「やるって決めたでしょ」

「そうだけどさ」


通行人の視線が、少しだけ痛い。


「許可も取ったんだし」


そう説得しながら、私はギターを構えた。


「一曲だけでもいいから」


新調したピックで弦を弾く。音が夜の空気に溶けていく。


最初は足を止める人はいない。

でも、臆せず自由に歌い続け、最後のサビに差し掛かった頃。


一人。たった一人だけど、立ち止まる影があった。


ーー私の歌はちゃんと届いてる。


そう思えただけで、胸の奥が温かくなった。


***


 それから数日。

バンドのメンバー募集を始めてから、SNSの通知は全然来きていなかった。

インスタのいいねは、ぽつぽつ増えてきて、フォロワーも少しだけ増えた。


でも、


「応募来ないねー」


ラブがぽつりと呟く。


「うん」


分かっていた。

簡単じゃないことくらい。


それでも、どこかで期待していた分、静けさが重く感じる。


「まあ、始めたばっかりだしね」

「だね」


そう言いながら、私はスマホを伏せた。


焦りがないと言えば嘘になる。


でも、止まるわけにはいかない。


***


 さらに三日後。10月はもうすぐだ。

ベッドに寝転んでスマホを眺めていると、画面がふっと光った。


ーーインスタにDM通知。


一瞬、呼吸が止まる。そして、ゆっくりとタップする。


『メンバー募集の投稿見ました』


短い一文に、心臓が強く打つ。続きを開く。


『高校二年です。ベースやってます。もしよければ、一度お話しできませんか?』


思わず、体を起こした。


「ラブ!」


反射的にラインで電話をかける。


『どしたー?』

「来たよ」

『え、まさかーー』

「応募、来た」


一拍。


『ほんと!?』

「うん、今」


自分でもわかるくらい、声が少し上ずっている。


『ついにかー』


ラブの声も弾んでいた。


「1個上の先輩でベースだって」

『ちょうど欲しかったポジションじゃん』


画面を見つめる。


まだ名前も顔も知らない相手。

でも、その一通で世界が少しだけ動いた気がした。


「会ってみようと思うんだけど」

『どこで? グリボ?』

「まだ決めてない。とりあえず、いつ会えるか聞いてみるね」

『オッケー。じゃあまた』


通話を切る。


やることは決まった。


期待と不安が、同時に膨らんでいく。


でも。


今はそれが、ちゃんと前に進んでいる証拠だと思えた。

もう一度、DM画面を見る。希望が湧いてくる。

胸の奥の火は徐々に強さを増している。

ただ一つだけ確かなことーー私はもう止まらない。


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