第25話 Side カーミラ 着替えの時間
お昼ご飯を食べ終えた私たちはルミアと別れ、昼からの授業を受けるべく隊装服を持って更衣室へと向かった。
女子の更衣室は男子とは別になっているようで、入り口でミハエルたちとも別れることになった。
私たちが女子更衣室に入ると、既に着替えを行っている女の子がいた。
綺麗な金髪を上手に結びまとめ、メガネをかけた顔からは真面目さと凛々しさが感じられる。背は私より少し低いくらいだけど、胸は大きすぎず小さすぎず、すらっとした身体からはだらしのなさが一切見当たらない。まるでルミアのようにテキパキと着替える手際のよさは、まさにできる大人っていう感じだった。
その様子をじっと見ていると、女の子はどこか居心地が悪そうにぶすっとした視線を向けてくる。
「何ですか。私の方をじっと見て」
「ん、上手に着替えるなと思って」
「からかっているんですか?このくらい誰にだってできます」
「できなくてごめんなさい・・・」
何だか分からないけど怒らせてしまったみたい。
このくらい誰にでもできます・・・か。私も言ってみたいな。
自分が格好よくてきぱき着替えているところを妄想してみた。
お姉ちゃん凄い!とルミアが抱き着いてくるところを優しく受け止め、「このくらい誰にだってできるよ(キリッ!)」と私はルミアの耳元で凛々しく呟く。
いい・・・すごくいい。
「落ち込んだと思ったらいきなり恍惚な表情を浮かべてちょっと怖いわよ・・・。確かあなたは同じクラスの人だったわね」
幸せになっている私を無視してレアは女の子に話しかけはじめた。
「はい、エリシア・ウェルトハイムです」
「そう、知ってるとは思うけど、あたくしはレア。それからこっちはカーミラよ・・・カーミラ、涎は拭きなさい」
「ん」
どうやら無意識のうちに涎が出ていたらしい。私は涎を手で拭うと二人の方へと向きなおした。
「エリシアね。あたくしのことはレアでいいわ。これからよろしくね」
「よろしくお願いします。王女と知己になれて光栄です。それではレア様、と呼ばせていただきます」
「ええ、それでさっそくなのだけど着替えを手伝ってもらいたいのよ」
「畏まりました」
エリシアはレアの服に手をかけようとするが、その前にレアが手でそれを遮る。
「いえ、あたくしではなくて、カーミラの着替えを、ね」
「は?」
エリシアは困惑の表情を浮かべ、私の方へと訝しげに目を向けた。
「平民・・・という話だったけど、実はどこかのお嬢様なの?」
私はふるふると首を振ってすぐに否定する。
「これから長い付き合いになるだろうから言うけど、カーミラは戦い以外何にもできないから」
「・・・どういうことですか?」
「自分で着替えることもできないし、料理もできないし、掃除もできないし、洗濯もできなし、文字も読めないし、勉強もできないし、難しい話も分からない。寮にいる間はこの子の妹が面倒を見ているのだけれど、学園にいる間はあなたが面倒を見てあげてくれないかしら?」
「・・・それは私にカーミラさんの介護をしろ、ということですか?」
「ダメかしら?」
「お断りします。私にはそんな時間はありません」
「もちろんタダでなんて言わないわ」
「侍女の真似事をして金銭を得ようとは思いません」
「お金で引き受けてもらえるなんて思っていないわ、ウェルトハイム女伯爵。カーミラの身体でどうかしら?」
「・・・私の身体?」
私の身体をどうするんだろう。もしかして手とか取られたりするんだろうか。想像しただけでとても痛そうだ・・・。
恐る恐るエリシアの顔を覗きこんでみると、口元に手を添え何やら考え込んでいるようだった。
そしてそのままの姿勢で考え込んだまま口を開く。
「二つ・・・いえ、三つ条件があります」
「なかなかに欲深い女ね。気に入ったわ」
エリシアは顔を上げると指を一本ずつ立てながら条件をあげていった。
「一つ、カーミラさんが学園に在籍中、私の領地に暴獣が出現したときには討伐に参加していただきたい」
「ん、私はいいけど」
「あたくしの政務に影響がない限り構わないわ」
「二つ、授業の時間外にも剣の訓練相手になっていただきたい」
「ん」
「それも問題ないわね」
「三つ、これはそちらの申し出と被る部分もありますが、クラス内の部隊編成に私も入れていただきたい」
「騎士クラスには部隊編成なんてあるの?」
「ええ、学園外の実習訓練は集団行動や部隊連携を学ぶため、部隊単位で行われるそうです」
「なるほどね。確かに男どもの中に女一人じゃ色々と困ることもあるでしょうね」
「いいえ、女の身で騎士を志した時点でその覚悟はついています。ただ他のクラスメイトと組むよりカーミラさんと組んだ方が、より高い結果を出すことができると思ったからです。もちろん私は無能ではないつもりなので、強者のおこぼれをもらうだけの立場を甘んじるつもりはありませんが」
「その申し出はこちらとしても願ったり叶ったりね。カーミラもそれで構わないわよね?」
「ん」
よく分からないけどとりあえず頷いておくことにする。分からなかったら多分聞きなおしても分からないのでルミアとレアの言うことはとりあえず頷くようにしている。
「それじゃあ、さっそく着替えさせてもらいましょう・・・カーミラが」
「・・・お願いします」
「分かりました。てきぱきいきますよ」
エリシアは言葉のとおりてきぱきと私の服を脱がせていく。やっぱりエリシアもルミアと同じように器用だ。
でもなんだろうこの気持ちは。エリシアに着替えさせてもらってると何だかルミアに対してすごく申し訳なくなってくる。
エリシアに着替えさせてもらったことはルミアには誤魔化そうかな・・・。他の人に着替えさせてもらってごめんね。お姉ちゃんルミアが一番だから。
「あの・・・カーミラさん」
「何?」
「いきなり涙を流しはじめてどうしたんですか?」
「気にしないで・・・」
「・・・それがよさそうですね。はい、終わりました」
「ありがとう、私のことはカーミラでいいよ」
「分かりました。これから3年間よろしくお願いします。カーミラ」
「ん、よろしく。エリシア」
私たちが着替えた隊装服は確かに動きやすかった。
上半身は前が膝くらいまで伸びた白いシャツに白い薄手のジャケットを重ね、ジャケットの胸元は大きく開いている。下は下着の上に下着よりも生地が厚い黒色のショーツを履き、前の大きく開いたスカートのようなものを腰の辺りで止めている。
でもこれ、シャツとスカートの間からショーツが見えるんじゃないかな。
そのことをレアに聞いてみると・・・。
「これはショーツじゃないの。武留魔と言って、見られても恥ずかしくないこの武留魔を履くことで戦いの中でも集中を乱さず、武術と魔術の腕前を留めることができるようになっているのよ」
「・・・・・・え。見られても恥ずかしくないの?」
「だってショーツじゃないもの」
「エリシアも?」
「はい、ショーツじゃありませんから」
「・・・・・・そうなんだ」
この武留魔という物はもし隙間から見られても恥ずかしくないらしい。
・・・・・・ルミアの部屋着にいいかも。
「さて、それじゃあ訓練場へ行きましょうか」
そんな私のいけない妄想をよそに、私たち3人は更衣室を後にした。




