表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された薬師令嬢は、辺境で毒見役にされたはずが王弟殿下の命を救ってしまいました  作者: はてなるあてな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/50

第35話「名簿の赤い印は、次に消す者を選んでいました」

名簿の赤い印は、小さかった。


けれど、そこに押された人は消される。


少なくとも、黒帳の側はそう考えている。


ミレーヌ。


ユリウス。


王妃宮の下働きが三人。


第二王子宮の小姓が一人。


国境商人町の宿の女将にも、薄い赤がついていた。


私は紙をめくる手を止めた。


「宿の女将まで」


「銀の蛇の女を見たからか」


ハロルドが言う。


「はい。名前を聞かれた者、顔を見た者、薬を運んだ者が並んでいます」


エルネスト殿下の声が冷えた。


「全員を保護する」


「王妃宮と第二王子宮に、同時に兵を入れることになります」


グラント卿が言った。


「反発は出ます」


「出させておけ」


殿下は迷わなかった。


「反発する者の名も記録する」


私は名簿の端を見た。


赤い印の横に、細い記号がある。


薬の種類ではない。


場所の記号だ。


ミレーヌの横には、銀扉。


ユリウスの横には、ルヴェ倉。


宿の女将の横には、北門。


「消す場所を決めています」


ラーニャが嫌そうに息を吐いた。


「人を荷物みたいに」


「荷物より悪いです。荷物なら数を合わせます。これは、声を消す表です」


私は自分の名を見た。


保留。


記録手として確保。


赤い印はない。


だから安全ではない。


別の使い道があるだけだ。


「リゼット」


エルネスト殿下が私を呼んだ。


「その紙から目を離せ」


「大丈夫です」


「大丈夫な顔ではない」


私は息を吸った。


言い返すより先に、指が震えていることに気づいた。


怒りではない。


怖いのだ。


自分が狙われることより、私が書いた記録が誰かを傷つける道具にされることが。


「記録は、人を守るために書いています」


声がかすれた。


「奪われたくありません」


殿下はすぐに答えなかった。


それから、机の上に自分の印章を置いた。


「なら、私の名で封じる。君の記録は君だけのものではなく、王弟府の公的記録にする。奪えば、私への攻撃になる」


ハロルドが頷く。


「写しを四つ作ります。王弟府、グラント卿、陛下、辺境砦」


「辺境にも?」


「はい」


ハロルドは静かに言った。


「黒帳は中央だけで消すと考えています。辺境に写しがあれば、消しきれません」


ニナの顔が浮かんだ。


辺境薬室の机。


震える手で時刻まで書いた彼女。


あの場所へ、写しを戻す。


それだけで、少し呼吸が楽になった。


ラーニャが隠し通路から戻ってきた。


「女は逃げた。第二王子宮の衣装倉から外へ出たらしい。ただ、落とし物がある」


彼女が差し出したのは、細い鎖だった。


銀ではない。


黒く塗られた鉄。


鎖の先に、小さな鍵。


持ち手には蛇ではなく、王冠でも薬壺でもない印。


三つの小さな星。


ハロルドの顔色が変わった。


「星三つは、王太后宮の古い印です」


王太后宮。


また、古い名前が出た。


今の王妃宮より奥。


先王の時代から残る、宮中で最も触れにくい場所。


エルネスト殿下の目が細くなる。


「黒帳の主を王太后宮に置くには、まだ証拠が足りない」


「はい」


私は鍵を布で包んだ。


「でも、銀の蛇の女はそこへ出入りできる」


断定しない。


けれど、逃がさない。


名簿の赤い印に戻る。


「まず、赤い印の人を守ります。次に、この鍵が開ける場所を探します」


グラント卿がすぐに命令を書いた。


ミレーヌを保護。


ユリウスの護衛増員。


国境商人町の宿の女将を王弟府名で保護。


王妃宮と第二王子宮の赤印対象を別室へ移す。


命令が紙になっていく。


紙は、人を消すためにも使われる。


でも、人を守るためにも使える。


私はそのことを忘れたくなかった。


夕方、陛下へ報告が上がった。


陛下は黒帳の分冊を見て、長く黙った。


「私の近くで、これほどの道が作られていたか」


エルネスト殿下が頭を下げる。


「まだ主の名はありません」


「名がなくとも、道はある」


陛下は私を見た。


「リゼット・アルヴェーン。そなたの記録を王命で保護する」


私は深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


「礼は要らぬ。守らねばならぬのはこちらだ」


その言葉に、胸の奥が熱くなった。


だが、安心するには早い。


夜になり、辺境砦へ送る写しを封じていると、ハロルドが急ぎ足で入ってきた。


「殿下。赤印の一人、第二王子宮の小姓が消えました」


エルネスト殿下が立ち上がる。


「いつ」


「保護命令が届く直前です。部屋には、これが」


ハロルドが差し出した紙片には、短い文があった。


「星の鍵を返せ。さもなくば、次は記録手」


私の名は書かれていない。


それでも、誰のことか分かる。


名簿の赤い印は、次に消す者を選んでいた。


そして黒帳の側は、私を記録手として名指しし始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ