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42 期末試験(2)・打ち上げ

「リンドウ、その姿はいったい……」

「……僕が聞きたいです……」

 街へ出るとなれば――張り切りだしたのがノエルだ。お洒落は必須、とノエルの部屋に引き込まれ、あっというまに飾り立てられてしまった。

 ノエルとシュカは、そこまで背格好が変わらない。ノエルのクロゼットから、レディースのトラウザーズとブラウス、ジレが引っ張り出され、気付けばメイクまで施されていた。

 男女ともにメイクをする国だとはいえ、この仕上がりは予想外だった。男性とも女性ともつかない姿は、ちぐはぐには映らないだろうか――

「シュカ~似合ってるよ! 中性的な魅力が引き立ってる! 流石わたし~」

 ノエルは一仕事終えたとばかりに胸を張っている。

「ああ、ほんとうに似合っているよ、シュカ」

「またシュカ君の魅力が増えてしまった……」

 ユーリとディーはなにを着ていても形式的に褒めてくれるものだから、始末に負えない。ルークの反応が正常だろう。

「リンドウ……もしかして君は、女性、か?」

 物珍しさからかシュカの様子を観察していたルークが、おそるおそる訊ねてくる。

「――ええ、まあ。一応」

 今は幻術をかけていない。流石にばれたのだろう。ルークならば知られても特に問題はない筈、とシュカは肯定する。

「それは、これまで気付かずすまなかった。数々の失礼な発言を謝罪させてほしい」

 ノエルとの仲を疑っていたことを云っているのだろうか。幼馴染みとしては心配だったに違いないから、特に失礼だとも思っていなかった。

「いえ、意図的に隠していたのは僕ですから。お気になさらず」

「感謝する」

 どこまでも真面目な男だ。

「さ、それじゃあ行こうか!」

 ディーの一声で、一同は街へ向かうことになった。

 ユーリはディーとの行きつけの店へと案内してくれた。金曜日ということもあり、店は賑わっていた。そこまで格式張っているわけでもなく、低俗さもない、ほどよい雰囲気がユーリの注意を引いたのだろうことはすぐにわかった。

「今夜は無礼講だ。なんでも好きなものを頼んでくれ!」

「ありがたく存じます」

「もう、ルークったら堅い~ユーリ君はそういうの好きじゃないよ!」

「ノエル、お前までそんなことを云いだして……」

 ルークは相変わらずだったが、ノエルがそんなルークを小突く。

「あはは、ふたりはほんと仲いいねえ。幼馴染みなんだっけ?」

 気安いふたりを見て、早速ディーが口を挟んだ。

「ただの腐れ縁だ」

 ルークはふて腐れたように云うが、彼がこんなにも心を許しているのはノエルだけだろうことが察せられ、シュカは微笑ましくなった。

「全員ドリンクは揃ったかな? それでは、試験おつかれさま。乾杯!」

 ユーリの音頭で、打ち上げははじまった。

 はじめは和やかな空気が流れていたのだが、アルコールが回ってくると、俄に雲行きがあやしくなってくる。

「――ねえ、シュカ。すきな子とか、いる?」

「……え?」

 ワイングラス片手に上目遣いで此方を見てくるノエルに、シュカは困惑する。

「ひゅう~恋バナだ! いいねいいね、青春って感じ!」

 それを囃し立てるのがディーだ。

「ノエルのことはすきですよ。ユーリやディーも。ルークさんのことも、もっと知れたらいいなと思っています」

「……そうじゃなくて!」

 ノエルが頰を膨らませた。

「?」

 いったいなんだと云うのだろう。

「恋はしてる?」

「こい?」

「ノエルちゃんは恋愛のことを聞きたいんだよね」

「そう、恋愛!」

「れんあい?」

「なんでそんな初めて聞いたみたいな顔するの! かわいいけど!」

 聞き慣れない言葉に、シュカはつい首を傾げてしまう。

 此方の盛り上がりに気付いたのか、歓談していた筈のユーリやルークもシュカに視線を注いできた。

「なんだ、恋バナかい? 学生という感じでいいね!」

 ユーリが目を輝かせる。学生らしさというものに変に憧れているユーリは、耳を傾ける気満々のようだった。

「そう云われましても……僕は恋愛というものをしたことがありませんし……」

「ええ、そうなの? じゃあ、男の子が好き? 女の子が好き?」

 うまく回避したと思ったのに、ノエルがたたみかけてくる。

「……ええと、僕の出身のセレン帝国では異性愛が主流だったので、性別がどうとか考えたことがありませんでした」

「そっかあ……」

 ノエルが肩を落とす。

「オレの勘だけど、シュカ君は性別とか関係なさそうだよね。あんまり性別意識がないみたいだし」

 なにやら強い酒を嗜んでいるディーが声を上げる。顔色は変わらないが、酔っているのだろうか。

「そうなのですか? ディーが云うならそうなのかもしれませんね」

「いや、自分のことは自分で考えようよ!」

 ディーがすかさず突っ込みを入れてくるが、なにやらノエルの顔が耀きだした。

「シュカ……! 男の子じゃなくてもいいなって思ったら教えてほしい!」

「え? はい、わかりました」

「ノエル、お前、まさか――」

 静かにモクテルを呑んでいたルークが、そんなノエルの様子を見てなにかを悟ったような顔をする。そうして天を仰いだのだった。

「そういうディーはどうなのですか?」

 自分ばかりがやり玉に上がるのが厭で、こんなときにも飄々としているディーに話題を振る。

「え、それ聞いちゃう? オレはモテるからなあ~」

「そうだったのか、知らなかったよ! 結婚するときには教えてほしい。盛大に祝うからね!」

 もったいぶったように云うディーに、今度はユーリが驚きを見せる。

「いや、気が早いって。ていうか結婚はしないと思うし」

「遊びなのかい?」

「んんーそれを云われるとなあ」

「はえー、ディー君ってモテるんだねえ。なんかわかる気がするけど」

 ノエルがそんなディーを見て感想をもらす。

「ノエルはどうなのですか?」

「え、わたし?!」

 完全に観戦側に回っていたノエルは、シュカの問いかけに心臓を跳ねさせた。

「あー……えっと、気になる子はいる、かな」

「そうなのですね! どんなひとなのですか?」

「えええ! うーん、そうだなあ。ひとりでなんでもできちゃうけど、どこか危ういところもあるから、手を伸ばしたくなっちゃう子、かなあ」

 ノエルが顔を赤らめながら答える。それがたいへんかわいらしくて、シュカまで赤面しそうになった。

「素敵なひとなのでしょうけど……ノエルに恋人ができたらさみしくなりますね」

「え、それってどういう……!」

「あれ~ユーリ君、おねむ? ワイン呑むとすぐ回っちゃうみたいだから気をつけてねって云ってあったでしょ!」

「うーん、ディー。ディーが結婚したら私はどうすればいいんだ」

「え?」

「さみしくなる」

 そう云って、ユーリはディーの腰に両腕を回した。完全に逃がさない恰好である。

「ちょーっと気が早いかな~結婚しないから、大丈夫だから!」

「そうだ、シュカと結婚したらいいんじゃないかい? そうしたら三人でずっといっしょにいられる」

「あ、っと、いまそれは禁句というか」

「えーシュカ、ディー君と結婚するならわたしとしようよ! 幸せにするよ?」

 ノエルがシュカをぎゅうと抱きしめてくる。完全に酔っ払いの仕種だった。

「くるし……いえ、だれとも結婚しませんから! というか気になる方がいらっしゃったのでは? ちょっとルークさん、見てないで助けてください」

「すまんが巻き込まれたくない」

 ルークはひとりだけ涼しげな顔をして、周囲の惨状を観察している。

 そうして酔っ払いふたりをどうにか宥め、一同は帰路についたのだった。

 酔いを醒ますために、帰りは歩くことになった。街中から学院までは三十分ほどだ。酔い醒ましにはちょうどよい距離だ。

「シュカ、手、つなご?」

 ノエルがシュカの右手を取る。ノエルはアルコールのせいか目を潤ませていて、たいへん庇護欲をそそった。ただでさえ見目麗しいのだ、たいていの人間は断れないだろう。

「仕様がないですね」

 手をつなぐと、ノエルはうれしそうな笑みを見せた。そんな顔をされると、悪い気はしない。

「わあ、いちゃいちゃしてるー! オレもユーリ君と手つないじゃうもんねー」

「いいのかい? はは、なんだか子供みたいだ」

「どう、ルーク君、羨ましい?」

 ディーはユーリとつないだ手を上げ、ルークに見せつける。

「初等部の子供じゃあるまいし、なにをしているんだ。これだから酔っ払いは」

 ルークはため息をついているが、すこしばかり羨ましそうな顔をしているように見えた。

 寮の分かれ道にくると、ノエルがさみしいさみしいと抱きついてくる。

「また月曜日に会えるでしょう?」

「そうだけどーさみしいものはさみしいの!」

「はいはい」

「あー本気にしてない!」

「そんなことはありませんよ」

 酔っ払いは面倒だ――それを学んだシュカであった。

 ついに見かねたのか、ルークがノエルをシュカから引き剥がし、ふたりはそれぞれの寮へと戻っていった。

「はあ、アルコールとは厄介なものですね」

「……ほんとにねー」

 ディーは相変わらずユーリと手をつないだままで、遠い目をしている。

「シュカ、私とも手をつなごう!」

「……酔っ払いがここにも……」

「はは、シュカ君、つないであげてよ。ユーリ君は強引だよ?」

「はいはい……」

 そうして諦めたシュカがユーリに手を伸ばすと、ユーリはうれしそうにシュカの手を取った。

「ずっと三人で、こうしていられたらいいな」

「……そうですね」

 ユーリのささやかな願いに、シュカは微笑みを零す。

 そうだ、そうなるといい――そのために自分は、宮廷魔術師候補選抜試験を受けたのだから――

 空には、満月がうつくしく耀いていた。

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