4 交流会(2)
森は、学院の北の方角に位置していた。広大で、終わりが見えない。普段は訓練や研究などの目的で使用されているらしい。
生徒たちは、みな緊張したような面持ちで森を見渡していた。配布されたものは、方位磁針と地図のみ。それだけで森の最奥を目指せと云われているのだ、緊張して当然だった。
「それでは、これより交流会を開始します。制限時間は三時間です。各自時間管理は怠らないように」
「みんな、気をつけてね!」
先生方に見送られ、三人一組に分かれた魔術科の生徒たちは散らばっていった。
「さて、私たちも行こう。森には中等部の授業で何度か入ったことがある。最奥まで行ったことはないけれど……まあ、なんとかなるだろう」
ユーリが先陣を切って歩きだした。
「中等部時代、懐かしいねえ。森の入り口のほうで演習をしてたはずなのに何故か迷子になったユーリ君を探すのが大変だったよ」
ディーが不安になるようなことを口にする。
――果たして、ユーリを先頭にしてよかったのだろうか――
「ユーリ君、逆逆。こっちね」
さっそく反対側へ向かうユーリを、ディーが連れ戻す。世話係というわけか。
シュカは一抹の不安を覚えながらも、ふたりに追従した。
「シュカ、足元に気をつけて。ペースが早かったら云ってくれ」
「お気遣いありがとうございます」
「わ、泥濘んでるな。シュカ君、背負ろうか?」
「――お気遣いなく」
三十分ほどは、そんな調子で森のなかを歩んでいた。
問題なのは、其処からだった。
「ディー、川があるぞ」
「川があるねえ、ユーリ君」
ふたりは顔を見合わせると、突然靴を脱ぎだしたのだ。
それにはシュカもぎょっとして、思わず声をかけてしまう。
「……なにをしているのですか?」
ユーリはボトムスの裾を捲りあげながら、此方を向いた。
その顔は、海をはじめて見た子供のように耀いている。
「勿論、魚を捕るんだ!」
シュカはつい真顔になってしまう。
このひとはなにを云っているんだ?
「川といったら魚だろう? 魔力に満ちた森の魚は美味なんだ」
「うまいよ、捕ってあげるから待っててね」
ふたりはシュカの返事を聞きもせず、川へと足を踏み入れていた。
ぱしゃぱしゃと水飛沫を上げる様子が眩しい――わけもなく、シュカはすでに諦めの境地に達していた。
「はあ……」
このひとたちは、好奇心のみで動いているのだ。占い師の正体を暴かれたときもそうだった。その思考回路を論理的に説明しようとすることは不可能なのである。
シュカはハンカチーフを敷いて、川辺の草地に腰を下ろした。
そうして、はしゃぐふたりを虚無の眼差しで見つめる。こうなれば、彼らが満足するまで付き合うほかなかった。
ユーリとディーは、順々に魚を仕留めていく。その手さばきは見事で、確実に以前もやらかしたのであろうことが想像できた。
「はあー捕った捕った」
「ああ、大漁だな」
「でも三人だとこんなに食べきれないか。ちょっと放流する?」
「そうだな。捕りすぎもよくない。あとは凍らせて――よし、これでいいだろう」
「お見事!」
「どうやって火をおこそうか。火の魔術をもってる人間がいれば楽だったんだが……」
「俺に任せて。アウトドアは得意なんだ」
「流石はディー! なんでもできるね。任せた」
しばらくして川辺に上がってきたふたりは、真面目な顔で今後の算段をつけている。
どうやらほんとうに食べるようだった。
「それはなんだい、ディー?」
「火付け石ってやつさ。こんなこともあろうかと持ってきたんだ」
ディーがマジックポケット――さまざまなものをコンパクトに収納できる革袋のような魔道具――からとりだした石に用意周到さを感じる。もはやはじめからやらかす気だったとしか思えなかった。
「ユーリ君、シュカ君、枯れ枝を集めてもらえる? ――そうだな、こんな感じの」
そう云って、ディーは乾いた枝を見せてくる。
ユーリは応と返事をすると、さっそく動き出した。
シュカは渋々立ち上がる。こうなれば、早いところ遂行して、本来の目的を思い出してもらうしかない。
枯れ枝をある程度集めると、ディーは火付け石で見事に火をおこしてみせた。そして枝に刺した魚を手慣れた様子で焼いていく。
「うん、そろそろいいかな。はい、シュカ君、いちばん大きいのどうぞ」
「……どうも」
ちいさいもので構わなかったのだが、気遣いには礼を云うべきだろう。シュカは思考を放棄していた。




