3 交流会(1)
シュカは憂鬱だった。
「おはよう、シュカ」
「……おはようございます、ユーリ」
それは主に、平穏な学院生活を送る筈だったシュカの前に突如現れたこの男――王位第三継承者、ユリウス・アッシュヴィルド――ユーリのせいであった。
朝の教室には、すでに多くの生徒が登校してきている。そのなかでも目立つ存在であるユーリに、近づいてきてほしくはなかったのだが――
「おはよう、シュカ君」
「おはようございます。……あの、囲まないでもらえますか」
すべての元凶であるユーリと、その友人、ディーは、あろうことかシュカを真ん中に左右の席に座ってきたのだ。
思わず笑顔の仮面が剥がれ真顔になってしまう。ほかの生徒たちの視線がちらちらと注がれるのがわかり、憂鬱な気分は加速していく。
「だって君、いまにも逃げ出しそうな顔をしているから、つい」
左隣に座るユーリは頬杖をついて俯き気味のシュカの顔を覗き込んでくる。
「……そうですね。わかっているなら近くに座らないでください」
「シュカ君たら冷たい! せっかく“お友達”になったんだから、ね?」
一方、右隣に腰を下ろしたディーもユーリの真似をしてか、同じように顔を覗き込んできて、鬱陶しいことこのうえなかった。
思わず冷えた笑みを浮かべてしまったのも仕様がないことだろう。
「それに、今日は“交流会”じゃないか。せっかく組を作るなら一緒にやろう」
ユーリはしたり顔で語る。
そう、本日は授業がなく、“交流会”が開催される。交流会とは、高等部に進学した一年生が学科ごとに交流を深めるために行われるイベントだった。
内容はまだ知らされていないのだが、何故組を作ることを知っているのか――ああ、そういえば、王族なんて初等部からの進学組なのだろうから、ある程度内容を知っていて当然か――
シュカがそう結論づけたところで、先生たちが入室してくる。
魔術概論を担当しているハートフォード先生、実践魔術担当のハミルトン先生、そして教養科目を幅広く担当するクレセント先生だった。
「みなさん静粛に。これより、本日の交流会についての説明を行います。危険もつきまといますから、心して聞くように」
はじめに口を開いたのは、ハートフォード先生だ。年の頃は三十代半ば――神経質な印象が強く、生徒たちには敬遠されている。
「エド、そんなんじゃ生徒が怖がるでしょう? そんなに緊張しなくてもいいからね。リーザ先生が優しく教えてあげるからね!」
実践魔術のハミルトン先生は、優しげな女性だ。噂によるとハートフォード先生と学院の同期だったらしいが、彼に比べおそろしく若く見えるため、真相は定かではない。
「危険がないよう先生たちが見守っているから、安心して」
そして、クレセント先生が付け加える。如何にも好青年という風貌で、生徒からの人気も高いようだ。
三人が壇上に揃うと、生徒たちは口を閉ざす。基本的に王立学院に通う生徒たちはエリートだ。そう騒ぎ立てるような者はいなかった。
ハートフォード先生は、ひとつ頷くと説明を始める。
「まずは、三人一組でチームを作ってください。そのメンバーで、学院内の森に入り、最奥の大樹から精霊を連れ帰ってもらいます。これが本日の課題の概要です」
「森には大学の魔物研究室のひとたちによって集められた魔物もいます。魔力は弱められているけど、油断は禁物。組を作るときには、攻撃系――水氷火風の系統の魔術を使える生徒を一人は入れるようにしてね! 闇と光の系統の子たちは無理しないように!」
「安全に配慮して、各所に結界が張られているから、なにか危険な状況に陥った場合は使うように。そんなことにならないように先生たちが遠隔で見張っているから、そんなに心配しなくてもいいけれど」
生徒たちが顔を見合わせる。組み分けや任務の遂行には、ある程度コミュニケーションをとる必要がありそうだった。尤も、それが狙いなのだろうが――
「シュカは水と光の系統の魔術を使うだろう? 私は氷、ディーは闇だからぴったりだと思うんだ」
ユーリがぴんと人差し指を立てる。
たしかに、組み分けとしては問題なさそうだった。
「……何故僕の魔術系統をご存じなのですか」
二系統の魔術を使える者は少なく、目立つため、授業中は水の魔術のみを使用するようにしていた。
「それは勿論、占い師の正体を探る過程で推測したんだ。水と光を組み合わせると幻術が使えるのだろう? 高度な魔術のようだから、調べるのに手間がかかったよ」
「……」
そうだった。この男は、“占い師”の正体を知っているのだ。魔術系統も知られていて当然だった。
「まあまあ、いまから相手を探すより、オレたちと組んだらいいんじゃない?」
ディーが横やりを入れてくる。たしかに、周りを見回すと、すでにチームが作られつつあった。
仕方がない。シュカはため息をつきそうになるのを堪え、笑みを浮かべた。
「――そうですね。よろしくお願いします」




