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2 出会い(2)

   ***


「どうだったの?」

 教室の後ろの席を陣取るディードリヒ・ナイツェンが、ユリウスに訊ねる。

「なんだか、不思議な感じがしたな。摑めないような」

 ユリウスは席に着きながら、真ん中ほどの席に座るシュカ・リンドウを見遣る。教科書を熱心に眺めているようだ。真面目なのだろうか。微笑みを浮かべてはいたが、他人とはどこか一線を引いているような人物だった。

 ユリウスはあの日、自分の秘密の数々を云い当てた占い師の正体を探ることに決めた。

 彼――シュカ・リンドウを占い師の正体と見ているため接触したわけだが、うまいこと誤魔化されてしまった。

「摑めないだなんて、キミに云われたくないと思うけどな」

「ディーも探ってみてくれないかい?」

「はいはい。相変わらず好奇心旺盛ですねえ。仰せのままに」

「その云い方、嫌だ」

「はーい。敬語嫌いは相変わらずだねえ。まったく、変わってる」

 ディードリヒはけらけら笑った。


 それから数日後のことだ。ユリウスとディードリヒの意見は一致した。

「やはり、シュカ・リンドウの可能性が高いと思う」

「オレもそう思うよ。占い師は今年度に入ってから出現した。そこそこの金を取るため一般組の小遣い稼ぎだろうね。高度な幻術の使い手で、その姿は謎に包まれている。中等部までにそんな生徒はいなかったから、高等部からの入学組に違いない」

「私も同意見だ。魔術科は一学年三十人程度だしな。絞るのは容易い」

「それで、どうするの? 本人に問い詰める?」

「証拠がない以上、躱されるのがオチだろう」

「じゃあどうする――って、悪巧みしてる顔だ」

 ユリウスは表情が変わらないということに定評があるのだが、この友人は何故か彼の考えがわかるらしい。

「放課後、占いの営業時間に、シュカ・リンドウの寮室に侵入してみよう」

 ユリウスの提案に、ディードリヒは顔を顰める。

「それは、ちょっと……犯罪では?」

「自分の部屋と間違えて開けてしまうだけだ」

「――はあ。言い出したら聞かないんだから」

 やれやれと肩を竦めてはいるが、この友人が乗り気なのはわかっている。それほどには、長い付き合いだった。

「だって気になるだろう? 占い師の正体、摑んでみせよう」

「好奇心旺盛もほどほどにね」


   ***


 放課後、シュカはいつもどおり占い師として活動していた。今日も今日とて恋愛相談が多数で、いい加減辟易としてしまう。まあ適当に云いくるめて金が手に入るとなれば悪いことではないのだが。

 夕方十八時を回ったころ、そろそろ店じまいかと相談者を待っているときに、事は起こった。

 廊下のほうが、俄に騒がしくなる。何事かと思いながらも水鏡から意識を逸らさないでいると――幻術には集中力を要するのだ――突如、部屋の扉が開いたのだ。

「ただいま、我が部屋に主が戻った!」 

「いや、わざとらしすぎでしょ」

 シュカは思わず振り返る。

 そこには、片手をドアノブにかけたユリウスの姿があった。

「は?」

 シュカは唖然としてそちらを見遣る。よく見ると彼の友人の姿もあり、状況が摑めない。

「おや、リンドウ君じゃないか。私の部屋でなにをしているんだい?」

 ユリウスが大仰に両の手を広げ、此方へ近づいてくる。

 いったい、なんだというのだ。

「その水盆――占い師が持っていたものと一緒だね。やはり君が占い師だったのか!」

 無表情は相変わらずで、しかし勝ち誇ったように目を輝かせるユリウスに、シュカはやっと状況を把握しはじめていた。

 つまり、占い師の正体を暴くため、疑わしいシュカ・リンドウの部屋にまで侵入してきたということだろう。

 そこまではわかった。それはよい。だが、それ以外が問題だった。

「ん、君、なんだかいつもと様子が違うような……あれ、目が金色だね。それになんだか身体が薄いような……」

 シュカは、日常生活において、自らの身体にさまざまな幻術を施していた。例えば金色の瞳だったり――体型を隠すためのものだったり。

 それらが、遠隔で幻術を使っていることにより疎かになっている。つまり――

「……、君、もしかして――女の子なのかい?」

 目や体型に誤魔化しが効かない。それはつまり、秘密を暴かれたことを意味していた。

「……あまりにも礼儀がなっていないのでは? 王族というものは、たいそうお偉い身分であらせられるのですね?」

 シュカは怒りを覆い隠す笑みを崩さず、ユリウスを非難する。

「すまない、まさかこんな秘密が隠されていただなんて、思っていなかったんだ。せいぜい占い師の正体が君であることの証拠を見つけたかっただけで……」

 なにやら云い訳をしているが、要するに、ひとの弱みを握って手下にでもしたかったのだろう。

「……それで、なにをお望みですか? 王位? すべてを見通せる“占い師”なら、貴方の望むものを与えられるかもしれませんね」

「王位になんて興味ないし、君のことも詮索するつもりはない。ただの好奇心だったんだ。ほんとうに、悪かったよ」

 そう語るユリウスの顔は至って真剣で、嘘を吐いている気配はなかった。しかし、あとからなにか要求されたらたまったものではない。

「交換条件を呑みましょう。僕の秘密を周囲に明かさない代わりに、貴方の願いを叶えましょう。さあ、考えてください」

「そんなこと云われても……」

 ユリウスは眉尻を下げる。ほんとうに困っているようだった。

「そうだな。それじゃあ、私の友人になってくれないかい?」

「……駒になれと?」

「そうじゃなくて。普通に、友達になりたい、君と」

 意味がわからなかった。なんでも云うことをきかせられる状況で、頼むことだろうか。

 ――余程、温室育ちなのだろう。

 シュカは、そう結論づけた。

「変わったひとですね」

「そんなに警戒しないで。ほんとうに、おもしろいと思ったんだ。俺のことはユーリって呼んでくれ。シュカでいい?」

「どうぞ、ご自由に」

「敬語もやめて」

「この喋り方が楽なのですよ」

「そう、じゃあしょうがないか。よろしくね、シュカ」

「どうぞよろしく、ユーリ。それで、そちらの方は?」

「あれま、気配を消してたと思ってたんだけど。オレも特に口外とかしないし、気にしなくていいよ」

「そうは云われましても」

「じゃあオレとも友達になって、ね? オレのことはディーって呼んで。はい、解決」

 ディーは、片目を閉じて此方を宥めにかかる。

 こちらはこちらで、腹の底の読めない男だ。シュカは警戒を深めた。

「そうだ、シュカ」

 ユリウス――ユーリが視線を合わせてくる。

「私のまえでは無理に笑わなくていい。私は、気にしないよ」

 シュカは内心動揺するが、それを露わにするようなへまはおかさない。

「……なんのことでしょう?」

「難しいならいいけどさ。――おっと、淑女の部屋にこんな時間までいるべきではないね。私たちは退散するとしよう」

「またね、シュカ君」

 ふたりは風のように去っていった。

 いったい、なんだというのだ。

 とりあえず平穏な学院生活が守られたと思ってよいのだろうか。しかし厄介ごとに巻き込まれる予感しかせず、シュカは人知れず嘆息したのだった。


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